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生々流転④
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とんだハプニングがありながらも、食事会は和やかに進んで行った。
先輩のお父さんは話題が豊富で、時間が経過するごとに緊張感も和らいで楽しく食事が進んで行った。配膳される料理はどれも見た目は美しく、旬の食材を豊富に使った美味しい料理ばかりだった。普段、お酒が全く飲めない母さんが、料理につられてお酒を飲んでいるのにハラハラしていたんだけど、そんな俺をニコニコ見つめる先輩の視線が恥ずかしくなって居た堪れなくなる。
先輩の視線を意識しないように、出された料理に集中して食事を進めて行き、最後のデザートが出て来た頃、突然、母さんが俺に抱き付いて来た。
「幸助さん、うちのあおちゃんは可愛いでしょう?自慢の息子なの」
母さんの顔を見たら、完全に酔っぱらっている。
やはり、予想的中!
「母さん!」
慌てて母さんを抱き留めると
「本当に良い子なのよ…。家の事、全部やってくれるの。どこにお嫁に出しても恥ずかしくないくらい、良く出来た子なの」
母さんはそう言って眠り込んでしまった。
「申し訳無い。お酒が弱いのは知っていたのに、飲ませ過ぎてしまったね」
先輩のお父さんは優しい笑顔を浮かべると、俺に抱き着いている母さんを軽々抱き上げて
「葵君と翔は、デザートを食べたら車においで。急がなくて良いからね」
と言い残し、母さんを抱き上げたままお店を後にした。
気が付くと田中さんの姿は無く、デザートなんか食べてる場合じゃないとオロオロする俺に、先輩は穏やかに微笑んで
「心配しなくて大丈夫だよ。田中が車で待機してる筈だから、俺達はこれを食べたら出よう」
って言われた。
「え?あの…食事代は?」
変わらずオロオロしていると、先輩が優しい笑顔を浮かべて俺を見つめると
「そのスーツとシャツの色、凄く似合ってるね」
って、予想外の言葉を言われて赤面してしまう。
「あ…ありがとうございます」
真っ赤になった顔を隠したくて思わず俯いた俺に、先輩は軽く頭をポンポンって叩いた。
驚いて見上げると
「落ち着いて食べて居られないかな?じゃあ、持ち帰りにしてもらおうか」
先輩はそう言って、個包装されている苺の中に練乳を入れて凍らせたアイスを女将さんにお願いして、持ち帰りにしてくれた。
外に出ると、既に母さんは車の後部座席で気持ち良さそうに眠っている。
田中さんがドアを開けて待っているので、乗り込もうとして振り返る。
良く分からないけど、先輩が一緒に帰らないような気がして、俺は先輩に歩み寄って
「先輩は乗らないんですか?」
って呟いた。
先輩は驚いたように目を見開くと
「俺が居ると…落ち着かないんじゃないのかな?って思って…。」
と、戸惑うように呟いた。
俺は先輩のスーツの裾を掴み
「先輩が乗らないなら、俺も乗らない!」
先輩の瞳を真っ直ぐに見つめて言い切った。
しばらく見つめ合った後、先輩は困ったように笑って
「分かった。少し狭くなるけど大丈夫?」
そう聞かれて、俺は大きく頷く。
それでも不安で、俺は先輩が後部座席に座るまで裾を掴み続けた。
俺達が車に乗り込むと、田中さんはドアを閉めてから運転席に座るとゆっくりと走り出す。
「あおちゃ~ん」
車に乗り込んだ途端、母さんが抱き着いて来た。
「もう…母さん…」
呆れて呟くと、助手席に座っている先輩のお父さんが微笑みながら
「君たち親子は、本当に仲良しなんだね」
そう呟いた。
その言葉に、何となく先輩と先輩のお父さんに距離がある感じがするのは気のせいじゃないんだろうなって思った。
三人掛けに先輩、俺、母さんの順で座っていて、車が右折する度に肩が先輩の右腕に当たる。
ドキドキと鳴り響く心臓の音。
(今だけ…今だけ、傍に居させて…)
祈るような気持ちで先輩の隣に座っていた。
しばらく走ると、自宅のあるマンションに到着する。なんか先輩と離れるのが寂しいなぁ~って考えていると
「葵君、もう…離して大丈夫だよ」
って先輩に言われて、ずっと先輩の袖を掴んでいた事に気が付いた。
慌てて手を離すと、先輩は小さく「ふっ」と笑って俺の顔を優しい表情で見つめた。
その表情に俺の胸がぎゅっと苦しくなる。
泣きそうになっていると、ガチャっとドアが開く音がして、先輩のお父さんが反対側のドアから母さんを抱き上げた。
すると先輩側のドアも開き、先輩が先に降りると俺もそれに続く。
「じゃあ、またね」
そう言われて
「あの!お茶飲んで行って下さい。」
って、叫んでいた。
「母さんを送ってもらうだけじゃ悪いので!」
苦しい言い訳をすると、田中さんが
「では30分程、お2人は葵様のお宅に居て下さいませんか?私は一度自宅に戻って、取って来たい物がありますので」
って、助け舟を出してくれた。
「でも…」
と、戸惑う先輩に
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂こうか」
そう言って、先輩のお父さんが微笑んだ。
「はい!その方が、落ち着いてご案内出来ますから」
俺は笑顔で答えると、ポケットから鍵を取り出してマンションの入口を開けた。
田中さんに笑顔で見送られながら、俺は2人をエレベーターホールへと案内する。
エレベーターホールでボタンを押すと、最上階にエレベーターがあってしばらく待たされた。
(田中さんを待たせていたら、落ち着かなかったなぁ~)
って考えながら、自宅のある5Fのボタンを押す。
その間、何やら沈黙が重くて、なんか必死に話していたような気がするけど…緊張感で記憶に無い。5Fに到着すると、自宅の503の部屋のドアに鍵を差し込み、玄関の灯りを付けて2人を中へと招き入れた。電気を付けながら先輩にリビングの椅子を勧めた後、先輩のお父さんを母さんの部屋へと案内。気持ち良さそうに爆睡している母さんを横目に、俺は2人にコーヒーを出す為にキッチンへと向かった。コーヒーメーカーでコーヒーを落としている間、リビングを覗くと先輩が窓の外を見ていた。
「ここから蒼介の部屋の灯りが見えるんだな」
ぽつりと呟いた先輩の言葉に、胸がズキンと痛む。
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