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苦手なもの
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長いこと庭を見ようとしなかったから、思い出すのは数年ぶりかも知れない。
まず自分の身に何が起こったか分からず、全身のひりひりした痛みに顔をしかめた後で目を開いたら、肘やら膝やら、剥き出しの肌は擦り傷だらけだった。
普段ならその時点で泣き喚いていたが、その時は自分の怪我もそっちのけで、歩の姿を探した。
『あゆむ…?』
歩は俺よりもっと脚立から離れた、花壇の脇に倒れていた。
近寄って顔を覗き込んで、軽くパニックを起こした覚えがある。
ただ気を失っていただけならまだ落ち着けたかもしれないが、歩は花壇の枠の煉瓦に頭を打っていて、こめかみの辺りからの大量出血で顔半分も地面も血だらけだった。
『うあ、ああああああああ!あゆむ、あゆむううっ!!』
『どうしたの、今の大きな音――――歩!駆!』
脚立の倒れた音で目を覚ました母さんが駆けつけて、すぐに救急車を呼んだ。
その後は色々ありすぎてよく覚えていないけど、幸い歩の意識はすぐ戻ったし、頭部の怪我も出血はすごかったがたんこぶ程度で済んだ。
多分今までの人生では一番大きな事故だったと思う。
母さんは二人をちゃんと見てあげていなかったと言って泣き、父さんは脚立を出したままにした自分の責任だと言って泣き、カズ兄と二葉兄は二人が死ななくてよかったと言って泣き、俺と歩はごめんなさいと言って泣き、もうとにかく家族全員泣きまくった。
その日以来なんとなくびわが苦手になった。
びわの実自体は甘酸っぱくて好きだけど、この年になって今度は二葉兄への嫉妬心もびわへの苦手意識に加味されてる気がする。
きんかんの木が俺達双子の象徴なら、柳の木はカズ兄の、びわの木は二葉兄の象徴だから。
「お前には、とんだとばっちりだけどさ」
びわの木に寄りかかりながら呟く。
冷たい風に揺れた枝葉が、何か囁いている気がした。
「…何やってんの?」
ごみ出しから戻ってきた歩に変な目で見られるまで、しばらく木の下でぼんやりと立っていた。
「ちっ、……なんでもねーよ」
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