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笑う門には福来る③
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式場に到着すると、既に蒼ちゃん達は到着していた。
「蒼ちゃん、おはよう」
俺が笑顔で声を掛けると
「あおちゃん、おはよう」
って笑顔で答えると
「この建物、前来た時はまだ未完成の場所もあったけど、随分綺麗に仕上がったんだね」
そう言って俺の隣に並ぶ。
先輩は車から降りると、電話するから少し外すと言って、何処かに歩いて行ってしまった。
この式場は、何処かの国の古いお城をモデルに作られた披露宴会場と、そことは別に小さなチャペルが小高い丘の上にある結婚式場。
そう…蒼ちゃんがモデルをして、一躍有名になった秋月先輩のお父さんが経営する結婚式場で母さんは今日、結婚する。
披露宴会場のある建物の1Fに、披露宴会場とは別の入り口から式場の予約や打合せをする場所があるんだけど、そこにはいまだに蒼ちゃんと田中さんのポスターが厳重な管理のもとに飾られている。
「あのポスター…いい加減、止めて欲しいんだけど…」
嫌そうに呟く蒼ちゃんに、章三が苦笑いしながら
「仕方ないだろう?イメージモデルなんかになったんだから」
と反論した。
そう言えば…母さんが今日着るドレス。
蒼ちゃんが着たドレスだって聞いたな…。
ぼんやり考えていると
「京子さんの支度、まだ少しかかるみたいだよ。
あのドレス…着るの大変だったからね…」
思い出すのも嫌そうに、蒼ちゃんが呟いた。
すると部屋のドアがノックされ
「おはようございます。葵様、後ほど京子様とチャペルを歩かれますので、先に待機して頂けますか?」
と、車を駐車場に止めて田中さんが入って来た。
今日、俺は母さんとバージンロードを歩く。
母さんが母さん側の親族を誰も呼んでいないので、父親の代わりに母さんを俺がエスコートするのだ。
「分かりました」
僕は蒼ちゃん達と「また後で」と言って分れ、田中さんに連れられてチャペルへと案内される。
披露宴会場のある建物からチャペルまでは徒歩5分位で、綺麗な庭園が続いている。
この庭園で記念写真を撮るのも、この式場の名物になっているらしい。
小高い丘を登り、小さな可愛らしい教会が立っている。
「では、私は此処で…」
と、田中さんは中に入らずに踵を返した。
「え?」
驚いて振り向くと、笑顔を浮かべて
「中に入ってお待ち下さい」
って付け加えた。
俺は首を傾げながら、チャペルのドアを開ける。
中は綺麗なステンドグラスで飾られ、椅子には真っ白のバラの花が飾られている。
新婦が歩く道には、真っ赤カーペットが敷かれていた。
「おお!バージンロードって、レッドカーペットなんだ!」
思わず呟いた瞬間
「え?」
って声がした。
驚いて振り向くと、秋月先輩が立っていた。
「どうして此処に?まだ、リハーサル時間じゃないよね?」
時計を見ながら先輩が訊いて来た。
「田中さんに、先に此処で待機するようにって言われて…」
そう答えると、先輩が
「あいつ…又余計な事を…」
っと、独り言を言っていた。
「あの…迷惑でしたか?」
慌てて出ようとすると
「違うんだ。ごめん」
先輩はそう言って、ドアに手を掛けた俺の手に触れた。
驚いて先輩を見上げると
「あ、ごめん。」
と言って、先輩が俺の手から手を離す。
「迷惑とかじゃないんだ。その…、まだ心の準備が出来て無くて…」
口元に手を当てながら、真っ赤な顔をして先輩が呟いている。
「?」
狼狽えている先輩を疑問の視線で見つめていると、意を決したように深呼吸した先輩が俺に向き直る。
「あの…今から言う事を、取り敢えず黙って聞いて欲しい」
真剣な顔をされて言われ、俺は黙って頷いた。
「今日、ここで親父と葵のお母さんが結婚式を上げる。俺達は正式に兄弟になる訳だけど…」
ここまで言うと、先輩は言いづらそうに溜め息を吐いた。
俺は何を言われるのか不安になる。
すると先輩は
「ずっと考えてた。親父から再婚するって聞かされた時からずっと…。本当は、家を出るつもりだったんだ。再婚相手が、葵のお母さんと知る前までは…」
そう続けた。俺は先輩の言葉に息を呑む。
「俺…葵の兄貴にはなれない」
先輩は俺の顔を真っ直ぐに見つめて言い切った。
(それって…俺と兄弟になりたくないって事?)
悲しくなって、涙が込み上げて来る。
すると先輩は俺の顔を見て慌てて
「あ!違うんだ…。嫌…違わないんだけど…」
とオロオロした後、頭をガシガシと掻いて
「ごめん!いつも蒼介に言葉が足りないって言われてるから…色々考えたんだけど…。やっぱり俺は俺だから…。単刀直入に言わせてもらう。俺は、葵が好きなんだ」
先輩の言葉に俺の思考が止まる。
「え?」
「あ…その…Likeじゃないくて…その…Loveの方で…」
と、首まで真っ赤にして呟いた。
その瞬間、俺の目から涙が滝のように溢れ出した。
「え!あ…ごめん、気持ち悪いよな。でも…家族になる以上、嘘は吐きたくなかったんだ」
先輩はそう言うと、そっと俺にハンカチを差し出した。
俺がハンカチを受け取ると
「こんな気持ちの奴と一緒に居るのが嫌なら、俺は家を出る。だから…」
と言い掛けた先輩の言葉を遮るように
「嫌じゃない!」
俺は必死に叫んだ。
「俺も…ずっと好きだった。でも…先輩は蒼ちゃんの恋人だと思ってたから…。何度も諦めなくちゃって思っても、全然諦められなくて…」
泣きながら、自分の気持ちを必死に伝える。
今、伝えなくちゃ、先輩が居なくなりそうな気がした。
すると先輩は驚いた顔をして俺を見つめて
「蒼介?なんで…そこで蒼介?」
って、的外れな反応をしている。
俺が思わず先輩のその反応に吹き出すと、先輩も小さく微笑み
「泣いたり笑ったり…、葵は本当に表情がくるくると変わるな」
そう言いながら、そっと俺を抱き締めた。
ふわりと先輩の香りが鼻を掠める。
大好きな人の香りって、なんかドキドキして胸が苦しくなる。
「やっと…捕まえた」
俺の頭上から先輩の声がする。
「え?」
聞き返そうと顔を上げると、そっと先輩の唇が俺の唇に触れた。
俺、多分真っ赤な顔をしていると思う。
驚いて先輩を見つめて居ると、先輩が突然「ぷっ」っと吹き出した。
「え?何で此処で笑うんですか?」
「ごめん、ごめん。初めて出会った時も、そんな顔してたな~と思って」
先輩の言葉に、俺はあの日を思い出す。
「あっかんべ~、した方が良いですか?」
あの日の色々を思い出して、益々顔が熱くなって尋ねると、先輩はコツンと額を俺の額に当てて
「嫌、出来ればもう一度、キスをさせてくれると嬉しいな」
と、笑顔で言われた。
(その笑顔でそれ言われたら…断れないに決まってるでしょう!)
心の中で毒づきながら、俺、心臓が破裂する位にはバクバクしていると思う。
思わず恥ずかしくて、先輩の胸に顔を隠してから
「そんなの…訊かないで下さいよ」
そう返した。
その瞬間、ふわりと身体が宙に浮く。
先輩は俺の腰を掴んで抱き上げると
「葵。俺は今、此処で神様に誓う。俺は一生、お前を愛し続けると…」
いつになく真剣に言われて、俺も先輩に笑顔で
「俺も…神様に誓います。ずっと翔さんの事が大好きです」
そう言って抱き付いた。
そしてゆっくりと見つめ合い、再び唇を重ねる。
それはまるで、誓いのキスのように…。
すると、俺達を祝福するかのようにチャペルの鐘の音が鳴り響いた。
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