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手にずっしりと感じるそれをじっと見つめた後、育ての親を見上げると、彼はティトルの頭に手を乗せて、それはお前が稼いだお金なんだぞ、と笑ったのだった。
自分の書いた小説は、誰かに読んでもらうために書いたものではなかった。褒められたのは嬉しかったけれど、どうしようもなく湧きあがってくる創作意欲の矛先が小説だっただけで、それは人に読ませるために作られたものではない。
ティトルはそれがお金になったことを嬉しいとは思えなかったけれど、彼がすごく誇らしそうに笑うのを見て、小説がお金になることは喜ばしいことなのだと理解した。
彼が森で暮らしていたうちは、彼を介して信頼できる本屋に小説を売っていたのだが、それがなくなってからはティトルが自ら本屋に出向き、小説を買い取ってもらっていた。本屋の店主は無口だが気のいい男で、人と関わることが苦手なティトルにとっては、ちょうどいい距離感を保てる存在だった。
前に一度、店主から無言で、小説の大会の募集要項が書かれた紙を渡され、言葉を交わさずして応募することを薦められたことがあった。ティトルには、小説の優劣を大会で決めることに意味があるとは思えなかったし、賞金にも興味がなかったので応募する気はなかった。
しかし、募集していた小説のテーマの「冒険」という言葉を見たとき、当時世界の色んな文化や暮らしについての本を読むのにはまっていたティトルは創作意欲をかきたてられ、わずか二週間で短編の小説を一本書き上げた。
応募するつもりはなかったが、冒険をテーマにした小説を書くのはとても楽しかった。ティトルはいつものように買い取ってもらうつもりで、店主に小説を渡したのだが、いつの間にかそれは店主の手によってティトルの作品として大会に出されており、初参加で佳作に入賞し、賞金を得るという結果を残した。
買い取りの金額を受け取りに顔を出したティトルが、その金額の多さに目を少し見開き、無言で店主の顔を見つめると、店主はまた無言で、入賞の報せが書いてある紙をティトルの前にすっと差し出したのだった。
なぜ店主が大会に作品を出したのか、ティトルには図りかねて首を傾げたが、お金があって困るものではないなと思い、丁寧に受け取って頭を下げた後、店を去った。
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