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2 2019年8月23日
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悠の入院する総合病院は、自宅の近くにある。
ふと思い立って寄ってみた。
暗い病院内。
それでも見廻りをする看護師の足音や、心電図の音、どこからか聞こえてくるイビキの音と、なんとなく落ち着かない。
何人かとすれ違った。
疲れ切った様子に、泊まり込んでいる家族なのだろうと推察した。
病院は、生きるための施設だ。
病や怪我を治し、笑顔で家に帰るために患者も医療関係者も頑張っている。
・・・お疲れ様です。
心の中で頭を下げて、すれ違った。
「よう。」
「ひっ!」
ベッドのまわりにカーテンの引かれた病室。
そっと中に入ると、悠は目を丸くした。
「オーナー・・・驚かせないでください。」
「すまんね。」
硬めのベッド。
悠の足元にゆっくりと座った。
「どうだ。」
「・・・すみませんでした。」
ずいぶんと愁傷な態度に、思わず笑みがこぼれた。
まるでシュンとしょげた猫のようだったからだ。
「盲腸だろ?誰しもタイムリミットがあるもんだ。そうじゃなくて、痛みは?」
悠の瞳が揺れた。
「・・・切った痛みは、あります。」
「そりゃ仕方ないな。」
何か抱え込んでいるらしい。
悠は真面目過ぎるのだ。
そこが可愛くてならない。
「まぁ、塞がるまでは辛いな。」
「・・・はい。」
えこひいきだと言われるかもしれないが、悠の事は一番気にしている。
ポキリと折れた悠を知っているからかもしれない。
・・・せっかく元気になったと思ったのにな。
思い詰めたような顔に、陸都は内心ため息を吐いた。
「メシは?」
「まだ、食べれないそうです。」
「歩かされてんのか?」
「はい、最低な気分です。」
本当に悲しそうな顔をする悠に、愛おしさが増した。
腕を伸ばして、頭に手を置いた。
さらさらの髪を擽るように撫でると、ふわりと悠の匂いが舞った。
・・・あぁ、甘い匂いだ。
「悠。お前が無理をしたせいで、バイトが二週間、露頭に迷うことになるんだぞ。」
店はなるべく閉めたく無かった。
生活の掛かっているスタッフがいると知っているのに、こちらの勝手な都合で急に休むわけにはいかなかった。
「・・・すみません。」
「まぁ、結局店は開けたから、彼らの生活は守ってあげれたけれど、もう無理はすんなよ。」
「はい。」
体の不調を放置することで、長い入院生活になる。
理由があっての結果だ。
「店って、まわりからヘルプを呼ぶって聞いていましたが、大丈夫でしたか?」
「おー。その辺は上手にやりくりするさ。」
悠の頭から手を外したく無かった。
甘えるような目が、堪らなく魅力的に見えた。
・・・やべぇな。
「ゆっくり休んで、屁しろよ。」
「も、もう!」
最後にクシャクシャと撫でて立ち上がった。
「あの・・・、オーナー、ありがとうございました。」
「ん。」
カーテンを開けて、静かに出て行く。
全く、社員を好きになるなんて馬鹿げている。
まぁ、いい。
言わなければ良いのだ。
言わなければ、嘘にはならない。
病院の外の空気は、湿気を含んだ熱で満たされている。
あくまでも、オーナーと社員。
深入りせずに、他の社員と平等に扱う。
それが大人のルールだ。
好きだと言ってしまえば、ルールが崩れる。
だから言わない。
爆発できない情熱は、このムワッとした夏の夜の空気と同じだった。
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