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笑う門には福来る⑤
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すると夏樹おじさんが物凄い勢いで俺に走り寄り
「葵~ただいま~!」
って言いながら、俺を抱き締めて頬擦り始める。
「おじさん!本当に止めて!」
必死に止めていると
「何言ってるんだよ!お前が子供の頃は、俺がお前のおむつも替えてやったのに…」
夏樹おじさんはそう言うと、俺の頬にキスをしようとしている。
「おじさん!それはさすがに…」
って言いながら先輩の方を見ると、さすがに顔が引き攣ってる。
すると控室のドアが荒々しく開き、母さんがドレスの裾をたくし上げてズカズカと近付くと
「夏樹!いい加減にしろ!」
と言って、夏樹おじさんの頭にチョップした。
「京子~、マイハニー」
夏樹おじさんは、相変わらずのテンションで母さんをハグする。
「マイハニーは止めて!今日、結婚式なんだから!」
母さんが頬を膨らませると
「怒った京子も好きだよ」
そう言って、夏樹おじさんは母さんの手にキスを落とす。
「はいはい。朱里、良いの?」
呆れた顔をする母さんに、朱里おばさんは我関せずという顔をして見ている。
「夏樹に何を言っても無駄なの…知ってるでしょう」
朱里おばさんも呆れた顔で答えた。
それから急に笑顔になって
「京子、余計な邪魔が入ったけど…おめでとう」
と言うと、母さんにハグをした。
「二人共、遥々ありがとう」
「何言ってるのよ!親友の晴れ舞台、どんな手を使ってでも飛んで来るわよ!」
朱里おばさんの言葉に、母さんが嬉しそうに微笑む。すると背後から咳払いが聞こえて
「京子様…。申し訳ございませんが…、受付がこのお二人と言うのは…」
と、感動の再会を味わう二人に田中さんが割り込んで来た。
「え?ダメだった?ほら、結婚式の受付って、親友がやるんでしょう?」
母さんが答えると、田中さんは額に手を当てて
「確かに…一般はそうです。ですが…どこの世界に、元スーパーモデルと世界的有名写真家に受付をやらせる人が居るんですか!お蔭で受付はパニックですよ」
そう叫んだ。
「え?朱里と夏樹って、そんなに凄かったの?」
母さんらしい答えに田中さんが脱力する。
「取り敢えず、受付はうちの会社の方でやらせて頂きます。良いですね!」
田中さんはそう言うと、カツカツと歩き出した。
「自分だって、女性社員にきゃ~きゃ~言われてるのに~」
朱里おばさんが口を尖らせて、再びその話題に戻す。すると田中さんは立ち止まり
「私はキャーキャー言われたとしても、うちの女性社員くらいです。あなた方は、式場に見学に来ていた人達さえも集めてたでしょう!」
そう言うと、控室を後にした。
「へぇ~。自分が働いている会社の女性にきゃ~きゃ~言われてるのは認める訳ね…」
朱里おばさんはそう言うと、小さく微笑んだ。
「?」
俺が疑問に思って見ていると
「あぁ、ごめんね。私、昔の彼を知ってるのよ」
朱里おばさんはそう言うと
「最初、驚いたわ。昔は、あんなに表情をコロコロ変える人じゃなかったからね」
と呟いた。
「人間らしくなってて、ホっとしたわ」
朱里おばさんは独り言のように呟くと、テーブルの飲み物に手を伸ばした。
「昔の田中さんって…どんな感じだったの?」
思わず聞いた俺に、朱里おばさんは微笑むと
「葵、知って良い事と知らなくて良い事があるって分る?」
と呟いた。
俺が頷くと、朱里おばさんも微笑んだまま頷いて俺の頭を撫でた。
そして蒼ちゃんの顔を見ると
「それにしてもあなた」
そう言うと、朱里おばさんは顔を蒼ちゃんに近付けて
「やっぱり…。この式場の女性モデル、あなたね」
と呟いた。
俺と蒼ちゃんが顔を見合わせると
「大丈夫よ、他言しないから。それにしても勿体ないわね~。あれ一本だけでしょう?」
そう言ってグラスの飲み物を口にする。
やはり元スーパーモデルだけあって、どんな仕草も様になっている。
「こら、朱里。ここで商魂を出すんじゃないよ」
俺達の表情を見て、夏樹おじさんが割って入る。
「だって、夏樹も撮ってみたいでしょう?」
朱里おばさんが尋ねると
「嫌…。俺はきみが無垢の時に出会っていたら、撮りたかったな」
と、意味深に微笑んで答えた。
「さ、そろそろ式が始まるよ。葵、京子のエスコートを頼むよ」
夏樹おじさんは微笑んで俺の背中を叩いた。
「う…忘れてたのに…」
ドキドキしてきた心臓に、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
するとポンっと先輩が俺の頭に手を乗せて
「大丈夫。添え物、添え物」
って微笑んだ。
俺が先輩に微笑んで頷くと、式場の人にチャペルの外へと呼ばれる。
先輩が親族席に着こうと歩き出すと
「あ!すみません。お二人を新婦様がお呼びです」
と、チャペルの入り口に連れられる。
先輩と顔を見合わせると、入口に母さんが式場の人達にメイクを直されたりして立っていた。
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