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第5章 人生山あり谷あり
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章三から衝撃の告白を受けて、午後の休み時間はなんとなく気まずくて章三を避けてしまっていた。どうせ帰りは又、二人きりになってしまうからどうしようか?と考えていると、スマホに蒼ちゃんから連絡が入る。
『授業が終わったら生徒会長室に来て』
と書いてあり、俺は首を傾げる。
そして、朝の出来事を思い出した。
章三の事があり、すっかり忘れていた。
授業が終わると、俺は章三に蒼ちゃんから呼ばれている事を伝えて生徒会長室へと向かう。
旧校舎の最上階。
重厚なドアのプレートには『生徒会長室』と書かれているドアをノックすると
「どうぞ」
って、中から蒼ちゃんの声がした。
ゆっくりとドアを開けて中を覗くと、蒼ちゃんが会長席に座って書類を見ていた。
そして俺に視線を向けると
「あおちゃん、中にどうぞ」
と、笑顔で言われた。
俺はゆっくりとドアを閉めると、生徒会長室にある応接セットの革張りのソファーに腰を掛けた。
落ち着かない感じがしてソワソワしていると、蒼ちゃんが生徒会長室にある冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して俺の前に置いた。
「呼び出してごめんね。章三から…話は聞いた」
突然本題を切り出されて、どっちの話?って固まっていると、蒼ちゃんは深々と頭を下げて
「まず、章三が突然、失礼な事をしてごめんね」
そう言った。
「え!嫌、あの、未遂だし!全然大丈夫だよ!」
慌てて叫んだ俺に、深々と頭を下げていた蒼ちゃんが眉を寄せて顔を上げる。
「未遂?え?あいつ、あおちゃんを抱き締めて告白した以外に何やらかしたの?」
怒った顔をして蒼ちゃんが聞いて来た。
(そっち~!!)
俺が慌てていると
「あおちゃん。章三の事は庇わなくて良いから、あいつが何をしようとしたのか正直に言って!」
蒼ちゃんが真剣な瞳で聞いて来た。
俺は逃げられないと理解して、溜め息を吐いてから今日の出来事を話した。
「あの馬鹿…」
キスされそうになった話をすると、蒼ちゃんは苦々しい顔でそう呟き
「本当にごめんね。あいつ、ずっとあおちゃんの事が大好きだったから…」
そう言って、再び深々と頭を下げる。
「あの…蒼ちゃん、本当に大丈夫だから。それに…、章三の気持ちに気付いて上げられなかった俺も悪かったし…」
俺を抱き寄せた時、章三の顔は凄く辛そうだった。
俺は蒼ちゃんに言いながら、章三の顔を思い出して胸が痛む。
物心着いた時から、ずっと一緒に居た章三。
俺が「蒼ちゃん、蒼ちゃん」ばかり言ってるから、小さい頃は「あおたん、にーたんばっかり!」って良く怒っていたっけ…。
俺が思い出していると
「章三も反省してるみたいだから、許して上げてくれないかな?」
心配そうに蒼ちゃんが俺の顔を見つめた。
俺は蒼ちゃんに苦笑いを浮かべると
「許すも何も…」
そう呟いてから
「俺の方こそ、章三に申し訳無いと思ってる。章三の気持ちにちっとも気付かなくて…」
と、蒼ちゃんに答えた。
蒼ちゃんは俺の言葉を聞くと、小さく微笑んで
「ありがとう。本当に…相手があおちゃんで、良かったと思うよ」
そう言うと、ゆっくりと俺の前の席に座った。
目の前に座る蒼ちゃんは、窓からの陽の光で髪の毛が金色に輝き、校庭を眺めるように視線を外に向けている姿は1つの芸術作品のように美しい。
髪の毛と同じように、金色に輝く長い睫毛。
陶器のように滑らかで透明感のある肌。
唇は艶やかで、ゾクッとする程の色香を醸し出している。
きっと、蒼ちゃんに免疫が無い人は狂わされてしまうのだろうと思う。
そんな事を考えながら蒼ちゃんを黙って見つめていると
「章三は…勘違いしてるんだと思うんだ」
蒼ちゃんがぽつりと話し出す。
「あいつのあおちゃんへの感情は、恋愛じゃないと思う。」
ゆっくりと俺を見つめて、言葉を選ぶように蒼ちゃんが話を続ける。
「確かにあいつはあおちゃんが大好きだよ。それは僕も認める。でも、それは僕があおちゃんを大好きな気持ちと一緒だと思ってるんだ。だから、あいつの気持ちは恋愛感情とは違うと思うんだ。分かるかな?」
確認するように、蒼ちゃんが俺を真っ直ぐに見て聞いて来た。
俺は蒼ちゃんの言葉の意味をすぐに理解した。
俺も、蒼ちゃんや章三が大好きだ。
もし、2人が引越しするってなったら寂しいし、章三にもし俺以上に仲の良い奴が現れたら面白くは無いと思う。でも、それは恋愛感情では無くて、友達を取られた寂しさだと思う。
もし章三が本当に俺に対して恋愛感情があったとしたら、長年一緒に寝泊まりしているのに安全な訳が無い。今回、キスされそうになったものの、本意では無いと思うんだ。
あいつが本気で俺にキスしようとしていたら、俺が突き飛ばした程度で逃げられないと思う。
それに…あいつが俺に対して、俺が秋月先輩を想うような感情があったとは思えない。
俺は、蒼ちゃんの家に泊まる秋月先輩を見る度に苦しかった。
いつだって、届かない想いに身を焦がすようだった。大好きな筈の蒼ちゃんの事を、何度、憎いとさえ思ったか分からない。
2人が並んで歩く姿を見る度、先輩はどんな風に蒼ちゃんに愛を囁くのだろうか?
あの逞しい腕に、蒼ちゃんは何度抱かれたのだろうか?
そう考えるだけで、どす黒い感情に身動きが出来なくなる。
何度、秋月先輩の視線が俺だけを見てくれれば良いと願っただろう。
あの声で、唇で、腕で…全てで俺に触れて欲しいと願ってしまう。
そう、たとえそれが一夜の夢でも良いからと…。
でも、それは叶わぬ夢だと分かっている。
相手が今、目の前に居る蒼ちゃんなんだから適う訳が無い。
それに…、蒼ちゃんが先輩と清い関係では無いのも知っている。
先輩の家に泊まった翌日は、蒼ちゃんのフェロモンが倍増される。
しかも、何度か偶然目にした蒼ちゃんの鎖骨に刻まれたキスマーク。
消える頃には必ず刻まれている。
そう、所有者の存在を誇示するかのように…。
普段はネクタイをしているから見えないけど、俺は偶然自宅に居る蒼ちゃんの私服から、何度か目にしてしまった。
その度、胸がぎゅっと苦しくなって、泣きそうになった。
章三が、そんな気持ちを味わっているようには考え難かった。
ぼんやりと考えていると、蒼ちゃんがジッと俺を見つめていた。
そして
「前から聞こうと思ってたんだけど…、あおちゃん好きな人出来た?」
と、突然聞かれて思わず動揺してしまう。
「えっ!!嫌、あの…居ないよ!」
慌てて否定すると、蒼ちゃんの目が座る。
「どうして隠すの?好きな人、居るんでしょう?」
にじり寄る蒼ちゃんから視線を逃がすと、蒼ちゃんが大きな溜め息を吐いた。
「しかもその相手、翔なんでしょう?」
確信を突かれて、思わず蒼ちゃんの顔を見た。
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