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笑う門には福来る④
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「わぁ~!母さん、別人みたい」
チャペルの鐘の音は、新婦の用意が出来た事を知らせる合図のようだった。
しばらくして、チャペルのドアがノックされた。
そして少しの間の後、ゆっくりとドアが開き田中さんが顔を出した。
「宜しいですか?」
と聞かれ、俺は聞かれてはいないと思いながらも、何となく恥ずかしくなって先輩と少し距離を取ってしまった。
すると、蒼ちゃんに手を引かれた母さんが、チャペルの中に入って来た。
で、冒頭のセリフを叫んだのだが…。
「あおちゃん!別人は失礼だろう!」
って、蒼ちゃんに怒られてしまう。
でも、ウエディングドレスを着た母さんは本当に綺麗だった。
ドレスには無数のダイヤが施されていて、母さんの顔が強張っている。
「蒼ちゃん…良くこんなの着てたわね」
歩きながらぼやいた母さんに
「え?あ…僕、これが本物のダイヤって知らなかったんだよね。知ってたら、間違いなく歩けなかったよ」
って、蒼ちゃんが苦笑いして答える。
「え?そうなの?」
母さんが驚いていると
「そう。田中さんが、スタッフに絶対に言うなって言ったらしいよ」
と、唇を尖らせて呟いた。
すると母さんはふふふって笑いながら
「でも、正解だった訳ね」
そう言って田中さんを見た。
田中さんが知らん顔していると、式場のスタッフの方が現れた。
「お待たせいたしました。では、新婦様と歩かれるのは…、こちらのお客様で宜しいですか?」
と、俺達をぐるりと見回した後、俺に視線を移した。
「はい。宜しくお願い致します」
俺が緊張してお辞儀すると、スタッフの女性は笑顔のまま
「ご:姉弟(きょうだい)ですか?良く似ていらっしゃいますね」
そう言って母さんのドレスのすそを処理している。
「あら、姉弟に見えます?この子、私の息子なんですよ」
母さんはそう言うと、俺の腕にしがみついた。
「これは失礼致しました。お若いお母様なので、ついご姉弟かと思いました」
女性スタッフは笑顔で答えると、
「では、親子でバージンロードを歩かれるんですね。素敵ですね」
そう言って母さんと俺をバージンロードの末端に案内する。
「歩き方は、右足を出したら次に左足を前に出して足を合わせて止まる。そして左足も同じようにして一歩前に出して、右足と合わせて止まる。という感じで歩いて下さい。」
俺は腕を母さんに差し出し、母さんは俺の腕に手を乗せる。
驚く程に細くて小さい母さんの手に、俺はずっとこの手に守られて支えられてきたんだと感慨深くなった。
「じゃあ、歩くよ」
母さんに声を掛けて、一歩、一歩と歩みを進める。すると突然、母さんが隣で泣き出した。
「え!どうしたの?」
驚いて母さんに声を掛けると
「あおちゃんが、こんなに大きくなったんだって思ったら…なんか…」
ボロボロと泣いている母さんに、女性スタッフが飛んで来て慌てて涙を拭うと
「花嫁様、泣くのはもう少し待って下さいね」
っと、優しく微笑まれて言われる。
母さんは目を潤ませながら
「私が結婚するんじゃなくて、あおちゃんをお嫁に出す気分になって来た」
と、母さんが呟いた。
「母さん…」
呆れて苦笑いすると
「あおちゃん、今までありがとう。これからは、自分の為に生きなさいね」
リハーサルで歩きながら母さんが呟く。
「母さんは、幸助さんとちゃんと生きていくから…。だから、あおちゃんはあおちゃんの大切な人を離しちゃダメよ」
そう呟くと、母さんは涙を浮かべながら笑顔を浮かべた。
俺はこの人の子供で良かったと思う。
きっとこれから、俺は色んな壁にぶつかると思う。でも、俺には母さんと…そしてこれから一緒に歩いて行く先輩が居る。
チャペルの座席、俺達の反対側の席に並んでリハーサルを見ている先輩に視線を移すと、先輩は優しい笑顔を浮かべて俺達を見守っている。そして自分の側には、蒼ちゃんと章三が笑顔で立っている。俺は今まで、こんなに素敵な人達と過ごして生きて来たんだと思うと胸が熱くなった。
気が付くと、新郎の位置に先輩のお父さんが立っていた。
俺と母さんが親族側の席の最前列に立つと、先輩のお父さんが一礼して母さんを迎えに来る。母さんは先輩のお父さんの腕へと移ってチャペルの祭壇へと歩いた。その後ろ姿は本当に綺麗だった。
「では、間もなく他の参列者の方々も参ります。ご親族の方はこちらへ」
と、スタッフの人が控室へと案内してくれた。
母さんと先輩のお父さんはスタッフに連れられて新郎新婦の控室へと消えていく。
いよいよなんだな…って、妙に緊張して来た。
すると先輩が俺の手にジュースを乗せて
「お疲れ様」
と、隣に座る。
「嫌…本番はこれからだから…」
ドキドキして俺が答えると、先輩は優しく微笑んで
「家でも言ったけど、主役は京子さんなんだから、添え物位に思っていたら良いよ」
そう言って俺の頭を軽く撫でる。
俺は優しく微笑む先輩の顔を見上げて
「うん」
って笑顔を返した。
すると、俺と先輩の間にグイっと蒼ちゃんが割り込んで来る。
「おい、いつからそんな関係になってるんだよ」
目を座らせて、蒼ちゃんが先輩に詰め寄る。
「そんな関係って…なんだよ」
先輩が苦笑いして答えると、蒼ちゃんが
「お前等、付き合ってるだろう?」
そう呟いた。
「え!」
思わず先輩と同時に叫ぶと、俺の顔が真っ赤になっているのが分かる位に顔が熱い。
「あおちゃん…」
そんな俺を見て、蒼ちゃんが悲しそうに呟くと
「僕はこんな奴にあおちゃんを任せる為に、今まで守って来たんじゃないのに…」
って、明らかに泣きまねをして続けた。
「おい…こんな奴って…」
先輩が呆れて呟くと
「あおちゃんは、僕の天使だったのに…」
そう言って蒼ちゃんが抱き付く。
「はいはい。蒼ちゃん、田中さんを放っておいて良いの?」
苦笑いしながら控室を見回すと、田中さんの姿が無い。
「あぁ、今日は受付するらしいからね。もう、披露宴会場のある建物に行ったよ」
そう答えた。
「大変だね~」
思わず呟くと、部屋のドアがノックされる。
そしてドアが開くと
「葵~!久し振りだな!」
そう叫んで、太陽みたいな笑顔を浮かべた夏樹おじさんが現れた。
「夏樹おじさん!」
俺が笑顔で走り寄ると
「こらこら、そこはお兄ちゃん」
と笑って俺を抱き上げた。
夏樹おじさんは母さんの学生時代の友達で、世界中を飛び回っている人だ。
「葵、デカくなったな~」
ギュッと抱き締めるおじさんに
「夏樹おじさん、苦しいんだけど…」
と、言うと
「こうしてると、京子の高校時代を思い出すよ」
そう言って、俺の顔に頬擦りしている。
「ちょっと!みんなドン引きしてるじゃない!」
そんなおじさんの背中を、朱里おばさんが叩く。
「だって、葵はこんなに可愛いんだぞ。滅多に会えないんだから、会えた時くらいは可愛がらせてくれよ」
口を尖らせて抗議する夏樹おじさんを無視して、驚いた顔をする先輩や蒼ちゃん達に朱里おばさんが笑顔でお辞儀すると
「すみませんね、うちの馬鹿が…。私達は、葵のお母さんの学生時代の友達なんです」
と挨拶した。
「え?じゃあ、僕達の先輩ですか?」
蒼ちゃんが朱里おばちゃんに話しかけた。
「ええ、そうよ。ちなみにこいつ、京子に振られるのはこれで5回目?」
そう言って笑っている。
「うるさいな!良いんだよ!京子は、永遠に俺のアイドルなんだから…」
「アイドルね…」
呆れた顔をして呟く朱里おばさんに、夏樹おじさんが文句を言う。
「あの…私は今日、京子さんと結婚する秋月幸助の息子の翔です」
先輩はそう言うと、深々とお辞儀をした。
すると朱里おばさんは先輩のオデコにデコピンして
「子供のくせに、大人みたいな挨拶しなさんな!」
そう言って微笑んだ。
「子供は子供らしくが、可愛いんだよ」
朱里おばさんはそう言うと、いつまでも俺に抱き付いている夏樹おじさんの首根っこを掴み
「ほら、今日は私達が受付するんでしょう!」
そう言うと、夏樹おじさんを俺から引き剥がした。
「ごめんなさいね。ど~しても葵の顔が見たいって駄々こねるから連れて来たの。じゃあ、又後でね」
朱里おばさんは言いながら、控室から出て行った。
「葵~!又後でな~!」
ズルズルと引き摺られて出て行く夏樹おじさんに苦笑いしていると
「もしかして…あの人、写真家の砥沢夏樹?」
って、章三が呟いた。
「え?あ…うん。確か…カメラの仕事って言ってたかな?」
俺がぼんやり答えると
「ええ!マジで!!」
と、章三が叫ぶ。
「え?砥沢夏樹って、世界的に有名な写真家だよね?」
蒼ちゃんが呟くと
「確か…気難しい人って噂だけど…」
先輩も驚いた顔をして俺の顔を見る。
「あんな面白キャラにしちゃうなんて…あおちゃんってやっぱり凄いね」
蒼ちゃんが驚いた顔をして呟いた。
「え?…て事はだよ、確か砥沢夏樹の奥さんって…」
先輩がハっとした顔で呟いた。
そして三人が顔を見合わせて
「元スーパーモデルの朱里?」
そう叫んだのだ。
「え?そうなの?」
俺がぼんやり答えると
「京子さんて…何者?」
って三人が口々に呟いた。
「嫌さ、部屋に入って来た時の圧巻する美貌は只者じゃないって思ったけど…」
「まさか…世界的カメラマンと元スーパーモデルに受付やらせんの?」
三人が戦々恐々と話していると、夏樹おじさんと朱里おばさんが戻って来た。
「あれ?どうしたの?」
俺が二人に近付くと
「受付のイケメンに『お二人がいると邪魔なので、控室に居て下さい』って怒られた」
肩を窄めて朱里おばさんが呟く。
俺と蒼ちゃんは顔を見合わせる。
「自分だって、女性をきゃ~きゃ~言わせてる癖にね~」
と、朱里おばさんが呟くと
「あなた達と私を一緒にしないで下さい」
そう言いながら田中さんが入口から入って来た。
(きゃ~きゃ~言われてんだ…田中さん…)
思わず蒼ちゃんの顔を見ると、苦笑いを浮かべている。
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