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瓢箪から駒⑩
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目を覚ますと、倒れてから丸2日間眠り続けていたらしい。
母さんには滅茶苦茶怒られたし、蒼ちゃんには泣かれるし…で、もう散々な目に遭った。
そしてもう1つ。俺にとって、最大のショックな出来事が起きた。
あの日、秋月先輩から貰ったお守りを無くしてしまっていた…。
目を覚まして、お守りと助けて貰ったお礼をしないと…って制服の胸ポケットを探ったら、お守りが入っていない。
試験日のカバンや部屋中を探しても、何処にもお守りが無い!
真っ青になって
「母さん!お守り、俺のお守りは?」
って尋ねると
「お守り?なんの話?」
と、逆に聞かれてしまう。
(どうしよう…。折角、翔さんがくれたお守りなのに…)
泣きたい気持ちを抑えて、蒼ちゃんに電話でお守りの落し物が無かったかを聞いてみたけど…
「え?翔から貰ったお守り?生徒会には、試験日の忘れ物や落し物は届いてないなぁ~。まぁ、でも気にしなくて良いよ。あいつも、あの状況で無くしても怒らないから大丈夫だよ」
って言われて終わってしまった。
倒れてから3日も過ぎてるし、誰かに拾われて捨てられてしまったんじゃないかと落ち込んでいた。大好きな人からの、初めてのプレゼントだったのに…って。
諦めが付かなくて泣きながら部屋を探していると、母さんに病み上がりが何をしているんだと怒られて、ベッドに戻されてしまう。
(俺って…最低だ…)
泣いて泣いて…気付いたら泣き疲れて眠っていたらしい。
目を覚ますと、スマホに蒼ちゃんから着信が入っていた。
もしかして!って思って連絡すると
『あおちゃん?お守り見つかったよ。』
って連絡だった。
「本当に!」
『京子さんから、あおちゃんが泣きながら探してるって聞いたから、探してみたらあったよ。これから持って行くね』
「あ!じゃあ、今から行くよ!」
『ダメだよ!部屋で待ってなさい!』
ピシャリと言われて
「じゃあ、下で待ってる」
そう言って通話を切った。
早く手元に戻したくて、急いで着替えて部屋を出ると
「あおちゃん…何処行くつもり?」
いそいそと玄関へ向かう俺の首根っこを掴み、母さんが目を座らせて聞いて来た。
「下のエントランス。お守り、蒼ちゃんが見つけてくれたんだ」
嬉しくて、今すぐ飛び出したいのに…って思っていると
「ちょっと待ってなさい」
そう言って、お菓子の包みを二箱手渡した。
疑問の視線を投げると
「ひとつは蒼ちゃん達に。もうひとつは、あおちゃんを助けてくれた…先輩だたわよね?その人に渡して貰って」
と言いながら、俺の肩に上着を掛けた。
「そんな薄着じゃ、エントランスとはいえ寒いから。早く戻りなさいよ」
って母さんに言われる。
「うん!ありがとう!」
笑顔で頷き、俺はお菓子の包みを紙袋に入れて下のエントランスへと向かった。
エレベーターで下に降りて、俺はエントランスへと小走りで向かう。
広いエントランスから入口のオートロックの自動ドアに向かうと、心臓がドキッと高鳴った。
そこに居たのは、蒼ちゃんでは無くて秋月先輩だった。
先輩は俺を見つけると、ふわりと優しい笑顔を浮かべて片手を上げる。
(あ…そうか…。蒼ちゃんにお守りの事を知られたら、翔さんにも知られちゃうんだよね)
天国から地獄へと突き落とされた気分になり、俯いて重い足取りでオートロックの自動ドアを開けた。エントランスの奥にある談話コーナーに案内して、俺は母さんから渡された手荷物を談話コーナーのテーブルに置く。
俺が申し訳無さの余り顔を上げられないでいると、俺の様子を見た先輩が申し訳無さそうに
「ごめん…。俺じゃなくて、蒼介が良かったよな」
って開口一番に言われてしまう。
俺は先輩の顔が真っ直ぐに見られなくて、俯いたままぎゅっと両手を握り締めた。
すると、俯いた俺の視線に、秋月先輩から貰ったお守りが先輩の掌に乗せられて差し出された。
慌てて見上げると
「やっと顔を見てくれた」
って、ふわりと優しく微笑む。
その笑顔にドキッとしたけど、自分のした事が申し訳無くて俯くと
「ごめんね。これ、必死に探してくれてたんだってね」
と呟く先輩の声に涙が込み上げて来る。
「ごめんなさい。折角、翔さんがくれたのに…、無くしたりして…」
震える声で謝ると、先輩の大きな手が俺の頭に乗せられて
「無くしてないよ。」
って先輩が呟いた。
意味が分からなくて視線を上げると、先輩は泣いている俺の顔に驚いた顔をしてから、優しく微笑んだまま、頭に置いた手を頬に移すと、流れる涙をそっと指で拭いながら
「ごめん…。あの日、このお守りを必死に握り締めてくれてたみたいで…、意識を失った時に手から落ちたのを、俺が胸ポケットに入れて預かってたのを忘れてたんだ」
そう呟いた。
「え…?」
「帰宅してから気付いたんだけど、返そうと思っていたら2日間も眠りっ放しだったと聞いて…、返すタイミングを逃してしまったんだ。本当にごめん」
って言うと、先輩は深々と頭を下げた。
「あ!良いんです。あの…俺こそごめんなさい」
俺も慌てて頭を下げると、2人でペコペコ頭を下げ合ってしまい、それに気付いて顔を見合わせて吹き出す。
「大切にしてくれて、ありがとう」
先輩はそう言うと、俺の手を取ってそっとお守りを手のひらに乗せてくれた。
触れた先輩の手の温もりに、心臓がバクバク鳴り始めて顔が熱くなるのが分かる。
俺は慌てて俯くと、手に戻ったお守りを胸元で握り締めてホッと溜息を着いた。
その瞬間、先輩の腕が伸びて来て俺を強く抱き締めた。
(え…?)
驚いて固まると
「良かった…。2日間も眠りっ放しで目を覚まさないと蒼介から聞いて…、ずっと心配だったんだ」
逞しい先輩の胸元から響く優しい声。
俺は目を閉じて、大好きな先輩の胸元に顔をすり寄せて、背中に手を回した。
ぎゅっとシャツの背中を握り締めると
「葵…」
って囁く声が聞こえた。
ゆっくりと先輩を見上げると、先輩の大きな手が俺の頬を優しく包み込む。
「こんなに泣き腫らした目になって…、本当にごめん」
そう言いながら、先輩の親指が俺の瞼を優しく撫でる。
俺は背中に回した手を放して、先輩の手に自分の手を重ねて見つめ返す。
(このまま…キスをして欲しい)
と、願いを込めてゆっくりと瞳を閉じると、先輩の影が近付く気配を感じる。
あと少し…と思った瞬間、エントランスの自動ドアが開く音が響く。
「兄貴、早くしろよ!」
イライラした様子の章三の声に、ハッと我に返った。俺と先輩は真っ赤な顔になり、慌てて身体を離すと
「取り敢えず…座ろうか…」
って先輩に言われて、談話コーナーのソファーに離れて座った。
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