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雨降って地固まる⑥
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「あれ?あおちゃん?翔?」
一階で俺達を探す蒼ちゃんの声が聞こえる。
「蒼ちゃん!二階にいるよ~!」
と、俺がドアから下の蒼ちゃんに声を掛けると、背後でベッドの軋む音が響いた。
驚いて振り向くと、先輩がベッドに倒れ込んでいる。
「くっそ~、蒼介の奴…」
悔しそうに呟く先輩の声に、俺は思わず笑ってしまう。そして足早に先輩に近付き
「兄さん」
って小声で囁くと、驚いたように先輩が顔を上げて俺を見上げた。
階段を上る蒼ちゃんの足音を聞きながら、俺はそっと先輩の頬にキスをして
「大好きです」
と、先輩の耳元にそっと囁いた。
「え?」
驚いた顔をした後、先輩が真っ赤な顔で俺を見つめた。
俺は微笑んでから輩に背中を向けて、開いたままのドアへと歩き出す。
丁度、部屋の入口に着いた頃、蒼ちゃんが現れた。そしてベットの上で放心状態の先輩を見て
「翔…お前、何してんの?」
と、眉間にしわを寄せて呟く。
先輩は蒼ちゃんの顔を見てから、再び顔を枕に沈めて撃沈していた。
蒼ちゃんは呆れた顔をして俺を見ると
「あおちゃん…、あれの何処が良いの?」
と、こっそり耳元で呟く。
俺がちょっと恥ずかしい気持ちのまま蒼ちゃんに微笑み返すと、蒼ちゃんは嫌な顔をして
「おい…翔!お前、あおちゃんに変な事してないだろうな!」
そう言ってベットに倒れ込んでいる先輩を叩き起こしている。
「変な事って、何だよ!」
「はぁ?僕に言えっていうのか?」
「お前等と一緒にするな!」
「何だと!」
先輩のベッドの上で、蒼ちゃんが先輩の襟首を掴んで揺すっている。
呆れて見ていると、ふわりと田中さんのコロンの香りがして振り向いた。
いつの間にか俺の後ろに田中さんが立っていて
「なにしてるんです?あの二人?」
と、呆れた顔をして呟いた。
「さぁ?」
俺が首を傾げると、田中さんは「やれやれ…」と溜息を吐きながら蒼ちゃんの傍に行き
「幾ら私が寛大だからって、他の男のベッドの上に恋人が居るのは面白くないですね…」
そう言うと、蒼ちゃんをひょいっと抱き上げて肩に担いだ。
そして大股で歩くと先輩の部屋のドアまで進み、田中さんはゆっくりと振り返って笑顔を浮かべると
「すみません。少々お仕置きをしてきますので、お時間を頂きますね」
そう言うと、屋上へと続く階段を上って行った。
蒼ちゃんはその間
「え?ちょっと待って!誤解、誤解だって!」
と、ジタバタ暴れていたけど、田中さんは無視をしてずんずんと歩いて行ってしまった。
「お仕置きって…」
俺が思わず呟くと
「まぁ…説教だろう?田中、ああ見えて説教ジジイだから…」
先輩はそう言って、「はぁ…」っと深い溜息を吐いた。
「説教?」
あの蒼ちゃんが、田中さんに説教されているっていう構図を想像しただけで笑っちゃうけど…。
俺が田中さんに蒼ちゃんが怒られてる状況を想像して笑っていると、先輩が俺の顔をジッと見つめて居た。
不思議に思って見つめ返すと
「葵は…蒼介の事になると、本当に良い顔して笑うよね」
そう呟いた。
「え?そうですか?」
俺が瞬きすると、先輩はゆっくりと立ち上がって近付いて来た。
「そうだよ…、悔しい位にね…」
と言って、俺の頭をポンポンと軽く叩いた。
「さて、気を取り直して…取り敢えずコーヒーでも淹れるかな…」
そう言うと、先輩は小さく笑って歩き出した。
俺は迷子にならないように…と、先輩の背中に着いて歩く。
慣れない家が不安で、思わず無意識に先輩のシャツの裾を掴んでいたみたいで、先輩は驚いたように一瞬振り返ったけど、小さく微笑んでそのまま歩き出す。
その背中は大きくて、とても愛しいと思った。
この気持ちを見せられたら、何かが変わるのかな?
蒼ちゃんへの気持ちとは違う、胸がギュッと痛くなる気持ち。
時々、先輩への想いが溢れ出しそうになる。
苦しくて切なくて…とても愛しくて…。
近付いては遠くなるような感覚は、先輩も同じ気持ちなんだろうか?
そんな事を考えながら、俺は先輩の背中を見つめていた。
俺は先輩の淹れるコーヒーを眺めながら、2人が降りて来るのを待っていた。
「コーヒーって、香りは良いんですよね~」
コーヒーメーカーから香る匂いに呟くと
「コーヒー飲めないの?」
先輩はそう言って、粉末のミルクティーの袋を取り出す。
「はい。先輩は飲めるんですか?」
尊敬の眼差しで聞くと
「田中の幼馴染が喫茶店を経営しててね。その人が淹れるコーヒーを飲んでからかな?」
と答えると、慣れた手付きで粉末のミルクティーにお湯を注ぐ。
「コーヒーが飲めないなら…葵もミルクティーで良い?ココアもあったと思うけど…」
先輩がキッチンの棚を開けて、ココアの缶を取り出す。
「あ!俺もミルクティーで良いです」
慌てて答えると、先輩はココアの缶を元の場所へ戻し、来客用のカップとソーサーを取り出して俺にミルクティーをいれている。
他の3つはマイカップみたいで、なんだか自分だけがよそ者みたいな気分になった。
すると先輩は俺の表情で何かを察知したのか、棚から箱を取り出すと、中からマグカップを取り出して
「引越しして来るから、今、自宅で使ってるカップがあるだろうと思って来客用を出したんだけど…」
そう言って、俺の前に差し出した。
「このカップで良かったら使う?」
と聞いて来た。
カップはなんの変哲も無い白いカップだけど、俺は嬉しくて
「良いんですか?」
って思わず叫ぶと、先輩は微笑んで
「もちろん。じゃあ、これは葵のカップね」
そう言って新しいカップを洗ってくれている。
布巾でカップを拭くと、粉末のミルクティーを入れてお湯を注いだ。
すると、真っ白なマグカップに宇宙の絵柄が浮かんで来た。
「あ!絵柄浮かんできた!」
思わず前のめりで見ていると、先輩がくすくす笑って
「こういうの好きそうだなぁ~って思ったけど、正解だったみたいだね」
って言うと、俺にマグカップを差し出した。
ミルクティーの甘い香りが漂い、俺は満面の笑みでミルクティーを口に含む。
先輩は俺の様子を横目で見ながら、自分のカップにコーヒーを注ぐと、キッチンにあるテーブルに先輩と向き合って座った。
先輩はコーヒーに何も入れずに飲んでいて、凄いなぁ~って見ていると
「飲んでみる?」
と、先輩がカップを差し出す。
「え!苦いですよね?」
思わずカップを受け取り、くんくんと匂いを嗅ぐ。
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