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「俺、実はゲームのキャラクターなんだ」
「は?」
高校に入ってからの友人、優人(ゆうと)は、知り合ってから丁度一年くらい経ったある日の昼休み、不意にそんなことを宣った。
「陽樹(はるき)、ギャルゲーってやったこと有る?」
「奇遇だな。昨日やったばかりだ」
と言うか、お前は昨日もうちに泊まりに来ていたんだから見ていただろう。とか、むしろ俺の話題の八割方はそれだろう。とか突っ込みたくなったが、その前に優人の突飛な発言と今の質問がリンクして俺は言葉を止めた。
つまりこいつは自分のことをギャルゲーのキャラクターだと言いたいのか?
昼飯を食い終わり、動くのはタルいが暇には違いない俺は、優人の妄言に少し付き合うことにした。
エイプリルフールでもないこんな日に吐く嘘の落とし所が気になったのもある。
まぁ俺が暇しているのだから、一緒につるんでいる優人も暇だったのだろう。
時間潰しでしかない与太話なんてオチはあまり期待しない方が良いのだろうけど。
「ギャルゲー…の、主人公?」
折角なので俺は話を合わせて、優人のポジションを当てにいった。
そもそもギャルゲーは女キャラがメインなのだから、当然男キャラの候補は少ない。
これが乙ゲーなら話は別だろうが…ないな。
まだ優人から「ギャルゲーの」キャラだと肯定こそされていないが、こいつは攻略キャラ面ではない。
俺が心穏やかに友人していられる正真正銘のフツメンだ。
それに乙ゲーにいがちな優しくて気も回る爽やかな奴だがお兄さんタイプとは違うだろう。
ただただ良い奴。それに尽きる奴だ。
因みに語弊の無いように弁解しておくと、ギャルゲーは嗜むが乙ゲーは知らん。
姉ちゃんの管轄だから多少知識があるだけだ。
「俺が?ハハッ、主人公なわけないじゃん!」
何がおかしいのか俺の決め打ちはケラケラ笑って否定された。
まぁギャルゲーのキャラクターって所は合っているようだ。
「主人公ってのはプレイヤーなわけよ。つまりはこっちの世界の人間。ゲームのキャラってのとはちょっと違うかな」
「はぁ…」
こっちとかあっちとか言われても俺には生返事しか返せない。
もうちょっとノリが良い方が話していて楽しいのかな。なんて反省をしたこともあるが、俺はこれが平常運転だ。
交遊関係の狭さの原因でもあるわけだから、気にする様子のない優人相手の時でもたまに申し訳なくはなる。
が、俺の感情と気力はギャルゲーのためにある。
これは譲れない。
つか、なんつーか、お前、結構設定作り込んで来てたりする?
適当に「当たりー」って言って喜ばせるサービス精神は無いんだな。
「ギャルゲーっつーと大体俺っぽい奴出てくるっしょ?ほらほら」
「えー…」
俺が当てに行ってしまったせいか、知らぬ間に優人の正体がクイズ型式になってしまった。
正直めんどくさい。
ゲームキャラならゲームキャラらしく回答は選択制にしろよ。
「まさか攻略相手…じゃないよな」
よもやギャルがメンズになってはいないだろう。
これは俺の願望も込められている。
正体がヒロインなら女子のまま俺に出逢ってリアル攻略させてくれ。
わざわざ男になられるメリットがない。
勿論優人本人をディスっているわけではない。
こいつは普通に良い友人だ。
「じゃ、サポートキャラ?」
主人公と攻略対象を除けば、残った大体出てくる奴なんてそれくらいしか思い付かなかった。
「ピンポーン!さっすが陽樹、冴えてるな!」
「いや、結構簡単だろ」
どうやら当てることができたようだ。
サポートキャラと言うと主人公の親友で、ヒロインの情報を教えてくれたり何かと手助けしてくれるポジションの存在だ。
確かにゲームをしていると大体出てくる。
確かに優人の人の良さは主人公よりもそっちの方がしっくり来るな。
ただ、リアルはともかくゲームの親友は便利機能程度にしか見ていなかったから、キャラクターとして思い出すのに時間がかかってしまった。
「陽樹って、めんどくさ!て顔に出てるくせに何だかんだ真面目に考えてくれちゃ うから好きだわー」
「そりゃどーも」
喜ばれているようだから良いのだが、顔に出てるのか。そうか、気を付けないとな。
俺は自分の顔を触りマジか。と項垂れた。
むしろ優人は姉ちゃんが好きなヤンデレキャラの猫かぶり並みにいつもにこにこしているんだよな。
喜怒哀楽が読めない分、実は「何こいつ」くらいに思われていたら恐いわ。
そんな奴じゃないって信じてるけど。
「お前ってさー、興味無い子から順番に全員とハッピーエンド迎えて更にはハーレムエンドも美味しくいただくプレイボーイな奴じゃん?」
「それがリアルだったらどんなに良かったか。」
優人は悪い奴じゃないが、もう少し周りを気にして欲しいことはある。
今の話が中途半端に聞こえたら俺、現実で女食い荒らしてるヤバイ奴みたいな内容じゃん。
そんなもん普通の声のトーンで話すな。
クラスの連中に聞こえたら気まずいし、リアルとのギャップで悲しくなるから。
「俺はサポートしながら次々陽樹が攻略するヒロインを見てて、良いなー。て思ったわけよ」
「は?」
俺の焦りは露知らず、優人は話を続ける。
家に来ても俺がするゲームに口出しをして来たことはない優人。
だからサポートの意味が一瞬わからなかったが、優人は今「ゲームのキャラ目線」の頃の話をしていると言うことか。
つまりはサポートキャラが、主人公がヒロインを攻略する様を見て「良いなー」と思っていたと。
うーん。
その気持ちは分からなくもない。
同じ男として、隣にいるモテ男を羨まないわけがない。
俺ならば親友なんてやってらんない。
少なくとも献身的に人の恋路を手助けするような奉仕精神は持ち合わせていない。
…。
何俺真面目に親友キャラの気持ちになってんだろ。
優人が地味に「自分はキャラクター」て設定を維持するのがいけない。
そのせいで俺までその気になってしまうんだ。
「ほらあれ、"咲く恋~百々(もも)のつぼみ達~"て覚えてる?」
「モチ。あれは神だった」
昼休みは案外長く、教室移動も無い俺達の話は途切れなかった。
咲く恋。それは俺がトップクラスで気に入っていたタイトルだ。
百々と言っても攻略対象が本当に百人単位で出てくることは流石になかったが、それでも一般的なギャルゲーに比べて人数が多いのは特徴に挙げられる。
しかも作画は綺麗だし、どのルートもハズレ無しの奇跡のクオリティだった。
その分値段はアレだったが。
当時中学生でバイトもできない俺は広告で一目惚れして、クリア済みのゲームを売ったり小遣いの節約をしたりしてどうにか手に入れた記憶が今でも鮮明に残っている。
あれは人数が多いから普通にエンド回収するだけでも時間がかかるのに、別キャラとの交錯するストーリーを考察するため、或いはただ気に入ったルートをまたやりたくて何周もした。
親友キャラは平凡な容姿のせいか記憶に無いが…全ルート回収するために結構利用したな。
そう言えばずっと笑顔で対応していた気はする。
まぁ、攻略対象じゃあるまいし好感度云々言って不機嫌になる要素もなかったわけだが。
ヒロインの挙動に要領を割くために表情パターンケチられたのかな。とか思った記憶が有ったような無かったような。
高校受験でゲームに割ける時間が減ったタイミングでそのまま後回しにしていた他のタイトルに移行して以来プレイはしていない。
思い出したらまたやりたくなってきた。
「で?何でゲームん中から出来られたわけ?」
「さぁ?」
俺のギャルゲー魂に火を付けておいて、肝心の部分は作り込みが甘かった。
くそぅ。
現実でも俺の彼女作りに協力してくれるとか無いのか。
ゲームから出て来られるなら入ることだってできるかもしれないのに。
今の俺ならどんな阿呆な条件でも真顔でやって見せる意気込みだったのに。
そういや主人公が羨ましいって言ってたな。
まさか協力どころか、自分の恋人作りに出て来たとか言い出す気か?
俺は狭量コミュ障だからサポートなんてしないぞ。
「想いが強すぎたんだろうな」
優人のそんな言葉で小綺麗にまとめられた時間潰しは、タイミングの良い予鈴で締め括られた。
想いの強さなら俺だって負けてないっての!
…………
……………………
その夜、俺は帰って即行咲く恋をプレイした。
いや、しようとした。
できなかったのだ。エラーが出て。
ディスクに傷は見当たらないし、ゲーム機本体は他のタイトルなら正常に読み込める。
放置しすぎてグレたのか?なんて笑ってみたところで直る兆しは無かった。
「そりゃお前、俺がこっちに出てきちゃってんだから無理っしょ」
「はぁ?」
翌朝、残念この上ない感情を引きずり登校し、優人に近況報告したら当たり前のようにそんな言葉が帰ってきた。
「じゃあさっさとゲームに帰れ。今すぐ俺に咲く恋やらせろ。小梅ちゃんに会わせろ。桜先輩にナデナデしてもらわせろーっ!」
「陽樹、声でかいよ」
つい感情的になったら真顔の優人から注意されてしまった。解せん。
「俺だって自由に行き来できるわけじゃないんだよ。…それにほら、もっとお前とこうして話したいじゃん?」
「…」
ゲームができないと嘆く俺を前にまだその設定を引きずるのか。と恨みがましく睨んでみたが、優人は苦笑いするばかり。
その反応がやけにリアルで、本当にゲームのキャラだって言われているみたいだった。
てか、そんな甘い台詞はイケメンが女子に囁いて「キャーッ」て言ってもらうためのものだ。
あるいはクールビューティー椿生徒会長のデレワードか。
それを日常生活でさらっと言えるなんてちょっと引くぞ。
まさか女子をそうやってたぶらかしてんじゃ無いだろうな。
お前はお一人様の同志だろう!?
でもまぁ、友達としては普通に嬉しい。
「ってもあれ買い直すのはなぁ…プレミア付いて更に高騰してるし…高校生の財布じゃひっくり返しても手が出せない…」
「まぁまぁ。一週間くらい待ってみろよ。ひょっこり直ってるかも知んねーじゃん」
「?まぁ、そうだな…原因不明だし、接続の加減で動くかも」
朝っぱらから陰鬱な空気を撒き散らしていた俺は、優人に慰められるままどうにか立ち直ったのだった。
それから数日。
相変わらず咲く恋ができないまま、一週間が経とうとしている。
だが、他のギャルゲーは普通に遊べるから、特別日常が変化したわけではない。
強いて言うなら、あれ以降優人が咲く恋のキャラです主張をしてくることは無かったな。
気を使わせてしまっただろうか。
それに、放課後になったらうちに遊びに来ることが多くなった。
優人は相変わらず俺がゲームをしている背後で適当にその辺のゲーム雑誌を読んだりスマホ弄ったりしている。
放置してゲームに没頭しておいて言えたもんじゃないが、お前はそれで良いのか。と思わなくもない。俺は気楽で良いんだけど。
画面の中の栗色の髪の子に、何作か前の同じ属性の子と同じような選択肢を選んでいく。
同社作品だが分岐が類似しすぎだ。
ニーズに応えているというよりも、これではただの使い回しじゃないか。
勿論女の子に罪はないし、この子はこの子で可愛いのでしっかり攻略させてもらうが。
そんな安直な分岐は考察するまでもなく、使い道のない思考は優人のことに向いた。
優人が初めてうちに来た切っ掛けは俺がやるギャルゲーに興味を示したからだったが、だからと言って観賞するわけでも、口出しするわけでも、自分もやってみたいと言い出すわけでもない。
しかし逆に俺をゲームから引き離そうともしない。
今思うと、まるで初めからゲームに興味が無かったみたいだ。
でもそれならこんなつまらない奴の家に嘘を吐いてまで来る意味が分からない。
優人が家に来るようになってから何度か沸いた疑問だが、優人は自分の家の話をしないし、帰る時間もまちまち。
だから途中から俺は、家の事情で帰りづらいのかな。と考察していた。
結果、切り込みづらくて真相は謎のまま今に至っている。
黙っていても気まずくならない貴重な存在だが、話しかけたからって嫌な顔ひとつせず対応してくれる。
優人から話しかけてくる時も、ゲームのイベント真っ只中なんてことはなく、良いタイミングで割り込んでくることが多かった。
あまりにも何気無さすぎて、優人が遊びに来ていない日に画面を見ながら延々と話しかけているつもりになっていた時は流石に恥ずかしかったくらいだ。
だからもし本当にうちに来るのが単なる避難所兼時間潰しならそれはそれで構わない、いくらでも遊びに来てくれれば良い。と思ってたりする。
そこそこ遅い時間まで家にいることだってあるんだし、いっそ今度は泊まって行くか提案してみるか。
で、たまには二人でできるゲームにでも誘ってみよう。
多くはないが、姉ちゃんに付き合わされていた対戦系のゲームもギャルゲーに紛れて並んでいることだし。
と、俺にしては珍しく。むしろ初めてと言っても過言ではない現実の人間との交流について思案していたら。
「俺、帰らなきゃ」
次の日の放課後、出鼻を挫くようにここ最近連日家に来ていた優人に直帰の話を持ち出された。
なにも今日じゃなくても。なんて内心ぼやいてみたものの、ゲームで培ったアクシデントへの耐性のお陰で冷静でいられる。
そうだ。ここ一週間の方が特殊だったのだ。
そろそろ俺ん家に寄って行かない日があってもおかしくはない。
いつもは「帰る」なんてわざわざ進言して来ないが、それだって暗黙の了解みたいに家に来ていたから、今日だって来ると疑っていなかった俺のためだ。
なにもおかしなことはない。
何故か言い分け染みた理由を並べる俺。
何故か、そう何故かイヤな予感がしたのだ。
それがなんなのか明確な言葉にはできないけれど。
「陽樹も咲く恋、やりたいだろ?じゃ、」
何故か異様なまでにあっさりと一人で帰ろうとする優人。
ここはまだ教室だ。
それに途中までは同じ道だろう?
そもそも何故咲く恋がプレイできる風の言い回しなんだよ。
ここ一週間、やってないのは壊れててできないからだって。
「優…っ!」
「ごめん、時間切れみたいなんだ。早く帰らないと。帰りたくなくなる」
ハハ、と力なく笑う優人は誰がどう見ても辛そうで、今にも夕陽に溶けて消えてしまいそうだった。
単に家に帰るだけだろう?
何でそんな今生の別れみたいな大それた雰囲気出してんだよ。
「またな」
「え…あ、」
片手を挙げた優人が扉をくぐり廊下に出る。
慌てて俺も後を追ったのに、廊下にはもう、優人の姿は無かった。
その日の夜、俺はゲーム画面に向かっていた。
優人の予言通り咲く恋がちゃんとスタートしたのだ。
ずっとやりたかったのもあるが、何より何かしていないと優人への違和感が拭えなかった。
明日、学校であいつに会ったら変な別れ方するなと強めに言っておこう。
ゲーム脳のせいで変なフラグと勘違いして気が気じゃなくなってしまうと。
『遅かったな!何してたんだよっ』
「…あー」
適当にゲームをスタートしたら暫くして親友キャラが登場した。
確かに制服こそ違うが、髪色とか顔立ちとか似ている気がする。
そう言えば名前、「ユート」って書いてあるな。
こんなそっくりさん、よく見つけてきたもんだ。
確かに優人とユートが同一人物だと言われたら信じてしまうかもしれない。
あれかな、関係者に知り合いがいてキャラのモデルをしたとか。
良いな。そしたら製作現場とか行ったことも有るのかな。
何十回と繰り返した推しのルートはもう完コピできるほど覚えている。
でもユートのことは全然覚えてないな。
こんな登場シーンだっただろうか。
このヒロインのルートのみならず、全ルートに出てきてある意味一番近くにいたキャラなのに。
優人のことがダブって本当の親友みたいな感覚になっている今、俺が薄情な奴みたいな感じだ。
『アハハ、そんなこと無いって!…ほら行けよ。彼女、待ってんだろ?』
告白イベント直前、ユートの最後の登場シーンだ。
後は主人公とヒロインの独占場。
「…」
当たり前にクリアした俺は興が削げ、久々のハッピーエンドイベントすら見ないでゲームの電源を切った。
次の日。
優人は学校に来なかった。
先生からの説明は特になし。聞ける友人もなし。
優人の席も無くなっていたけれど、驚かなかった。
「あー、やっぱりなー」程度にしか思えなかった。
中学ぶりのぼっち生活をつまらなく過ごした俺は足早に家に帰った。
帰って咲く恋をした。
やっぱりちゃんと起動して、やっぱり最後まで見ないで電源を切った。
更に次の日。
今日も優人は登校しなかった。
咲く恋も変わらない。
次も、次も次も次の日も。
優人がいない日常が定着させられそうになっていた。
「どこ行ってんだよ優人」
引越か?なんて聞いても力無さすぎて部屋に反響すらしない。
目の前に居るのはユート。
ここ数日は分かりきった攻略ヒントばかり繰り返し聞いている。
ヒロインと違いボイスは無い。
その分優人の声で勝手に脳内再生されて、ユートがますます優人みたいになった。
ヒロイン達と同じ絵師さんの綺麗な作画のせいか、よく見るとフツメン、と言うには整った綺麗な顔だな。
このキャラとはヒロインについての話しかできない。
ヒロインみたいに好感度を上げるためのイベントも発生しない。
献身的にただただ他の人のことばかり教えてくれる。
ルートなんて無い、よな。隠しとか。
散々攻略サイトも確認して網羅したゲームだ。
優人と話してみたい。どんなゲームが好きか、とか。どの子がタイプだ、とか。
そういうリア充みたいな話題、振ったこと無かった。
そういえばあいつ、何でゲームから出てきたんだっけ?
主人公が羨ましかったんじゃないの?
お前、全然女子と絡んで無いじゃん。
こっちでまで俺とばっかいんじゃん。
阿呆なの?
「なぁ、分岐じゃなくて話したいよ。ユート…」
『好感度MAX!この調子ならきっと上手くいくな!』
霞んだ視界に映る画面の向こうで笑うユートは、何だか泣いているように見えた。
次の日、学校を休んだ。
ただ何となくゲームをしていた。
時間の進みが遅すぎたから、全ヒロインのルートを改めて周回できてしまった。
でも相変わらずエンディングまで見ずにユートに送り出された時点で切るという無意味な繰り返しをしていた俺は、最後のヒロインもクリアして問答無用で切って布団にくるまった。
ゲームは飽きた。
友達と話したい。
優人と話したい。
「…」
ゲームから出てきたって言うならまた出てこいよ。
優人。
つまらないよ。
「…」
そして俺は、時間もわからないまま疲れて寝落ちてしまっていた。
その夜中、ひとりでにゲームが起動していた。
画面中央にはハッピーエンドが確定した時に表示されるハートでできた花のイラスト。
そしてその花の前には本来のハッピーエンドの代わりにバッドエンドの文字。
この画面を誰も見ることはなかった。
次の日、流石に仮病で二日も休めない俺は大人しく登校していた。
「おはよ」
「…」
ユートに挨拶された。
昨日何十回と聞いた学校の朝パートと同じだ。
「…はよ」
優人が登校してきていた。
それはもう当たり前のように。
いや、俺がまだゲームをやっているのか?
「寝ぼけてる?」
「何でいんだよ」
目の下にクマがあると苦笑する優人。
しかし俺の問いは正確に伝わったらしい。
「画面越しじゃないの久しぶり。ずっと話したかったんだ」
優人が、攻略されるヒロイン達をずっと羨ましく眺めていた、とこぼす。
あぁ、そうか。お前は最初から。
「それにしても何でまた出てこれたんだろう。しかも今回はタイムリミットが無さそうなんだけど、」
首を捻る優人が、いつも通り自席に腰かける。
女子を攻略することが前提のギャルゲーにおいて、邪道なカップルパターンがある。
それはネタ要素であり、つまり結ばれることがバッドエンドに当たるわけだが。
「想いが強すぎたんだろうな」
どうやら俺は、トゥルーエンドの回収をし損ねていたようだ。
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