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君は僕のシュークリーム
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人間には慣れがというものが存在する。
例えば、縄跳びが跳べない人が毎日縄跳びをすれば慣れて飛べるようになるだろうし、ダイエットなんかは1週間続ければ慣れて継続できるようになるともいう。人間は何かと慣れていくものなのだ。
人間というものはさらに記憶力にも優れている。注射は痛いもの、砂糖は甘いもの、梅干しは酸っぱいもの。
人間はある種で調教しやすいのである。
◇
「なあ、シュークリームが食べたい」
「はいはい、お望みのままに。俊介くん。」
学校の帰り道、唐突に俺がシュークリームが食べたくなってそう言い出したのをわざとらしく困った顔をしながら笑みを浮かべたその表情は温かい。
俺の隣にいる男、雅と俺は腐れ縁を超えるほど関係が長い。気がついた頃には雅は俺の隣にいて2人が離れたことは長いことないような気がする。雅という奴は雨の日も、晴れの日も、俺が大会で負けた時にだってどこからかふらりと現れていつの間にか俺の隣にいたっけ。お互いのことは大体知っているし、雅は俺の範囲をよく知っているから甘やかし方も丁度いい。
俺にとって雅は甘いお菓子みたいだ。あぁそう、シュークリームの中のクリーム。歯をたてると、うすい皮が破れて甘いクリームが口の中に広がる。その広がったクリームの甘味はずっと口の中に残り続けて次第に溶けていく。クリームはまるでアイツみたいだ。
相澤雅。"あいざわみやび"
名前の響きから綺麗な彼は、名を身体で表した様な男だった。中学の時までは俺と変わらない程の身長だったはずなのに、ここ何年かでいつの間にか俺の身長をぐんぐんと越え今や見上げなければいけなくなってしまっていた。それでいて大きくつぶらな瞳は少し垂れていて、その目の下には泣きボクロがついている。言わずとも知れる"整っている"分類になるのだろう...それだけで俺と雅の容姿には雲泥の差があることは明白だ。
というのもなんていったって俺は、雅とは真逆でつり目がちの目に、決して大きくない身長。取り柄と言ったら運動神経くらいだろうか。未だに共通の友人に男版"美女と野獣"だと言われるわ、クラスの女の子には「雅くんには釣り合わない」などと、漫画の中で女の子同士に使われるはずのテンプレートを言われる始末。その幾度頭を抱えた。
そんな俺もどうして雅と一緒にいられるのか不思議で堪らなかった時期があった。あの整った見た目で大層おモテになる雅。そんな雅の事が好きだと言ってきた女の子に協力をせがまれることはもはや通説で、その度に雅を突き放してみたり、避けたりしていたがいつの間にか雅は隣に戻っているし、雅のことを好きになったという女の子は"好きじゃない"と目を反らしながら言われることが多々あった。
もちろん本人に聞いたこともある。"俺といると幸せになれないかもしれないぞ?"そう聞いたときの雅は凄まじく綺麗な顔で"幸せだよ、死ぬほどね"そう言っていた。
「シュークリーム、本当に好きだね。俊介は。」
「おー。なんでだが俺も分かんないんだけどすげえ好きなんだよな。っていうか雅は?たべないのか?」
「俺はいいよ、俊介のみてるだけでお腹いっぱいだよ」
「そうか?じゃあ遠慮なく!」
大口をあけ、シュークリームを一口かじってクリームを吸い出した。
こう考えてみるとたしかになんでシュークリームがこんなに好きなのだろうか。たいして甘党でもないし、偏食なわけでもないけれどただ、シュークリームだけは別だった。
「(そうか...!)」
思えば雅といる時にしかシュークリームは食べていない気がする。喧嘩をした時だって、ごめんねと一緒にシュークリームを渡されたし、はじめてお泊まりした日も隠れてシュークリームをたべていたもんな。
「......雅のせいだ」
「俺?...なんかしたっけ?」
「まるで餌付けされてる気分、だ!」
「餌付け?じゃあ俺は親鳥、俊介は雛鳥かな?」
「雛鳥じゃねえ!」
「ふふ、俺の雛鳥か。いろんなものから守ってあげないとな、雛鳥のことは。」
無性にバカにされた気が否めず、シュークリームで汚れた手でわざと雅のカーディガンに触れると白いクリームのあとがつく。
「あっ!俊介!」
「あー雛鳥が汚しちまったなぁ!雛鳥はなんにもできねぇーからなあ!」
悪くないと子供がやるように顔を背けて大きな声でそう言った。これはさすがの雅でも怒るだろ。半ば勢いだったがクリームの汚れなんてよく洗わないととれないだろうしこれはかなり怒られるかもしれないと身構えていたが一向に怒声は聞こえず静かなままだ。
「雅...?おーい...怒らねぇの?」
「ふふ、怒らないよ。...それに俊介は何にもやらなくていい」
「は?汚れとれなくていいのかよ、白いあと消えなくなるぞ」
「うん。俺があとで消すからいいよ」
「...ッ!?」
わざと汚したにも関わらずそう嬉しそうにも恍惚したようにも聞こえる雅の声色がなんとなく違和感に感じて身体が一瞬凍ったような気がしたがその違和感もすぐに消える。俺の勘違いだろうか。雅の顔をみてもいつもの綺麗な顔のまま違和感なんて一切感じられない。雅を一瞬でも少し怖いと思ったなんて。
「(なんだったんだ...?)」
「さ、勉強するよ。俊介」
そう言われあわてて鞄から参考書とノートを広げ、雅から渡された俺専用のペンを借りた。もう色も剥げはじめたこのペンも雅が書きやすいからと俺専用にしてくれたものだ。...待てよ。やっぱり考えれば考えるほど、さっきの雛鳥も強ち間違いじゃないような気がするぞ。いつも俺のために色んなことをしてくれてダメ人間まっしぐらだが、思えばどんな時も雅が支えてくれてて俺の1番強い味方なんだアイツは。
「雅、なんかありがとな。」
「...え?なに突然?なんかやらかした?宿題のプリント忘れた?」
「違うわ!...いや、なんかな、いっつも雅が俺にいろんなことを教えてくれて支えてくれてるだろ?...だから、その...ありがとなーって思った...だけ。」
恥ずかしさを押し隠すように雅から顔を背けて視線を泳がす。雅はそんな俺をみて笑っていた。
雅が俺なんかとどうして一緒にいてくれるんだろうかと考えるといったが、俺自身、雅が好きだ。もちろんそれは友人としてだが。雅はどんな時も俺を肯定して、面白くないギャグを笑ってくれて一緒にいればいるほど"コイツは俺を裏切らない"そう言う確信が持てるほどには信頼しているのだ。
「なあ、俊介。聞きたいことがあるんだけど」
ノートを広げ参考書を進めていると不意に雅が俺に声をかけた。
「ん?どうした?」
「今日の昼休み、図書室でなにしてたの?」
「なっ...! 図書室にいたのかよ!誰もいないとおもってのに」
「なにしてたの?女もいたよね?」
「...あ、あぁ。告白された。突然、どうしたんだよ雅」
突然聞かれたことに驚きを隠せなかったが、それ以上に表情が感じられない雅に驚き息を飲んだ。表情は読めないのにまるで俺を追い込むような強者の目で俺をみてる。
図書室に行ったのは嘘でもなんでもない。朝、下駄箱の中に綺麗な便箋がはいっていてそれに『図書室にきてほしい』と書かれてあったから向かった。そしたら一人の女の子がいて...そして告白されただけだ。普通のことだろうと思っていたがハッと忘れた事実に気がつく。
「...雅、まさか...好きな女だったのか!?」
「...は?」
気がついてしまった雅の好きな子に、告白された...。なんという最悪な状況だ。それならばさっきの違和感の正体も頷ける。好きな子がとられればそれは厳しい顔になるわけだ。雅の行動に合点がいき、その場に正座をして、手を合わせた。
「悪い!...でも、俺はそんなことで雅と仲悪くなりたくねぇんだ...もちろん告白だって断った」
「...ふぅん?断ったんだ。」
「あぁ。」
「...そっか。ならいいんだ。でも最近、俊介がモテて俺妬けちゃうな」
そういうと雅はいつも通りの柔らかい笑みのまま困ったように眉をさげた。
「?何いってんだよ。雅はいつでもモテんだろ」
「そんなことないよ、俺は良いところなんてない」
「はあ?俺への侮辱かな?お前は顔も良いけど人柄もいいだろ。好きならないやつはいない」
「そうかな?...じゃあ俊介も俺を好きになる?」
「お、おう?好きになるだろうな」
「そっか」
時々子供っぽいんだよなぁ、俊介。
何を心配しているのか分からないが俺のこと好きかと聞いてくる。不安でもあるのかとも考えたけれど顔良し、性格良しの完璧男である雅に嫌われる要素がどこにあるのか。それでも不安になるのかも知れない、ただ俺にはそれを汲み取り理解することは難しい。
「...何を不安になってんかわかんねぇけど俺はどんな雅だっていい、だから...何かあったら言えよ」
「...うん。......じゃあ」
言い淀む雅をじっと見つめる。
「じゃあ...ヌクの手伝ってよ」
「は、はぁ!?おい、雅!さっきのはそういう流れじゃねぇだろ!何だよ!ヌクの手伝ってって!!」
「えー...だってほら流石にヤらせてって言うのも違うだろ」
「ちげぇーわ!」
頭を叩くとイテッ言いながら頭を擦った雅。
てっきり何か重たい相談がくるものだと思っていたが違ったようだ。ただの万年発情期。......とは言うものの俺も人並みにムラムラはする、が。ヌクの手伝ってイコール一緒に擦りあいを意味するのはわかっている。...なんせこれが初めてではないからだ。
「俺はしねぇぞ。」
「じゃあ見てる?」
「は、はぁ!?てめぇな...」
「雅...俺がやるの気持ち良くなかったか?...だから」
そう言って
また眉をさげると、困ったようにこちらをみた。わざとらしくそのまま視線を逸らさずじっと俺に目線を合わす。
「あーっ!てめぇその顔、辞めろ!雅のその顔みると断り辛くなんだよ!クソ!わざとだろ、ぜってぇーわざと!」
「そんなことないよ、でもどうして嫌なの?」
「......まだ聞くか」
「うん...。俺と俊介は友達だから、知りたい。」
友達だからとズルいところを出してくる雅を睨む。俺だって人並みに性欲はある。アダルトビデオをみたらそりゃあ反応するし、モノを擦ったらそりゃあ...気持ちいいさ。...気持ちいいはずなんだ。
「......だから...だよ」
「ごめん、良く聞こえない」
女をみたら勃ち、そそりたつ俺のモノ...。それでガツガツ中を叩いて身体を押し込む
...のはずなのに...。何を隠そう俺はモノは雅のせいで不全と化してきたのだ。
「お前のせいで勃たねぇし、自分やってもイけねぇーんだよ!!バカヤロゥ!!」
恥ずかしさのあまり不自然な程に大きな声でそう雅に訴えるとぽかんと口を開けて目を点にさせている。
「...お前とヌクとおかしくなんだよ。記憶はねぇーのに、目が覚めるとめちゃくちゃスッキリしてるし、最近じゃ一人でやるとものたんねぇ気までしてる!」
「.....」
「女をみても勃たねぇ!」
「プッ、ははははっ!!」
「おい!笑い事じゃねぇぞ!」
そう怒鳴ると笑うことは止めたが今度はそんなことを意に介さないと言ったように飄々とあっと良いこと思い付いたといい放ち、戸棚から黒いリボンを持ち出してほどいてリボンを手に手繰り寄せた。
「じゃあ今回はこれ使おう!目を隠して俺じゃなくて女の子に舐められてると思えば」
「...!!それがいい!!」
リボンを奪いとり目のまわりに一回ししてリボンを結う。真っ暗の視界の中で必死に理想の女の子を妄想することにした。そうと決まれば、服を脱いで全裸になると見えない視界のなか手探りでベッドに腰かけた。
「本当にいさぎいいよな...俊介」
「ん?だって雅は痛いことしないだろ。さあ、どこからでも」
「ん、わかった。」
◇
ちゅ、ちゅ、と雅が俺の太ももの付け根に執拗にキスをする音が部屋に響く。目隠しをしているからか次はどこに触れられるか分からず触られる度にぴくりと身体が震える。
「...雅、なんでキスばっかすんだ」
「俊介、ダメだろ?今は女の子にやられてるんでしょ」
「...っ」
そんなことを言っているが、雅は始まってから今の今まで俺のモノには直接触れていない。キスを繰り返し、たまに付け根を撫でるくらいだ。
「んっ...!」
「俊介、俺、触ってないよ?なのに...」
「言うなっ!」
「すっごい勃ってる」
自分で気がつかないふりをしていた事実を耳元で述べられ目を隠しているというのに恥ずかしさを紛らわせるようにキツく目を瞑る。下半身に熱が籠る。
「触ってほしい?」
「...ッ!キ、スすんな」
「このままキスだけでイく?」
「...ぁ、っ。」
限界だった、袋いっぱいに欲情が溜まり少しの衝撃で弾け飛び楽になるはずなのに雅はわざとらしく近くにキスを落とすだけで微量な快楽を永遠と続ける。足と足の間に雅がいるせいで膝が閉じられず唇を噛む。
「誰に、触ってもらいたい?クラスの子?それとも、告白してきた人?」
「あっ、もうッ...くっ、触って、お願い」
「誰に触ってほしいの?」
「雅ッ!雅に触ってほしい!!」
快楽に溺れかけ理性なんかかけらしか残っておらず雅に触ってもらうようそう懇願すると嬉しそうにワントーンあがったこえで何かを言っていたあとてっぺんを指で捻った。
「あああっ、くっ、あっ、」
触られた瞬間、びゅっと管に液が通っていく感覚のあと勢い良く吹き出したものは俺の精液だろう。はあ、はあと荒く息を吸って息を整えるが余韻に身体が震え雅の髪の毛を無意識に握る
「まっず」
「...な、舐めたのか!?」
「うん。だって俊介離してくれなかったし。」
「悪い!」
「大丈夫だよ。でももちろん俊介も同じことやってくれるよね?」
「え、あ...」
「心配いらないよ。こうすればまずくないからさ」
「は?なにしてんの?」
「こうしてっと」
「なあ...目隠しとっていいか?」
「ダメ。よし、できた。ほら、こっちきて」
そう言われ、腕をひかれると視界がないせいで体制を崩し雅に倒れこむ形で四つん這いになる。いてぇ、と声をあげると頭を撫でられた。
「俊介。水、飲も」
「んっ...」
唇を重ねられ隙をついて舌を捩じ込まれた。その瞬間、舌と共に水が口に流れる。
「んんっ!...ぷはっ、なに舌いれてんだよ」
「飲みたいと思って」
「いや、キスじゃねぇ飲み方あっただろ!」
「もっと飲む?」
「いらねぇ、ヤるぞ!早くお前をイかす!!」
「ん、よろしく。まずくないから頑張って舐めてね、俺のはここだよ」
動物を撫でるように首をなぞり顎を優しく捕まれ唇に雅のものが当たる。まずくないといったってそんなわけない、あの臭くて苦いものは変わらない、と恐る恐る舌先でチロチロと舐める。
「!?...雅、お前」
「なに味だ?」
「...シュークリーム...」
「正解。好きでしょ俊介。見えてないと思うけど俺のにべったり、舐めて?」
「あまっ...」
「んっ、そう。上手。」
必死に舌を動かしもう何が何だか分からなくなってきた。理性なんかとうにないし、自分はイかされた後だからか、眠気まで酷く感じる。視界がないから雅のモノを口から出さないようにしゃぶる。
「俊介、眠そうだね。けど、下は元気だ」
「...んん...はぁっ...」
「仕方ない、俊介からイきなよ」
眠い、気持ちい、そんな朦朧とするなかで雅がくれる快楽に身を委ねた。
「今回は効きすぎたかな」
「ああっ、そこ...違うよ!」
「ちがくない。お尻ほぐしとこうね、今後使うから」
「あッ」
「あ、ここだ。」
「イッちゃうイッ、お願い、」
「ん、いいよ。イきな」
ぐりっとお腹の中を抉られ一瞬で頭に血が昇る。ぞわりと快楽の波が俺を飲み込んだ。
「あぁあああっ!!」
「今回ははやいね」
「あっ...あぁっ、あ!」
「シュークリーム美味しかった?」
「...あっ、あぁ。」
「よかった」
びくびくと快楽を享受し力が抜けた身体を丸めて目を閉じた。その頃には記憶が朦朧で、ただ単純に気持ち良いだけだ。
「次は、全部僕のモノになるよ」
雅の声が子守唄に聞こえる。
こんな時だろうときっと優しい言葉をかけてくれているんだろうなそう思いながら意識を手放した。
◇
あれから雅はヌくのを手伝ってと言わなくなった。それに寄り道もしない。あの後も俺の身体は酷くスッキリしていたが、雅を気持ち良くできた記憶はない。また俺だけかとそう言うとそれでいいと笑っていた。
「...俊介。よろしくな」
「へ?」
「へ?じゃあねぇ!いま授業中、んでお前は先生の話を聞いていなかったから宮下と一緒にノート集めてもってこい」
「...!すんません!」
先生に言われるまで意識がなかったみたいだ。雅のことばかり考えてた。それが先生に見つかってしまいめんどくさいことに頼まれしまったとを今さら理解した。後ろ席の宮下さんは恐らくとばっちりだろう。雅も笑っていた。
授業が終わってすぐ、宮下さんにこれ以上迷惑をかけないようにみんなのノートを集めて宮下さんに声をかけた。
「本当に悪い!!」
「あ、いいよ。私も俊介くんと2人になりたかったし。いこう。」
「あぁ、おう!」
嫌な顔せずノートを半分抱えた宮下さんは足早に教室をでてしまい慌てて俺も追いかける。
「俊介手伝おうか?」
「大丈夫!雅は帰ってもいいぞ!じゃあな!ちょ、宮下さん、速い!」
ノートを抱えて先に行ってしまった宮下さんを追いかけ今度こそ教室を出た。
準備室は湿っぽく埃っぽい。
女の子をこんなとこにいさせるのは本当に申し訳ないが、先生も先生だ。準備室には先生はおらずその代わりにメモ書きに名簿にチェックよろしくまで書いてあるのをみつけて項垂れる。
「ごめん、宮下さん。俺一人でやるよ」
「大丈夫。......それより、聞きたいことあって」
「ん?どした?」
「..."まなみ"って知ってる?」
「まなみ?」
突然出された名前に覚えはない。名前からして女の子だろうけれど思い当たる節は頭を捻っても見つからない。
「ごめん。わからない」
「...やっぱり。あのさ、単刀直入にいうね相澤雅には気を付けた方がいいと思う。」
「へ?...雅?どうして」
「...俊介くんは、"ハロー効果"って知ってる?」
「あー...心理学だっけ?」
「そう、1つが良いことだと全部良いことだと思ってしまうみたいなことを指すんだけど」
「うん」
「相澤雅は、優しい?」
「うん?」
「本当にそうだと思う?」
「...え?どういう」
雅が優しいのは事実じゃないか。だって、俺のために色々してくれて色々教えてくれる。むしろ俺の方が雅の迷惑になっているような気がしているくらいだから。宮下さんが俺に何を答えてほしいのかわからない。名簿を書く手が止まる。
「"まなみ"に言われて気にしてたんだけど、やっぱり...!」
「「ッ!?」」
宮下さんがそう言おうとした瞬間に扉が乱暴に開かれ音の方向へと2人の視線が移動する。
「み、雅かぁ。」
「あれ、扉の立て付けよくなかったみたいだ。ごめんね。2人とも。俊介迎えにきた帰ろ」
「......相澤、雅。」
立っていたのは雅でいつものように優しい顔でわざわざ俺を迎えにきたらしい。あの乱暴に開かれたのはわざとじゃなかったらしい。立て付けが悪かっただけか。雅はぱらぱらとノートをみると素早く名簿にまとめて作業を終わらせてしまった。
「おいおい、俺と宮下さんが超苦労したやつを意図も簡単に終わらせやがって!クソ」
「ははは、ごめんって。先生は職員室らしいから俊介届けてきて。俺は宮下さんと片付けしてるからさ。...いいよね?宮下さん。」
「...え、ええ。」
「そう?あ、でも宮下さん話が」
「えっ、あ、あぁ。いいの...何でもないよ」
「んーわかった!じゃあちゃっと届けてくんな!」
「いってらっしゃい」
そういって手を振って方向を帰る瞬間にみえた宮下さんは酷く青白い顔をしていた。
俺が出たあとすぐに準備室から大きな音が聞こえ振り返ったが当て付けの悪い扉は閉じられ中は見えなかった。
◇
先生に物を届けて足早に準備室に戻って扉をあけると扉はカラカラと乾いた音と共に開かれる。中を覗くともう宮下さんはいない。雅はひとりで本を読んでいたらしく俺がはいってきたと同時に本を閉じて鞄にしまおうとしている。急いだものの宮下さんは帰り、雅をひとりにしてしまったかと思うと2人に申し訳ない。
「お待たせ。ごめんな」
「いいよ。帰ろう」
「おう!宮下さんは帰ったか。何か言ってた?」
「ん?あぁ、教えてあげただけだよ。俺は"サブリミナル効果だよ"って優しくね。そしたら"応援"してくれるってさ。」
「はあ?応援?心理学の?意味わかんねー」
「ふふ?とりあえず帰ろうか」
「お、おう?」
そう話す雅は何だかスゴく楽しそうだ。ニコニコとした表情は変わらないがまるでおもちゃを買ってもらえた子供のようにもみえる。
それをみてると俺も嬉しく思えてきて一緒になって笑いながら学校を出る
雅とは毎日のように顔を合わせるのに会話が尽きない。映画の話だとかテストの話だとかお互い止めることなく話すのが俺たちだ。苦痛なんてないし、嫌な所と言えば身長差があり少し見上げなければいけない所だろうか。誰もいない歩道は広いはずなのに男2人で並ぶと少し狭くも感じる。
「なあ、雅。宮下さんがな、"まなみ"って知ってるかって聞いてきたんだけど何か知ってる?」
「さあ?...俺に告白してきた人かな。どっちにしろ俊介には関係ないよ」
「おー。そっか。やっぱ雅はモテんなあ。」
「あのさ...俊介は俺のこと好き?」
「おう。好き。突然なんだ?」
「そうじゃなくて...!」
足を止め肩を並べていたところから雅が後ろへとずれたのをみて振り返ると雅は下を向き拳を震わせていま。慌てて近づくとわざとらしく顔を見せぬようにして苦しそうに息を飲んでいた。
「雅?」
「......好きなんだ」
その言葉は驚くほどにすんなりと心に馴染んだ。本気なのか
「...俺は」
正直に言えば返事はノーだ。
そもそも、同性の恋愛なんか上手くいきっこない。それは精神面ではなく肉体的にそして本能的に。人間は繁殖本能があるから自分の子供を産んでほしいと思うのが普通だ。だから、男同士で恋愛をしたって上手くいかないと思ってしまうのは普通だろう。
「分かってるよ、大丈夫。でも俺が好きでいちゃダメ?」
また悲しそうに笑っている。
好きでいちゃダメなんてことはない
「...ダメなことはないけど」
「じゃあ俺も本気だす。好きだよ、俊介。惚れさせる、んで俺から離れられないようにするから」
「っ!おい、抱きしめんなよ!」
いつの間にかすっぽりと抱かれて背中に腕を回され耳元で囁かれた言葉にぞくりとする。
男同士の恋愛、それも雅と、か。
「雅だと浮気したら殺されそうだよな」
「はは、殺さないよ。浮気なんかさせないから」
背中の雅の手が優しく動くとぞわぞわと身体が熱くなる。
「おい?」
「ねぇ、俊介。シュークリーム食べない?」
「...ッ、シュークリーム?」
雅からシュークリームと言われた時、ドクンと心拍数がはやまりなぜか身体が欲情していくのが分かって息を吐いた。
身体がおかしいシュークリームなんか、食べ物だろ。
「俺もシュークリーム、今日全部食べるよ。」
「...お、おう」
心臓がトクトクと速い鼓動を刻む。
「あっそうだ。俊介、久しぶりにヌく手伝ってくれないか?」
いつもなら最初こそ断るその言葉に今は俺の熱が燻りはじめていく。抱きしめられながら触られている場所が熱い。
「俺、俊介のこと好きだから触りすぎるかもしれないけど、俊介が気持ち良くならなかったらすぐ止めるから。」
「...本当に?」
「本当。もし気持ち良くなかったらすぐやめるよ─俊介が大好きだからね」
頭がくらくらしてる。
触られてもいないのに、身体は酷く疼きはじめ雅の言葉は甘く俺の中に沈みこんでいくのだった。
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