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遺影
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そんなだから、遺影選びの時には案の定難儀した。
何しろまともに笑った写真なんか皆無なんだから困る。
弟たちが寝静まった後でこっそりアルバムを開いていたら、母さんが起きてきた。
『一葉、どうしたの?』
『…親父のさ、笑った顔って、見たことないんだよな、俺』
『……』
母さんは黙って聞いていた。わけもなく涙が出てきて、23にもなって自分が情けないなと思った。
俺の横から、母さんがアルバムをめくって、最後のページを指した。
最後の家族写真の親父の顔は、やっぱり無愛想にしか見えなかった。
『母さんね、この写真撮った時、お父さんが本当に嬉しそうで、楽しかった』
母さんの顔を振り返ると、目の端が微かに潤んでいた。
やっぱり、何十年と連れ添った夫婦でないと分からないものがあるんだ。
母さんの言葉を聞いた後でもう一度見た親父の顔は、とても優しく見えた。
『お父さんがこんなに嬉しそうな顔したのは、多分…一葉が生まれた時以来かしら』
全然知らなかった。あの親父が、俺が生まれた時そんなに喜んだなんて。
そりゃあ子供が生まれて嬉しくないはずはないだろうが、二葉や歩や駆が生まれた時も『よく頑張ったな』と母さんと赤ちゃんを労わりはしても、笑顔にならなかった親父からは、とても想像できなかった。
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