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通勤電車
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真琴は目を覚ます。そして、ぼーっと時計に目をやると、朝の6時であることを知り、起き上がろうとする。
「ん…あれ……ん、…」
起き上がれない。というか…重い。
まだ寝起きで呆然とした意識が、次第にはっきりと冴えてきたとき、真琴の心臓がドキンと跳ね上がった。
「西園寺さん…」
真琴の身体の上に西園寺が倒れ込んで寝息を立てていた。普段の眉間にシワを寄せて、自分を欲情した鋭い目つきで見つめる男の顔ではない西園寺。無防備に安心した顔を真琴に見せ続ける。
可愛い…
真琴は恐る恐る、西園寺の髪の毛に指を這わせて遊ばせる。
「んー…」
西園寺の寝言に真琴はビクンと驚き、とっさに手を離して寝たフリをする。しばらくしても西園寺が起きることはない。再び西園寺の頬に触れてみる。
陶器のようにきめの細かい肌、整った顔立ち。その全てに見惚れてしまう。そしてその頬に唇を当て付ける。
「西園寺さん…ん…」
吸い付きたい…貴方の全てに…この瞼も、耳の中にだって舌を入れてみたい…貴方を味わいたいのに…
そう思うが、西園寺への恐怖からスタンプのように何度も唇を押し付けることしかできない。次第に物足りなくなる。そしてついに西園寺の唇に舌を這わせる。
「ン…ふぅ、はぷ…」
俺…悪い子だ…こんな事して…
頭の中に罪悪感が押し寄せる。しかし、自分を昨晩獣のように抱き潰した相手に、これほど傲慢にキスができるこの状況に背徳感もあった。その感情のギャップが真琴の食指を進ませる。
「西園寺さん……ん…すき……」
言ってみただけだ。…本当に伝える気はない。
でも唇が勝手に動く。
「愛してます……西園寺さん…んん…」
西園寺の開いた唇の隙間に舌をゆっくりと押し付ける。西園寺の白い歯に触れ、歯列をなぞる。
「んー…はぁ、…」
西園寺は唇がくすぐったいのか、顔を背ける。そして、不意を突かれた真琴を両腕で抱える。
「ひゃあっ…」
西園寺はまだ眠っていた。しかし、寝言を真琴の耳元で呟く。
「愛してる……お前を。…なのに……」
西園寺は真琴に顔を擦り付ける。獰猛な猛獣に甘えられた気分だった。身体の強張りが解けないまま、こころが徐々に溶かされていく。
「西園寺さ…」
「なのに……どうして俺を選ばなかった…」
真琴は目を見開く。そして息を潜めた。
「—————かえで…」
西園寺がゆっくりと目を開く。起き上がり、頭を抱える。
「俺…はぁー…またか。嫌な夢だ。」
自分の横では、真琴が目を閉じてスースーと寝息をたてていた。自分の話を聞かれていない。そう安心した。
「おはよう。…妃。」
西園寺は真琴の額にキスを落とす。
「お前は…お前だけは………俺を…」
真琴の身体がスッと冷たくなった。そして玄関の扉がバタンと閉じて、部屋がシンと静かになった。
真琴は目を開けて時計を見た。7時だ。真琴は額を愛しそうに撫でる。
分かってた。…俺は……やっぱりお人形なんだ…あの人にとって…
一時の愛情を注がれて使い捨てされる哀れな道化……
「父さんの…代わり……」
真琴はスーツに着替えて部屋を出た。真琴のスマホには美琴からの不在着信が何件も掛かっていたが、真琴はそれに気づかない。
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