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隊員はレオンの問いに、いいえ、と首を横に振った。
「あの森は精霊の守護がこの世界のどこよりも強いみたいで…おれたち、じゃなくて、私たちのもっと先輩の代が、何度も森に入ったことがあったらしいんですが…あ、先日引退したガルダーラ元隊長が、隊長に就任したばかりの頃だったはずです」
それを聞いたレオンは、隊員を引き連れて、勇ましく精霊の森へと向かうベテラン元隊長の姿を思い浮かべ、口元を緩める。
「でもやっぱり、方向感覚を失っていつの間にか迷っていて、しばらくさまよった後に、気付いたら入口まで戻っている、みたいなことが何度も続いたらしくて。あのガルダーラ元隊長でさえ、その後森に入るのは諦めたと聞いています」
「ほう…」
歴史書で何度か目にしたことはあったが、精霊の森は別名「迷いの森」とも呼ばれている。森に入れば精霊の力で惑わされ、入った人間が疲弊しきった頃に、入口まで戻されているのだという。
それはまるで精霊がいたずらに遊ぶように、と比喩した者もいた。森の景色は美しく、方向感覚を失ってしまうほどに一面緑が広がっているという。
精霊に遊ばれている、というのはあながち間違いではないのかもしれないとレオンが思ったのは、森の中で大切な物を落とした人間が肩を落として帰ると、翌日、家の前にその落とし物が届けられていた、という実話を読んだことがあったからだ。
つまり、その森で人間たちを迷わせている存在…精霊なのか、もっと人為的なものなのかはわからないが、森に迷い込んだ人間たちから物を略奪したり、そのまま森の中に閉じ込めて飢えさせたりするつもりはないということだ。あまつさえ落とし物をわざわざ落とし主のところに届けるなど、悪さをしている人間の仕業だとしたら、あまりにも親切すぎる。
「さほど危険視する必要はなさそうだが…近々、俺と警備隊数人で森の様子を探りに行くことにする。すまないが、自分の目で見ないと信じられない性分でな」
「あっ、勿論お供します!精霊守の姿も見ることが出来たら、祠でのやりとりも安心できますし…どんな存在なのか私も気になるし」
レオンからの思わぬ提案に、見るからにワクワクしている隊員に微苦笑し、やんわりとたしなめる。
「彼らが俺たちの前に姿を現さない理由は、本人たちにしか分からないことだ。しかし、自分勝手な気持ちでその姿を見たいと願っていい存在ではないはずだぞ。
精霊守を目で見て確かめることができなくても、その森がリンドールに暮らす人々に危険を及ぼすものでないことが分かれば、それでいいんだ」
「あ…そうか。そうですよね。軽はずみな発言でした。申し訳ありません」
眉をハの字にして頭を下げる隊員に、構わない、と手を振って頭を上げさせる。レオンは幼い頃から読書を好み、中でも歴史書を気に入って愛読していたため、この世界の戦争が過去、何によって引き起こされたかなどについても詳しかった。
勿論その中で、精霊守の力を欲した者たちがいたことや、その力の恩恵が偏ることを恐れた者たちがいたということも、知識として知っている。そしてそれが、争いの種になってしまったことも。
しかし、精霊守という存在が人間と関わらなくなってから幾年。その史実を知らない今の人々が素直な感情として、精霊守という存在を目にしてみたいと思うのは、仕方のないことだとも思う。
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