アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
諦めきれない想い⑤
-
食事が終わると薬を取り出し、僕の手にそっと手渡しで水の入ったコップを差し出す。
薬の多さに思わず顔をしかめると
「薬も飲ませて欲しいんですか?」
って、脅しを含んだ声に大人しく薬を飲んだ。
田中さんは食器を纏めると、一階へと降りて行く。田中さんの階段を降りる足音を聞きながら、ウトウトとしていた。
…が、一度咳が出始めると止まらない。
「ゴホゴホゴホ」って咳き込みながら、横になっているのが辛くて体を起こす。
食器を片付けた田中さんが戻って来て、僕の様子に心配そうに顔を覗き込んで来た。
「大丈夫ですか?」
一応、マスクはしているし、室内の空気清浄器をフル稼働させていても、なんだか申し訳なくていたたまれなくなる。
「大丈夫です。田中さんに感染したら申し訳ないので」
って呟くと
「横になるのは辛いんですか?」
そう聞いて来た。
「はい。横になると、咳が止まらなくなるので…。落ち着いたら横になるので、大丈夫です」
必死に笑顔を作って言うと、いつの間にか落としていた田中さんのジャケットを僕の肩に掛けると、田中さんが僕の隣に腰掛けた。
そして僕の頭を抱き寄せて肩に乗せると、背中を優しくトントンと叩いてくれる。
「気にしなくて大丈夫です。前にも言いましたが、具合が悪い時くらい甘えなさい」
そう言われて、涙が込み上げて来た。
どうして突き放したのに…、優しくするんだろう?こんな事されたら、諦められなくなってしまう…。
広い田中さんの腕の中で、僕は戸惑う事しか出来なかった。
田中さんの温もりと香りに包まれて、僕がウトウトし始めた時、背中を優しく叩いていた手がゆっくりと髪の毛に触れる。
少し撫でられて、気持ち良くて田中さんの肩に乗せていた頭を首元に擦り寄せた。
すると田中さんの手が僕のマスクの片側を外して、頬をそっと撫でる。
夢うつつで、熱と咳と呼吸困難で朦朧した意識の中、僕の頬に触れる手に自分の手を当てる。
ぼんやりとした意識の中で
「田中さん…」
そっと名前を呟いた。
すると瞳から一筋の涙が流れる。
名前を口にするだけで、こんなにも苦しくて切ない。今、この時間が終われば、こうして触れてはもらえない人だって分かってる。
それならせめて、熱のせいにして全て奪って欲しいと願う。
そっと田中さんの大きな手が僕の涙を拭うと
「蒼介さん、すみません」
と呟く悲しそうな声が聞こえる。
「こんなに痩せて…。俺のせいですよね…」
そう呟いて
「俺は……、あなたに思われる価値の無い人間なんです」
まるで懺悔するように呟く。
「それでもこうして、あなたの傍に居たいと願う身勝手な人間なんです」
強く抱き締められて、僕は震える手で田中さんの頬に触れた。
するとその手を握り締めて、指にキスを落とす。
「だからせめて…、今だけあなたのお世話をさせて下さい」
そう囁いた。
「田中さん…」
ポツリと名前を呼ぶと、身体をゆっくりと起して首に手を回す。
「蒼介さん、動かない方が…」
そう言ってくれている唇に、軽く触れるだけのキスをする。
「蒼介さん…」
身体を強ばらせて名前を呼ばれ、僕は再び唇を重ねる。
「甘えて良いなら、キスして下さい」
僕の言葉に、田中さんが息を呑む気配がした。
強く抱き締められて、田中さんは僕の後頭部を押え付けて全てを奪われるようなキスをした。
口内に舌が差し込められ、舌と舌が絡まるザラつく感触に「ん…っ」っと声が漏れる。
角度を変え、深く交わる感触と唾液の交わる音に脳が侵されて行く。
僕は田中さんの首にしがみつき、求めるようにキスを交わす。
無我夢中で求め、奪い、与え合うような激しいキス。気が付くとベッドに押し倒され、僕は田中さんの頭を掻き抱く。
離れたら、田中さんが消えてしまいそうで怖かった。
又、夢なんじゃないかと不安になった。
一度離れた唇を、求めるように田中さんの頬を両手で包んで引き寄せて唇を重ねる。
(離さないで欲しい。このまま、全て奪い去ってくれれば良いのに…)
下半身に熱いうずきが生まれ、身体があの夢を思い出させる。
触れ合った肌の温もり。
互いの吐息。
重なり、一つになったあの感覚。
確かめたかった。
本当に夢だったのか。
本当は……あの日、抱いてくれたんじゃないか?
だって、あれ以来、僕は悪夢にうなされていない。思い出すのは、田中さんの唇が肌を伝う感触。僕の身体に触れる大きな手の温もり。
そして、僕の中を貫いた灼熱の楔の熱さ。
気が付くと、僕は田中さんの中心部へと手を伸ばしていた。
触れたその場所には誇示する存在があり、きっと、再び目にすれば…触れれば思い出す。
そう思った。
ファスナーを探してズボンの上から触れた瞬間、田中さんの身体がビクリと震えた。
すると、お互いの荒い呼吸しか聞こえない中、熱くなっている場所に触れた僕の手を掴んで
「これ以上はダメです」
そう囁かれた。
「どう…し…て?」
悲しくなって見つめると、田中さんは困った顔をして
「もう、良いから寝て下さい。」
そう言って僕を強く抱き締めた。
トン…トン…と、一定のリズムで田中さんが僕の背中を軽く叩く。
早鐘のように鳴り響く田中さんの心臓の音。
荒くなっていた呼吸が落ち着き、身体の熱も落ち着いて来る。
田中さんの背中を叩くリズムに、僕の瞼が重くなっていく。
でも、眠ったら又、全てが夢のように魔法が解けてしまう気がして、必死に瞼を持ち上げる。
だけど、田中さんの温もりとコロンの香りが僕を深い眠りへと誘って行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
42 / 42