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ティトルはその日、精霊の森の奥深く、精霊樹の近くにある泉の傍に座って本を読んでいた。晴れた日はこうして、木漏れ日の中で読書するのがティトルの日常だった。
今日読んでいるのは小説で、近頃ティトルが気に入っているミステリーものだった。小説の中に出てくる数々の謎と、散りばめられた様々な布石。それらが小説の終盤で見事に回収された時の、何とも言えない気持ちよさにティトルはすっかり魅了されていた。
次に書くのはミステリーにしよう、と密かに決意して、最近は様々な作家のミステリー小説を読み漁っている。
今読んでいるミステリー作家の小説は、総じて謎解きの難易度が高いものばかりだった。ティトルはまず自分自身で謎解きをしてみようと、何度も何度も、それまで読んだ部分を読み返しながら、じっと頭を悩ませる。
すると、思考の海に沈んでいたティトルの耳に突然、ジャリ、という地面を踏みしめる音が飛び込んできて、ティトルは勢いよく音のした方へと振り向いた。
森にいる動物が入ってきてしまったのか、と思っていたが、視線の先には、驚いたような表情でこちらを見つめる、見慣れた一人の男が立っていた。水鏡でここのところ毎日見ていた、あの男だった。水鏡を通して見ていたときよりも、よほど立体感と存在感をもって、十メートルほど離れたそこに立っている。
ティトルは二十年以上精霊の森で暮らしてきたが、こんなことは初めてだった。人間、驚きすぎると反応できないものだと何かで読んだ覚えがあるが、まさに今、それを体感していた。
呼吸を忘れるほど、今まで読んでいた本の内容をすっかり忘れてしまうほどの驚きで、数秒の間、こちらを見つめる紫がかった黒い瞳を、静かに見つめ返していた。
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