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最終章 笑う門には福来る
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7月の最後の日曜日。
今日は母さんと秋月先輩のお父さんの結婚式。
あの日から、それはもう怒涛の毎日だった。
俺の養子縁組の申請やら、引っ越し業者を呼んで引っ越しの準備。
学校への名字変更と住所変更届を出したり、母さんはその間に結婚式の用意だったりと本当にバタバタだった。
実際、挙式前日に親父の墓参りと神崎家への挨拶を済ませて、新居の秋月家に帰宅したのは夜遅くになってしまう。
秋月さんも先輩も俺達の帰宅を待っていてはくれたけど、俺と母さんの疲労の様子を見てそのままお風呂に入って寝るだけになってしまった。
新しい部屋に浸る間も無く、ベッドに潜り込むと泥のように眠りに着いた。
『ピピピピ!ピピピピピ!』
スマホのアラーム音に手を伸ばし、目を開けて見慣れない天井に一瞬ビビる。
(あぁ…そうか。俺、今日からこの家の子なんだ…)
ぼんやり考えながら、ベッドから起き上がってスリッパをはくと下へ降りる。
部屋のドアを開けたらリビングだったマンション暮らしに慣れていたから、部屋を出て階段を下りてリビングに行くというが…自宅という感覚にならない。
ピカピカに磨かれた廊下を歩き、リビングのドアを開ける。
広いリビングの右側にあるキッチンには、エプロン姿の田中さんが立っていた。
スーツの上着を脱いで、シャツにエプロンという何ともレアな田中さんの後ろ姿を見ていると、俺の気配に気付いたらしく振り向いて
「葵様、おはようございます」
と、笑顔で言われる。
「おはようございます」
慣れなくて戸惑っていると
「良く眠れましたか?社長と京子様は式場へ先に向かわれましたので、私達は食事をしてから支度して向かいましょう」
田中さんはスケジュールを伝えながら、テーブルに朝食を並べている。
「葵様。顔を洗うのでしたら、下の洗面所は今、翔さんがシャワーを浴びていらっしゃるので、中2階の洗面所をお使い下さい」
と言われてタオルを渡される。
階段を上り中2階の扉を開けると洗面所があり、その奥のドアを開けるとトイレになっている。
そのトイレも広くて、ドアを開ける度に「え〜!」とか「ひゃ~!」とか叫んでいた。
洗面台は白磁器で出来ているみたいで、ツルツルツヤツヤ。
今までの生活とは余りにも違い過ぎて、もはやテーマパーク。
顔を洗ってダイニングに戻ると、先輩がクスクス笑いながら
「何か変な物でもあった?」
って聞いて来た。
先輩はシャワーを浴びた後だからか、髪の毛が少しまだ濡れている。
パジャマ姿の俺に対して、先輩は長袖シャツにジーンズ姿。
「あ!俺も着替えて来ます」
慌ててUターンしようとすると、先輩が俺の手を掴んで
「大丈夫だよ。俺、走って来たからこの服装なだけで、普段はパジャマだし」
と、フォローしてくれている。
「でも…」
落ち込んで呟くと
「どうせこの後、制服に着替えるんだし」
と笑顔で言われて、渋々席に着く。
朝食はベーコンに目玉焼き。
トーストにコーンスープが出て来た。
「式場で食事が出るので、軽めにしておきました」
田中さんは言いながら、俺にミルクティー。
先輩にはコーヒーを差し出す。
俺が手を合わせて
「いただきます」
と言うと、トーストにベーコンと目玉焼きを乗せて食べ始める。
そんな俺の顔を田中さんがニコニコしながら見ているので、何か変な食べ方してるかな?って思って
「あの…変な食べ方してますか?」
って聞いてみると
「いえ、美味しそうに食べているなぁ~と思いまして。翔さんは無表情ですし、蒼介さんは食が細いので、そんな風に美味しそうに食べて頂けると嬉しいです」
そう答えてから
「葵様、口元に卵の黄身が着いていますよ」
と言って、俺の右側の口元を親指で拭うと、その親指をペロリと舐めた。
その仕草が余りにも自然で、思わずポカンとしていると、田中さんが楽しそうに笑いながら
「翔さん、ケチャップ…そんなに強く握ったら破裂しますよ」
って呟いた。
その瞬間、された事の恥ずかしさに赤面する。
俺の様子を見て、田中さんはにっこりと妖艶な笑みを浮かべて
「すみません…、つい癖で。」
って言うと、そっと俺の頭を撫でた。
「田中…蒼介にチクるからな…」
隣の先輩が呻くように呟くと
「ご自由に。もしこれが蒼介さんでしたら、直接舐めて取りますよ。指で拭ったくらい…ねぇ…」
田中さんの色気を纏った笑みに同意を求められ、俺がオドオドして先輩に救いの視線を投げる。
「お前、葵が困ってるだろうが!誰彼構わず、色気を振り撒くな!」
先輩はコーヒーをテーブルに音を立てて置くと、田中さんを睨み付けた。
「はいはい。全く、翔さんはすぐ怒る」
そう言いながら、全く悪びれる様子も無く田中さんは笑ってる。
俺がそのやり取りに呆気に取られていると
「葵も、気にしないでさっさと食べて支度した方が良いぞ」
って優しく言うと、先輩は俺の頭をそっと撫でた。俺は笑顔で頷き、今度は気を付けて食べようと考えた時、後から『蒼介さんでしたら、直接舐めて取りますよ』の意味を理解して赤面する。
2人で向かい合いながら食事をしていて
『蒼介さん、ご飯粒着いてますよ』
『え?本当に?』
田中さんに言われて、慌てる蒼ちゃんの顎を掴みご飯粒を直接舐めて取る光景が浮かんで恥ずかしくなる。
「葵?どうした?」
そんな俺に、先輩が不思議そうに声を掛けて来る。
「な…、なんでもない!」
必死にパンを口に押し込み、雑念を払うようにスープで流し込む。
その様子を唖然と見つめている先輩を横目に
「ご馳走様でした」
って席を立つと、田中さんはにっこり微笑んで
「何をご想像なさっていたんですか?」
と聞いて来た。
俺は逃げるように
「な…何も想像してないです!」
って叫び、食器をシンクに入れると脱兎の如く自分の部屋へと逃げ込んだ。
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