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瓢箪から駒⑤
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普段の優しい先輩からは想像もつかない光景に目を丸くしていると
「あおちゃん!大丈夫?」
お巡りさんを連れた蒼ちゃんが駆け着け、抱き付いて来た。
「あ、うん。翔さんが助けてくれたから大丈夫」
笑顔で答えた俺に、
「あおちゃん、いつも夜道は一人で歩いちゃダメって言ってるだろう!」
心配して怒る蒼ちゃんに
「まぁまぁ、無事だったから良いじゃないか」
と、お巡りさんに変質者を引き渡した先輩が苦笑いして言うと、蒼ちゃんはキっと先輩を睨んで
「大体、翔がさっさと迎えに行かないのが悪いんじゃないか!」
って、無茶苦茶な事を言って怒り出した。
「蒼ちゃん…、それ無茶苦茶な事言ってるよ」
慌て先輩の前に割って入ると、蒼ちゃんは俺をギュッと抱き締めて
「あおちゃんに何かあったら、僕は自分が許せなくなる」
そう呟いた。
蒼ちゃんは自分が辛い思いをしている分、俺に同じ思いをさせまいと心配してくれている。
俺はそんな蒼ちゃんが大好きだった。
でも、いつの間にか視線は蒼ちゃんの隣で微笑む先輩に向いている事に気が付いた。
俺を抱き締める蒼ちゃんを、優しい眼差しで見つめる先輩に胸が痛くなる。
その時に気付いてしまったんだ…。
俺は先輩の事を何も知らないって…。
知っているのは、蒼ちゃんの親友である事。
自宅ではいつも一人で過ごしている事。
毎週金曜日に、蒼ちゃんの家に泊まって居る事。
全ては、章三からの情報から得た事ばかりだって事に気が付いて落ち込んだ。
あの日以来、俺は気が付くと秋月先輩の事ばかり考えてしまうようになってしまった。
一度だけ、先輩が泊まる日に章三の部屋に泊まった事があった。
蒼ちゃんと先輩は文化祭の準備をしていて、蒼ちゃんの部屋に籠っていた。
あれは丁度、章三がお風呂に入っていて、俺は章三の部屋で漫画を読んでいた。
その時、突然隣の部屋から物凄い物音が聞こえて、慌てて蒼ちゃんの部屋のドアを開けて俺の目飛び込んで来たのは、蒼ちゃんが先輩に馬乗りになって秋月先輩のシャツを脱がそうとしている光景だった。
蒼ちゃんの上着の前ボタンも全開で、何をしようとしていたのかを容易に想像出来てしまった。
「あ…ごめんなさい!」
慌ててドアを閉めた俺に
「違う!あおちゃん、誤解だから!」
「違う!葵君、誤解だ!」
叫ぶ二人の声が背後に聞こえる。
この時、俺の胸がズキリと軋むように痛んだ。
何でこんなに痛むんだろう?
本当は答えなんて分かってた。
だけど自分の気持ちを認めたくなくて、ずっと気付かないフリをしていたんだ。
俺は自分の気持ちを認めたくなくて、この日を境に秋月先輩を避けるようになった。
どんなに否定しても、心は秋月先輩に会いたくて…苦しくて辛くて…。
行き場の無い感情を持て余していた。
俺はそんな中、蒼ちゃんの家は俺が住むマンションの真向いなので、金曜日になるとベランダから蒼ちゃんの家に入る秋月先輩の姿を眺めるようになった。
一度、秋月先輩が視線を俺の家に向けてくれて、目が合った…ような気がした。
慌てて部屋に入りカーテンを閉めたけど、高鳴る胸の鼓動が認めたくない感情を認めろと言っているようで辛かった。
忘れようと必死になっているのに、何度か章三の部活が遅くなって秋月先輩が校門の前で待っていてくれていた事があった。
校門にもたれかかり、夕日に照らされた秋月先輩の横顔を見る度に胸が軋んだ。
(しかも、学校の女子は秋月先輩が来るとキャーキャー騒いでいたっけ…)
俺を見つけると、秋月先輩はいつも優しい笑顔を浮かべてくれて
「葵君、お疲れ様」
って言いながら、ふわりと頭を撫でてくれた。
俺の頭を撫でる手は蒼ちゃんとは違う男らしい手で、手の平は剣道の竹刀を握っているせいなのか、固くてゴツゴツしていた。
先輩の漆黒の瞳も優しい笑顔も、広い胸も大きな手も…全ては蒼ちゃんのモノだと分かっている。
分かっているのに、気持ちが溢れて止まらなくなる。泣きたくなる気持ちに蓋をして、俺はこの気持ちを決して口にしないと決めていた。
蒼ちゃんが選んだ人。
蒼ちゃんを選んだ人。
何で蒼ちゃんなんだろう?
綺麗で優しくて、俺の大好きで大切な人…なのに……。
秋月先輩への気持ちに気付いてから、蒼ちゃんへの気持ちも変化してしまった。
先輩と当たり前のように並んで歩く蒼ちゃんに、黒く醜い感情が渦巻き息が出来なくなる。
こんな想いをするなら、出会わなければ良かったのかな?
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