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生々流転⑤
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「やっぱり…」
先輩は窓の外を見つめたまま、呆れたように溜め息を吐いた。
俺が疑問の視線を向けると、先輩は苦笑いを浮かべて
「あ、ごめん。こっちの話」
って言うと、にっこりと微笑んだ。
俺が疑問に感じて隣に並び、窓の外に視線を送る。今、時刻は20時30分
いつもなら蒼ちゃんの部屋の灯りは着いているのに、電気が消えている。
「?」
疑問に思って先輩を見上げると
「蒼介がさ、神崎君は悩んだり落ち込んだりすると、部屋のベランダから蒼介の部屋を見てるって言ってたんだ。」
ぽつりと言われた言葉に赤面すると
「あ!変な意味じゃなくてね。」
先輩は慌ててそう言うと
「小さな頃、蒼介って昼間は神崎君の家に預けられていたんだろう?親が迎えに来て、蒼介が章三と自宅に帰るのを、神崎君が泣きながらベランダ越しに見てる姿を見るのが辛かったって言ってたんだ。」
思い出すように、ぽつりぽつりと呟く。
「いつしか葵君は、甘えたい気持ちをそうやって押さえて、なんでも1人で解決しようとするからもっと甘えても良いのに…って。あいつ、章三と神崎君の話をしてる時だけは、兄貴の顔になるんだよな」
優しい顔をして蒼ちゃんの話をする先輩の言葉が胸に刺さる。
「そう…ですか…」
沈んだ気持ちで返事をすると
「俺には兄弟が居ないから、君たちの話をする蒼介が羨ましかった…。今まで思ったことなんか無かったんだけど、蒼介を見ていて、俺にも兄弟が居たら良かったのにな…って思っていたんだ」
何も知らない優しい笑顔で先輩が呟いた。
今、弟なんかじゃ嫌だって言ったら…先輩は困った顔をするのかな?
もし…今、先輩を好きだと言ったらどうするのかな?
もし…、弟じゃなくて恋人になりたいって言ったら、どう答えるのかな?
優しく微笑んで俺を見つめる先輩に、胸が苦しくなる。
いっその事、玉砕した方が楽になるんじゃないかと口を開きかけた時『ピーッピッピッ』と、コーヒーメーカーが鳴り響いた。
ハッとしてキッチンへ駆け込むと、先輩のお父さんが丁度、母さんの部屋から出て来た。
「あ、すみませんでした」
慌てて先輩のお父さんに駆け寄ると
「こちらこそ、突然押し掛けてしまってごめんね」
って、にっこりと微笑まれて言われる。
「いいえ!俺が誘ったんですし。あの…今、コーヒーが入ったので座っていて下さい。」
バタバタとキッチンへ行き、コーヒーを入れる。
殆ど使用した事の無い来客用のカップにコーヒーを入れてリビングへと戻ると、テーブルに飾られている親父の写真を先輩と先輩のお父さんが見ていた。
いつもそこにあるのが自然過ぎて、うっかりしていた!
慌てて写真を伏せて
「すみません!あの、わざとじゃないです!」
そう叫んだ。
(再婚相手の前の旦那の写真なんて…見たくないよな…)
1番に隠さなくちゃならない写真だったと反省して落ち込んでいると、ぽんっと俺の頭に大きな手が乗せられた。
「隠さなくて良いんだよ。私は葵君のお父さんになりたいけど、葵君から葵君のお父さんを奪いたい訳じゃないんだ。葵君のもう1人のお父さんにさせて貰いたいだけなんだ」
優しく微笑む先輩のお父さんに
「もう1人のお父さん?」
って呟いた。
「そう。私はね、葵君のお母さんも葵君も、きみのお父さんを引っくるめて大切だと思っているんだ。だって、葵君のお父さんが居なければ、今のきみのお母さんでは無いだろうし、葵君だって、この世に誕生していなかったんだから。」
先輩のお父さんは優しく頷いてそう答えると
「だから、隠さなくて良いんだよ。」
一度は伏せてしまった写真立てを、先輩のお父さんが再び立てて元の位置に戻した。
写真立ての中で、俺を抱いて優しく微笑む親父の顔。
「それに…、この写真はとても良い写真だよ」
先輩のお父さんはそう言うと、親父の写真を見つめた。
優しい時間が流れた時、先輩のお父さんのスマホに着信音が響く。
先輩のお父さんはスマホの画面を見てから
「すまない、ちょっと仕事の電話だ」
そう呟いた。
「はい、私だ」
先輩のお父さんはそう言いながら、立ち上がって俺達に背を向けて話している。
「今、出先だから…」
と、通話を切ろうとしてくれているけど、どうやら大事な話みたいだった。
俺は座っている先輩に
「あ!あの、俺の部屋の電気が切れてるんです。着けて貰っても良いですか?」
と、かなり苦しいお願いをして部屋へと通す。
まぁ…実際は電気…切れて無いんだけどね。
部屋の電気を着けて先輩を中へと通す。
「あれ?電気…切れて無かったかなぁ~」
って、苦しい言い訳をして笑って誤魔化すと、先輩は小さく微笑んで俺の頭を優しく撫でた。
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