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笑う門には福来る②
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「はぁ…」
大きく溜息を吐いてその場に座り込む。
先輩は凄いよなぁ~。
顔色一つ変えず対応してるもんなぁ~。
田中さんって、絶対に…その…なんだ。
夜の営み的なの?慣れてそうだからなぁ~。
蒼ちゃんのキスマークだって、絶対に敢えて体育着でもバレないように鎖骨に着けてるんだと思う。
…正直、あの蒼ちゃんが田中さんと…っていうのがまだ不思議だけど。
俺はそんな事を考えながら制服に着替える。
そう言えば…中学は学ランで桐楠大附がブレザーだから、蒼ちゃんにネクタイの結び方を教わったんだよな…。
クリーム色のブレザーに、茶色のパンツ。
白シャツに男子は赤いネクタイで、ブレザーの胸ポケットにはTの文字をお洒落に変形させて刺繍されていて、いかにもお嬢様、お坊ちゃま学校っぽい。
ネクタイを結びながら、ぼんやりと思い出す。
中々、上手く結べなくて、慣れるまで何度も何度も教わったなぁ~。
懐かしくて笑みがこぼれた時に、ふと思い出した。蒼ちゃんが手早く綺麗にネクタイを結べるから褒めたら、
「僕も最初、上手く結べなくて苦労したんだ」
って言った後、頬を赤らめながら
「綺麗に結んで上げたくて、結べるようになるまで何度も教えてもらったんだ」
と話してた。
その時は赤地のおじさんにだろうと思って聞いてたし、頬を赤らめたのは、中々上手くならなくて恥ずかしいからだと思ってた。
あれってもしかして…。
朝から蒼ちゃんと田中さんの妄想が止まらず、頭を振って雑念を払う。
手早くネクタイを締めると、部屋を飛び出した。
部屋に居ると、余計な事を考えちゃいそうでリビングに顔を出す。
すると丁度、田中さんがエプロンを外してスーツのジャケットを身に着けた所だった。
身のこなしが綺麗で、さすが元モデル。
思わず見蕩れていると、田中さんは俺の視線に気付いて振り向いた。
そして俺を見ると小さく微笑み、ゆっくりと近付くと
「ネクタイ、曲がっていますよ」
そう言いながら、手際良く俺のネクタイを外して結び直した。
「はい、これで大丈夫ですよ」
笑顔で言われて、思わず
「さすが手馴れてますね」
と感心して呟いてしまった。
すると田中さんはにやりと妖しい笑みを浮かべて
「あぁ…蒼介さんのネクタイは、最近、外したことしかないですよ」
って答えた。
俺が真っ赤になって
「ち…違いますよ!田中さん、普段からネクタイしてるから、さすがに手馴れてるって言ったんです!」
と反論すると
「おや、そうでしたか。それは失礼致しました」
って、飄々としている。
(蒼ちゃん…田中さんの何処が良いんだろう?)
思わず心の中で呟くと
「私も聞いてみたいですね。まぁ、私は蒼介さんの全部が愛しいですけどね」
と、田中さんが呟いた。
「え!」
驚いて田中さんの顔を見ると
「図星ですか?葵様、思ってる事が顔に全部書いてありますよ」
田中さんの言葉に思わず洗面所へ駆け込むと、背後から田中さんが爆笑する声が聞こえる。
(あ…遊ばれてる…)
真っ赤になっている顔を洗い、リビングに戻ると先輩の姿が見えてホッとした。
先輩は俺に気付くと
「支度出来た?」
そう言って笑顔を浮かべた。
やっぱり、先輩の笑顔は安心する。
「はい」
って言いながら隣に並ぶと、田中さんは腕時計を見ながら
「では、車を出して来ますので」
と言って、部屋を後にした。
「いよいよかぁ〜、緊張するな〜」
深呼吸していると、先輩が隣でクスクス笑いながら
「主役は京子さんなんだから、俺達が緊張しても仕方ないだろう」
って言って、俺の頭を撫でた。
ふと、あの日を思い出す。
幼い頃、俺の手を引いて歩く母さんが、ショーウィンドウに飾られたウエディングドレスを見上げていた姿。
羨ましそうに、そして何処か諦めたような横顔。
「お母さんの夢、叶って良かったな」
ぽつりと先輩に言われて、思わず顔を見上げる。
「どうした?俺、変な事言った?」
驚いた顔をされて、この人を好きになって良かったと思った。
同じ時、同じ瞬間に、同じ事を思える相手。
ジワリと浮かぶ涙を拭い
「えへへ。同じ事考えてたから、嬉しくて」
って微笑むと、先輩の手が俺の涙に触れる。
「葵…俺……」
見つめ合い、涙に触れた先輩の手が優しく頬を包む。
『大好きです』って気持ちを込めて俺が先輩を見つめると、先輩の口が開き…掛けた時
「翔さん、葵様、車の準備……」
と、タイミング悪く田中さんが現れた。
「あ……、車にいるので…準備出来たら来て下さい」
って言うと、Uターンした。
先輩は慌てて田中さんの襟首を掴み
「今行く!わざとらしく置いて行くな!」
って、真っ赤になって叫んだ。
田中さんは乱れたジャケットを直しながら
「そうですか?遠慮なさらずに」
と、にっこり微笑む。
「お前は黙れ!」
って叫ぶと、先輩は俺の方に振り向き
「じゃあ、行こうか」
そう言って手を差し出した。
それはまるで、俺が結婚式に誘われているような錯覚に陥る。
俺は笑顔で頷き、先輩の手を取って玄関へと向かった。
車に乗り込み、式場へと向かう車内。
「翔さん、すみません。まさか、式場へ向かう車を出す短い時間で、あんなピンクの空気を出すような事が起こるなんて思いもしなかったもので」
と、田中さんが言い出した。
「だって、私、言いましたよね?車出して来ますって。まさか、呼びに戻る時間が分からない訳じゃないですよね?あ?それともあれですか?つい、流れに身を任せてって感じですか?」
揶揄うように言われて、先輩は窓の外を見ているんだけど、首まで真っ赤にしている。
「あ!そうだ!蒼介さんにご報告を…」
と、田中さんが言い掛けた所で、先輩の堪忍袋の緒が切れた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、お前、煩いんだよ!」
そう叫んで、田中さんのシートをゲシゲシと蹴り始めた。
「せ…先輩、落ち着いて!」
慌てて止めると
「田中、お前…蒼介に余計な事言ったらぶっ飛ばす!」
って叫んで、握り拳を握っていた。
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