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瓢箪から駒④
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初対面の印象は最悪だった。
その後、そいつは毎週金曜日に蒼ちゃんの家に泊まりに来るようになり、嫌でも名前を覚えてしまった。
『秋月 翔』
家族が仕事で忙しいらしく、家に一人でいる事が多いと聞いて、蒼ちゃんが週末だけ家に泊めているらしい。
蒼ちゃんのお母さんは、毎日蒼ちゃんを秋月先輩の送迎車で学校まで送迎して貰っているので、大歓迎で秋月先輩を泊めていた。
章三の奴も、いつの間にかゲーム仲間としてすっかり仲良くなっていて、俺は自分の居場所を取られたみたいで正直、面白くなかった。
だから、出会ったばかりの頃は正直、秋月先輩が嫌いだった。
どうせ、結城みたいに蒼ちゃんに取り入りたいだけなんだ!って色眼鏡で見てた。
でも、秋月先輩は俺や章三に対しても平等に優しかった。
いつも反抗的な俺に対してでさえ、優しい笑顔で接してくれてた。
でも、それが逆に秋月先輩が余裕に見えて、お釈迦様の掌で暴れてる孫悟空になった気分にさせられて腹が立った。
そんな俺が秋月先輩を意識し出したのは、その年の文化祭が終わった日の事だった。
いつも一緒に帰っている章三が、部活の関係で一緒に帰宅出来なくなり、俺は一人で暗い夜道を歩いていた。
章三は蒼ちゃんに連絡して、秋月先輩が泊まりに来てるから迎えに来てもらえと言っていたけど…。俺は直接親しいわけでも無いし、何より蒼ちゃんを取り合っているライバル(だと勝手に思ってた)に、甘える訳にはいかないと、変に意地を張っていた。
確かに俺達が通う通学路は、女子から変質者の話題は上がっていたけど、まさか男の自分が被害に遭うわけが無いと思ってたかを括っていたんだよな…。
学校から自宅までは、歩いて15分。
閑静な住宅街を通るけど、まぁ…人が住んでる住宅街だし、通学路なんだから…と油断していたんだと思う。
学校を出て歩いていると、何やら後ろを着けられているような気がする。自宅まで着いてこられるのも厄介だと思い、ちょっと遠回りをして巻こうとした時、肩を掴まれた。
「お嬢ちゃん、一人?」
学ラン着てるのに、毎回、女の子に間違われる。
「俺は男だよ!」
って叫ぶと、息の荒いオッサンが俺の顔を見て
「かわ…可愛い顔してるね…」
と言いながら、益々息を荒らげている。
その目は明らかに欲情していて、背筋に冷たいものが下りてくる。
「離せ!」
肩を掴んでいる手を振り払おうとすると、ギリギリとそいつの指が肩に食い込む。
「ねぇ…おじさんと良いことしない?」
耳元で囁かれゾッとする。
「止めろ!離せって言ってんだろ!」
必死に抵抗すると、肩を掴んでいた手が離れて、ホッとしたのも束の間。
手首を捕まれ、近くの公園へと引き摺られる。
公園へ連れ込まれて何されるかを想像して、ゾッとする。
「離せ!何するんだよ!」
必死に抵抗していると、そいつは舌打ちをして
「うるさいなぁ~。焦らすのも程々にしないと、おじさん怒って何するか分からないよ」
そう言うと、左頬にヒヤリとした金属の感触。
ナイフを頬に当てられ、恐怖に身体が固まる。
その時だった。
「何をしている?」
と、低くて明らかに怒っている声が聞こえた。
聞き覚えのある声に驚いて視線を向けると、変質者が突然
「イタタタ!」
って叫び、俺の頬に突き付けられていたナイフを持った手を捻り上げられていた。
『カシャーン』
と、ナイフが下に落ちる音が聞こえると
「汚らわしい手でこの子に触れるな!」
って叫んで、秋月先輩が鬼の形相で変質者の手をギリギリと捻り上げる。
「痛い!痛い!」
叫ぶ変質者を、秋月先輩は顔色も変えずに腕を捻り上げたまま見つめている。
普段、柔らかく笑う顔しか見た事が無い俺は、呆然と秋月先輩を見上げていた。
そんな俺の腕を先輩が掴んで引き寄せると、俺はすっぽり先輩の腕の中に抱き留められた。
ふわりと香る制汗スプレーのメントールが入った香りがやけに安心感を与えてくれた。そしてあの日、抱き着いた時と同じ逞しい胸板に包まれて、俺はホッとして気が抜けそうになっていた。
「大丈夫?」
変質者を捻り上げている手と逆側の先輩の手が、優しく俺の頭を撫でてくれて、俺はなんとか恐怖から立ち直る事が出来た。
見上げた先輩の顔は凛々しくて、俺を護るように先輩の背中へと俺を隠した。
その一連の流れが、本当に綺麗で格好良かった。
「離せ!痛い!痛い!折れる!」
思わず見蕩れていた俺の耳に、変質者の不快な声が聞こえる。
「あの…もう、大丈夫ですから…」
俺が先輩の背中を引っ張って呟くと
「二度とこの辺をうろつかないと約束出来るか!」
と、先輩が変質者に聞くと、そいつは何度も頷いて
「しない!しないから離してくれ!」
そう叫んだ。
先輩は変質者の手を離すと、俺の肩に先輩が着ていた上着を掛けて
「ごめんね…。もう少し早く行けば良かった」
って言いながら、そっと俺の肩を抱き寄せる。
その瞬間、俺の心臓が早鐘のように鳴り響く。
(え?何で?)
ドキドキと高鳴る胸に戸惑っていると、突然、肩を抱いていた先輩の手が離れた。
驚いて見上げると、落としたナイフを拾い上げて、変質者が先輩に向かって来ていたのだ。
「ひっ!」
恐怖に息を飲んだ瞬間、先輩の手刀が変質者の手首に入り、ナイフが地面に落ちた。
そして先輩は振り向きざまに足を振り上げ、変質者の横っ面を蹴り飛ばしたのだ。
それはまるで、映画のワンシーンのように綺麗で無駄の無い動作だった。
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