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そうした史実があることを隊員たちに教えてやっても良かったのだが、その史実は、精霊守が今現在姿を隠している理由を説明できる反面、精霊守の力を悪用することができる、という可能性を教えてしまうことにもなる。
だから、そうした可能性を知らずにいられるなら、その方がいい。レオンはそう判断し、伝えることをやめた。
その日は隊員たちの性格や思考を知るために交流をメインに、一日を終えた。終礼の時間になり、レオンはリンドール警備隊約三十名の前に立つ。
「今日一日、君たちの訓練の様子を見させてもらい、職務についての話を聞くことができて良かった。明日からは俺も訓練指揮に加わらせてもらうことになるが、あまり身構えなくていい」
人々を守るという立場は同じだからな、とレオンが言うと、数人の隊員たちがレオンを尊敬の眼差しで見つめながら頷く。
最初はガチガチに緊張していた隊員たちも大分慣れてきたようで、程よい緊張感の中でレオンの話が進んでいく。
「まだあまり話せていない者もいるが、君たちと話していて思ったことは、君たちがとても、心根の優しい人間だということだ。それは人を守る立場の俺たちにとって、必要な素質であることに間違いない。そうした『心』の部分を育てるのは、そう簡単なことではない。胸を張って、誇っていい」
騎士団長という、いくつもの警備隊を束ねる立場のレオンから、思わぬ褒め言葉をもらった隊員たちの中には、その言葉に誇らし気に胸を張る者もいた。レオンはそこで、しかし、と声色を一層鋭く、厳しくする。
「優しい心根をもった者が、必ず人を守れるわけではない。人を、弱きを守るには、優しい心を真に持ち、己に厳しく、現場では正しい判断をし、悪しきを裁かねばならない。
そして、その悪しきは時に、誰かの家族であったり、誰かの大切な人であったりもする。それを裁くということが、君たちに辛い決断を迫ることも、この先あるだろう」
レオンも実際、数々の現場でそうした決断に迫られ、苦しい思いをしたことが何度もあった。昇進を重ねて、晴れて騎士団長という立場になったことで、より多くの問題に直面し、その責任も重さを増していった。
しかし、どんなに辛いことがあっても、この仕事は誇るべきものなのだと、隊員たちに伝えたかった。
「善人も悪人も、そう分類される前は等しく、『人』だ。俺たちは、このリンドールの街の人々が、これから先もずっと平和で過ごせるように、この街が『悪人』を生まないように、『人』を守っていく必要がある」
それは、今まで人が悪さをした時に対処するだけの警備をしていた者たちにとっては、考え方の根本を改めさせられる言葉だった。
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