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僕…もしかして…②
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その日、送ってもらった車内で見た自分の顔にびっくりした。
目が腫れて凄い顔になっている。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」
隣に座る冴木会長と、助手席に座っている津久井先輩に頭を下げると
「馬鹿を言うな!好きな人に頼られて、俺は役得だったぞ!」
冴木会長は相変わらずな感じで、僕の両手を握り締める。
今は、冴木会長のこの感じに救われる。
思わず笑うと、冴木会長も笑顔を浮かべ
「無理はしなくて良いが、俺はきみの笑った顔が好きだ。あ!でもあれだな、美人は泣き腫らした顔も綺麗だな」
そう言って、照れ臭そうに頭をかいている。
僕は何で…こんな良い人の事が分からなかったんだろう?
きっと、翔はこの人の本質の部分を見ていたんだろうな…。
僕が小さく微笑むと
「こんな時に言うのは卑怯かもしれんが…、本気で俺との事を考えてくれないか?」
冴木会長が真剣な顔で告白してきた。
え!此処で!って思ったけど…、真面目なこの人は場所とかムードとか分からないんだろうな~って思って苦笑いする。
その時、津久井先輩の視線が気になって、思わず津久井先輩の顔を見ると
『OKしてあげて欲しい』って顔で僕を見ていた。僕は少し考えて
「あの…友達からで良いですか?」
そう返事をした。
すると冴木会長は嬉しそうに微笑むと
「もちろんだとも!」
と言って、僕の手に額を当てて微笑んだ。
「良かった~。又、振られるかと思った」
嬉しそうな冴木会長の顔に胸が痛む。
僕が好きなのは…田中さんで…。
でも、その人は決して手の届かない人。
だったら、友達としてでも他の人を見る努力をしなくちゃいけないと思った。
自宅に着いて
「ただいま~」
っと、リビングに声を掛ける。
階段を上っていると
「お兄ちゃん?ご飯、どうする?」
って声がして
「ごめん、食欲無い」
とだけ返事をして部屋に戻った。
制服をハンガーに掛けると、そのままベッドに突っ伏した。
目を閉じると、拒絶した田中さんの顔が浮かぶ。
すると再び、止まった筈の涙がじわじわと溢れて来る。
「女々しいな…」
ぽつりと呟いて、手の甲で目を隠す。
誰かにこんな執着したのは…初めてな気がする。
中学時代、付き合った女の子も居た。
バスケ部でショートカットの元気な子だった。
男勝りで正義感が強くて、僕はそんな彼女が大好きだった。
でも、彼女には他に好きな人が居て…。
あれは中学2年の時。
学級委員を二人でやらされて、いつも一緒に居たのでからかわれるようになった。
「女男と男女がイチャイチャしてる~」
って言われて、でも全然相手にしない彼女にイライラしたらしく
「お前みたいな男女、誰も好きにならない!」
って、クラスの奴が言った事があった。
その時、彼女が酷く傷付いた顔をしてて…。
「そんな言い方無いだろう!高松だって、ちゃんとした女の子なんだから謝れよ!」
そう叫んだ僕に、彼女は泣き笑いして教室を飛び出した。
僕は放っておけなくて、彼女を追い掛けて体育館の裏に行った。
「何で追い掛けて来るの?同情するなら、放っておいて」
弱い自分を見せるのが苦手な彼女に
「好きだから…放っておけないんだ」
僕は初めて告白したんだと思う。
彼女は驚いた顔をして僕を見ると
「変な奴…」
って、笑った。
その笑顔が可愛くて愛しくて…。
僕は彼女にキスをした。
この日から、僕達は付き合い出した。
付き合うと言っても、登下校を一緒に帰る位の可愛い付合いだった。
でも…、半年付き合った頃、彼女が父親に着いてアメリカに渡ると聞いた。
僕に一言の相談も無くて、物凄くショックだったのを覚えている。
アメリカに渡る前日、彼女に呼び出された。
「ごめんね。相談も無く決めちゃって…」
彼女は終始、笑顔だった。
何を話していたのか、どんな会話をしたのかさえ覚えていないけど…
ただ、最後に彼女から
「ねぇ、蒼介。蒼介は本当に私の事が好きだった?」
そう聞かれた。
「私ね、いつも蒼介が隣にいるのに…一人みたいだったよ…」
って言われた。
最後に、彼女からキスをされて
「私達がキスしたのも、これで2回目だよね。
いつも私ばっかりが、蒼介の事を好きだった…」
涙を浮かべて言われた言葉の意味が、あの時の僕には分からなかった。
彼女が去る時も、彼女が居なくなる事よりも…自分が何も知らされていなかったことがショックだったように思う。
実際、彼女が居なくなってからも、別に僕の日常は変わらなかった。
一緒に帰る人が、彼女から又、結城に戻っただけだった。
今思えば…、彼女が言いたかったのはそういう事だったんだろうと思う。
僕の彼女への好きは、好意であって恋愛では無かった。
でも、彼女はきっと恋愛感情を持って僕を見てくれていた。
今思えば、随分と酷い人間だったと我ながら悲しくなる。
そんな事を考えながら、どうやら制服のシャツだけで眠ってしまっていたみたいだった。
夜中、寒くて目が覚めた。
パジャマに着替えて、そのままベッドへと入る。
又、目を閉じたらあの時の田中さんが浮かんできて、胸が苦しくなる。
何故、自分の感情なのに、こんなに自由にならないんだろう?
今思えば、結城をあんな行動にさせてしまったのも、僕のせいなのかもしれない。
もっと、ちゃんと話を聞いて上げれば良かった。
きちんと向き合って上げれば良かった。
自分がこんな事になって、初めて相手の気持ちを知る。
「胸が痛いって…本当なんだな~」
ポツリと呟くと、思わずそんな自分に苦笑いしてしまう。
寝返りをうつと、ふと田中さんと泊まった日を思い出す。
人の温もりが温かいと思ったのも、眠っている顔をずっと見つめて居たいと思ったのも…田中さんが初めてだった。
忘れようとしてるのに、結局思い出すのは田中さんのことばかり。
「はぁ…」
深い溜息を落しながら、僕は眠れぬ夜を過ごした。
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