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瓢箪から駒⑪
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「葵?」
ぼんやりと考えていると、章三が俺の顔を覗き込んで来た。
ハッとして笑顔を作ると
「疲れたんだろ?ほら、部屋に戻るぞ」
抱き着いている蒼ちゃんから俺を剥がし、章三が手を握る。
「俺、葵を部屋に連れて行くから」
って章三に言われて
「大丈夫だよ。エレベーターに乗れば、直ぐ家だし。」
そう言いながら、慌てて章三の手を振り払う。
「あ!そうそう。これ、母さんから」
章三の手を振り払った言い訳みたいに、テーブルの上のお菓子を蒼ちゃんと先輩に手渡す。
「え?俺も?」
驚いた顔をする先輩に
「はい。母さんが、助けてくれた先輩にって」
そう言ってお菓子の包みを渡した時、先輩の指先が俺の指先に軽く触れる。
『ドクリ』と心臓が高鳴り、思わず慌てて手を放した。
(コノヒトハ、ソウチャンノ コイビトナンダカラ…)
言い聞かせるように、何度も心の中で繰り返す。
「じゃあ…俺、戻るね」
胸が苦しくて張り裂けそうになる。
「葵!」
逃げるようにエレベーターに向かう俺の腕を、章三が掴んで引き寄せた。
「顔色、真っ青だぞ。嫌だと言っても、連れて行くからな」
珍しく有無も言わさぬ形相で、章三はそう言って俺を抱き上げた。
「2人は先に帰ってて」
章三はそう言うと、黙って歩き出す。
俺は自宅のエントランスで、何故か幼馴染みにお姫様抱っこされた状態でエレベーターを待っている。恥ずかしさと情けなさで大人しくしていると、章三の顔が怒っているみたいだった。
(章三?)
疑問の視線を向けても、章三は無視して俺を部屋まで運んでくれた。
「あおちゃん!ほら、やっぱり!」
章三に抱えられて帰宅した俺に、母さんが怒りの声を上げた。
「章三君、いつもありがとうね」
俺を寝室に運ぶ章三にそう言うと
「あ!章三君、まだ時間大丈夫?」
って、母さんが章三に聞いている。
「はい」
「良かった~。あおちゃん1人にしてるのが心配で、買い物に言ってないの。私が帰るまで、あおちゃんを見ててくれる?」
章三の返事に、母さんが笑顔を浮かべてお願いポーズしている。
「母さん!1人で大丈夫だよ」
と叫んだものの
「言うこと聞かないで、章三君に抱えられて帰って来たのは誰?」
って、母さんに睨まれた。
「じゃあ、すぐに戻るからお願いね」
母さんはそう言い残して、バタバタと買い物へ出掛けてしまった。
気まずい空気が流れる中、俺は黙っている章三の顔を見ていた。
幼い頃から一緒に居るから、章三の表情で大体の事は分かる。
(眉が上がってるから怒ってるんだな…)
そんな事を考えながら、ベッドの中で溜息を吐く。あぁなった章三は、俺が何を言っても無駄だからな…。
「はぁ…」
って溜息を吐くと、章三が俺を見下ろして
「お前、翔さんが好きなの?」
と聞いて来た。
「えっ!」
驚いて見上げると章三と視線が合う。
「お前さ、翔さんが兄貴の恋人って知ってるんだよな?」
章三の言葉が棘のように突き刺さる。
少しの沈黙の後
「あの2人…」
「何言ってんの?そんな訳ないだろう?」
章三の言葉を遮るように、俺は作り笑顔でそう叫んだ。
「助けてくれた翔さんに憧れてるだけだよ!俺が好きなのは、昔からずっと蒼ちゃんだけ。そう、蒼ちゃんだけだよ…」
まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「葵…」
章三が呟き掛けた時
「あぁ!って事はさ、翔さんってライバル!」
と叫んだ。
「章三…俺に勝ち目あるかな?」
涙目になりながら章三にしがみつくと
「お前な!」
って叫ばれる。
でも俺は気付いてしまったんだ。
例えその相手が蒼ちゃんだとしても、俺の気持ちは変わらないって事に…。
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