アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第3話 生々流転
-
「…ん。あおちゃん?」
呼ばれている声にハッと我に返る。
「大丈夫?ずっとぼんやりしてて…」
母さんが心配そうに俺の顔を見る。
「あ…うん、大丈夫」
笑顔を作って微笑むと、スーっと襖が開いて20代後半位の顔立ちの綺麗な男性が入って来た。
まるでモデルのようにスタイルも顔立ちも整ったその人に疑問の視線を投げると
「ご無沙汰しております、葵様」
多分、この笑顔で何人もの女性を虜にしてきたであろう甘いマスクの甘い笑顔で言われる。
「?」
俺が疑問の視線を投げると
「体調が悪かったから、覚えていないんじゃないか?」
秋月先輩の言葉に考え込む。
秋月家側の末席にその人が座ると、女将が入って来て食事会がスタートした。
俺が誰なんだろう?と悩んでいると
「ほら、受験の時に葵君を自宅まで送っていっただろう?その時の運転手だよ」
秋月先輩の言葉に、「あ!」っと声を上げて
「すみません!あの時、意識が朦朧としていて全然顔を見ていなかったので…」
と平謝りする俺に、その人は小さく微笑み
「確かに…翔さんの膝で、気持ちよさそうに寝ていましたからね」
と呟いた。
その言葉に俺は固まる。
(え…?今、何と…????)
驚愕する俺の顔を見て、その人は驚いた顔をして
「まさか…、それも気付いていなかったんでか?」
って聞いて来た。
慌てて秋月先輩の顔を見ると
「多分、章三君だと思っていたんだよね。俺はそれで良かったんだけど…」
なんて、苦笑いして答えた。
(ひぃぃぃぃぃぃ!俺、何てことを!!!)
頭を抱えて苦悶していると
「え?じゃあ、あおちゃんが憧れてる先輩って翔さんだったの?」
と、これまた空気を読まない母さんの発言に、部屋の空気が固まる。
「え?」
驚いた顔をした秋月先輩に
「だってあおちゃん、桐楠大附に進学したのって憧れの先輩に会う為だもんね。」
と、早々に母さんが俺の秘密を打ち明けてしまう。涙目になって母さんを止めようとすると
「受験の時に助けてくれた先輩みたいになりたいって、公立受験止めて進学したんですよ」
そう満面の笑顔で母さんが話てしまった。
そう…。
母さんに相談したあの日、俺は桐楠大附に受かったら進学させて欲しいとお願いした。
受験結果は合格だったけど、母子家庭の我が家が、蒼ちゃんみたいに特待生にでもならない限り、名家のお嬢様、お坊ちゃまが通う桐楠大附に通える訳が無かった。
もちろん、頭脳が凡人の俺が、特待生になれる訳も無く…。
元々、思い出受験だったし…って諦めていたんだけど、親父の実家から学費の援助をお願いして出して貰ったんだ。
ただし、母さんにその理由を聞かれた。
素直に「好きな人が居るから」と言える相手では無いし、かと言って、下手に嘘ついてもバレるだけ。だったら…と、「好きな人」を「憧れの人」にしてお願いをしたんだ。
母さんは目を輝かせて
「素敵!助けてくれた人に直接お礼が言いたいって、その学校に入学するなんて~。これであおちゃんが女の子だったら、お父さんとお母さんの出会いみたいだったのにぃ~」
って、「残念~」って言いながら話したのを思い出す。
「か…母さん!お願いだからその話、止めて!」
慌てて止める俺に、秋月先輩のお父さんは小さく微笑み
「翔が憧れられる対象になるなんて…、意外だな」
そう言いながら先輩の顔を見た。
俺は話題を変えたくて
「え!秋月先輩、学校で凄い人気ですよ!先輩を一目見る為に、柔剣道室にいつも人だかりが出来てます」
そう話題を持ちかけた。
「へぇ…。翔はそういう話を一切してくれないからね」
俺の話を、先輩のお父さんが嬉しそうに聞いている。
実際に桐楠大附に入学して驚いたのは、2人の人気だった。
女神と呼ばれる蒼ちゃんと、騎士(ナイト)と呼ばれている秋月先輩は、学校で凄い人気だった。
2人は変わらず接してくれるけど、気軽に「翔さん」なんて呼べる状況では無くて、俺は高校入学をきっかけに秋月先輩と呼ぶようになった。
「蒼ちゃんと秋月先輩は学校の生徒会で活躍しているのもあるかと思うのですが、二人が歩くと女子の黄色い声が飛び交うんです」
「ちょ…ちょっと葵君、それは大袈裟だよ」
俺の言葉に秋月先輩が慌てて言葉を挟む。
「嫌々、本当に凄い人気なんですよ!」
俺が力説していると
「先程も名前が上がっていたけど、蒼ちゃんと言うのは?」
秋月先輩のお父さんが首を傾げて聞いて来たので
「俺の幼馴染です。桐楠大附の生徒会長をしていて、秋月先輩の友達でもあるんです」
俺がまるで自分の自慢をしているように答えると
「あおちゃん、本当に蒼ちゃんが好きよね」
って、俺の様子を見て母さんが呆れたように呟く。すると
「ああ、あの綺麗な男の子か」
先輩のお父さんがすぐに思い出したように呟いた。
「知っているんですか?」
目を輝かせて先輩のお父さんを見ると
「初めて見た時、女の子だと思ったんだよ。あまりにも綺麗な子だったからね。うちの事務所にスカウトしたけど、けんもほろろに断られてしまったよ」
と、肩を竦めて残念そうに呟く。
俺が疑問の視線を投げていると
「あぁ、私はモデル事務所も経営しているんですよ。蒼介君と言ったかな?あの美しさを世に知らせないのは勿体ない」
先輩のお父さんはそう言って、何度も溜息を吐いた。
「父さん!」
そんな先輩のお父さんの言葉を、秋月先輩が厳しい口調で遮り
「私の友達を巻き込まないって約束、忘れたんですか?」
と言い放った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 42