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裏切り④
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僕は恐怖で震える声を押え、甘えるように
「お願い、顔が見えないのは怖いから…」
下半身を押えられている状況で、必死に訴えた。
すると結城は嬉しそうに笑顔を浮かべ、軽々と僕の身体を翻す。
しかし、僕が逃げないようにすぐに上に覆い被さり、キスをして来た。
僕は頭をフル回転させて
結城の首に手を回しキスに応えるフリをした。
「蒼介、俺…もう…」
荒い息を吐きながら呟いた結城に、僕は小さく頷く(フリをした)。
すると結城がズボンを脱ぐ為に、自分のズボンに手を掛けた瞬間、僕は全力で結城の腹にケリを入れた。
完全に油断していた結城のみぞおちに見事入り、僕は必死にベッドの下に落とされていたパジャマのズボンをはき、着て来た私服と荷物を手に結城の家を後にした。
どうやって帰宅したのかは覚えていない。
ただ、結城の部屋を飛び出す時に、苦しみながら
「蒼介!」
と叫んだ結城の声が耳に残っている。
自宅に戻り、震える手で鍵を開けて中に入った。
その瞬間、胸の中は絶望でいっぱいになった。
(やっぱり、僕を友達として見てくれる人なんかいないんだ…)
玄関で茫然としていると
「兄貴?」
聞き慣れた章三の声に視線を上げる。
すると2Fから心配そうなあおちゃんが顔を出している。
(そうか…。今日、父さんと母さんは旅行に行ってるんだった。
だから、僕が泊まることになって、急遽、あおちゃんが泊まってくれたんだ)
僕がぼんやりと考えていると、章三が上着を掛けてくれた。
「兄貴、風呂わいてるから…」
そう言って、そっと肩を抱いて浴室へと連れて行ってくれる。
浴室に入ってシャワーを浴びた瞬間、悔しさと情けなさが込み上げて来た。
浴室の鏡に映る僕の身体には、結城が着けた跡がいくつも赤黒く残っている。
信じていたのに…。
湯舟に入り、頭まで湯舟に沈める。
涙が後から後から溢れ出し、声を殺して泣いた。
落ち着いた頃に部屋に戻るが、瞼を閉じると悍ましい感触と状況が思い出されて怖くて眠れない。身体は震え、再び涙が溢れて来る。
もし、結城が油断せずに逃げられなかったら…。
もし、逃げる計画が失敗していたら…そう思うだけで、ゾっとして吐き気が込み上げる。
そんな状態で居ると、部屋のドアが小さくノックされる。
僕の返事を待たずにドアが開くと、あおちゃんが顔を出した。
幼馴染のあおちゃんは、僕とは違った可愛らしい男の子だ。
母親の京子さんにそっくりで、純粋無垢な可愛らしい天使のような幼馴染。
僕と同じように、心無い奴らに性の対象として見られがちだが、あおちゃんには章三が常に着いているから僕と同じような経験は全くない。
章三は小学校に上がる頃から空手を習い始めたのだが、それはきっと僕とあおちゃんを守る為なんだと思う。あいつは言わないけど、なんとなく分かる。
そんな事を考えていると、あおちゃんが僕のベッドの中に潜り込んで来た。
「あおちゃん?」
不思議に思って見ると、あおちゃんはクリクリの大きな目で僕を見つめて
「久しぶりに蒼ちゃんと一緒に寝たいんだ、良い?」
そう言って、僕の手を握り締めた。
僕を労わる温かい手。
それはさっき経験したモノとは遥かに違う、温かさを僕の心に運んでくれた。
「もちろん」
微笑んで答える僕に、あおちゃんはギュッと抱き付いて
「蒼ちゃん、大好き」
そう呟いた。
僕より小さな二つ年下の男の子。
温もりが優しくて温かくて…安心する。
僕はいつの間にか、あおちゃんを抱き締めたまま眠りに着いていた。
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