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オレ(俺)がお前を守ると決めた日
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独騨見工業高校(どくだみこうぎょうこうこう)。ここは、あまり名の知れていない不良校だ。
金髪、ピアス当たり前。男子校だから喧嘩も絶えない。煙草を吸っているヤツも普通にいるこの高校で、神崎圭吾(じんざきけいご)。彼は192センチもある身長と、極道の若頭を煮詰めて凝縮させたような人相で恐れられていた。神崎の生まれつきの茶髪に、体格がいい図体でその怖さは倍増しているのだった。そのせいでよくケンカを売られ、自然と神崎の戦闘力は上がっていった。
「へえ、可愛いじゃん」
「女?」
神崎は、今日もいつもの時間7時ぴったりに学校に登校した。
道は自然とキリストが海を割ったように開いていく。
「おい、なんだコイツ」
「こんなヤツいたっけ」
そんな神崎の行く手を、今日は阻むものがいた。
「や、やめてください」
2年生の教室に行こうとした神崎の前に、男子生徒が2人。1人の男子生徒を取り囲むようにして立っていた。
「通行の邪魔だぞ」
神崎は、巨人のように男子生徒2人を見下ろしていった。
「あん?」
「ああ?」
神崎の声に振り返った、いや見上げた男子生徒の顔色はみるみる青ざめていき、飛び上がるようにしてその場から離れた。
「やべえ!野獣神崎だ。中学の時先生を殺して食ったって噂の」
「野獣神崎じゃねえか!行こうぜ!あいつに関わったら命がないらしい!」
男子生徒は、よくある眉唾ものの噂を吐いて神崎に背を向けて走って行ってしまった。
「ったくなんだってんだよ。朝から気分悪いぜ」
「あの・・・」
神崎の目の前に取り残されていたのは、肩までの黒髪に、穢れのない純粋な瞳をした・・・女みたいに可愛い顔をした青年だった。
身長は170センチくらいで、神崎から見たら女みたいだった。
「ありがとうございました!」
こんなヤツいたか?神崎は首を傾げた。
「いや、俺は何もしてねえよ」
「あの、今日、僕ここに転校してきて職員室がわからなくて」
「転校してきた?」
見たことねえと思ったら転校生だったのかよコイツ。神崎は目を見開いてまじまじと青年の顔を見つめた。この不良校に咲く一輪の花のような青年だった。
「は、はい・・・そのもしよかったら、職員室の場所を教えていただけませんか?」
上目遣いで困った顔で見られると、なんか背中がかゆくなってくる。神崎は顔をそむけた。
神崎は昔からいかつい顔と、体格のいい体のせいで、人から怖がられてきた。ここでは野獣神崎なんてあだ名まで勝手につけられて恐れられている。
だが、ここで神崎は閃いた。
神崎の顔を見ても尚、職員室を聞いてきた青年に神崎は、友達になれるんじゃないかという微かな希望を抱いたのだった。
「あ、あっちだぜ」
転校生、ついに来た転校生!
今まで友人彼女親友ができなかった神崎にとって、彼こそ神崎を恐れず普通に話しかけてくれたほぼ唯一の青年だった。
「俺は、神崎圭吾2年生。お前は?」
「ぼ、僕は富士波和(ふじなみやまと)です。あっ、僕も2年生です」
神崎は、それを聞いて心の中でガッツポーズをした。
ともだちだ!友達になろう。神崎は深呼吸をして、ずっと言いたかったことを言った。
「富士波、お、俺、俺と」
「神崎さん、親切ですね。よかったら僕とお友達になってくださいませんか?」
神崎は、その言葉に心の中で頭を振り乱しガッツポーズを繰り返していた。
そして祝福のソーラン節が頭をかけめぐり、テンションが上がった神崎は、汗っかきなので手が汗でびしょびしょになっていた。
「お、おう、よろしくな。富士波!」
「はいっ」
富士波は、にこにこしながら神崎を見上げていた。神崎は心の底から嬉しくて涙がこぼれそうだった。
「あっ、職員室、ついたぜ」
「本当だ、ありがとうございます神崎さん、同じ組だといいですね」
神崎は、生まれて初めてそんなことをいってもらえて、嬉しくてその場でソーラン節を踊ってしまいそうだった。
「お、おうっ!」
神崎は、職員室にはいっていく富士波の後ろ姿をぼーっとしながら見つめていた。
***
HLまで、神崎の心臓はばくばくしていた。2年生のクラスは3クラスまである。
富士波と同じクラスになれるだろうか。気になってどきどきとわくわくが共存していた。
神崎の周りの机には人が座っていない。
神崎の席は黒板から見て一番右端の窓際。そこから右隣、前、斜めの席は誰も座っていない。神崎を恐れているからである。
「転校生の、富士波和(ふじなみやまと)だ。みんなよろしくしてやってくれ」
周りの不良たちは目を見開いて富士波を凝視した。このごつい男たちの多い不良高で、唯一といっていい程ビジュアルが可愛らしく、まるで地獄に咲く一輪のコスモスのようだったからである。
「空いている席に座っていいぞ、といっても、そうだな。机は好きに移動させていいからな。皆好きなところに座ってるから」
先生は、神崎の周りを見つめた。開いている席なんて神崎の周りしかなかった。
「よ、よろしくお願いします」
富士波は、ぺこりとお辞儀をして、感動でうずうずしている神崎を見つめた。
「あっ、神崎さん」
富士波は、ちょこちょこと歩いてきて、神崎の隣に座った。
「運がいいなあ、神崎さんの隣が空いているなんて」
神崎は、その時の富士波の笑顔をのちに、天使の笑顔(エンジェルスマイル)として記憶した。富士波と同じクラスというだけで舞い上がった神崎は、富士波と隣の席でこれから授業を受けられることに最上の喜びを感じていた。
休み時間、富士波に話しかけたそうな不良たちはいたが、神崎を恐れて近づいてこなかった。
「神崎さん、トイレ一緒に行きませんか?」
「あ、おう」
これが巷でいう連れションってヤツなのかよ!神崎は、トイレに行くのにスキップしそうになるのを押さえて富士波についてトイレへと向かった。
トイレにいくまでにかなりの不良に見られた。やはりこの不良校で、富士波のような存在は、目をひくのだろう。神崎は、朝みたいに富士波が絡まれていたら、自分が助けてあげようと心に誓った。
生まれて初めて連れションをした感想は、富士波は顔に似合わずビックサイズだということだった。それが神崎の中でのここ一年で一番の驚きだった。
「神崎さん、お弁当一緒に食べましょう」
「・・・・・・・・・」
神崎は、どれだけ自分を感動させたら富士波は気が済むのだろうと拳を握りしめた。
「おうっ」
富士波のお弁当は重箱5段だった。黒いトートバックからどーんと抱えて取り出し、神崎の机に置いて机をくっつけて一緒に食べようとしたが、
「あっ、まって」
「ん?」
「屋上に行こう」
神崎は、自分の弁当を持って立ち上がった。周りにじろじろ見られながら弁当を食べるのが嫌で、いつも神崎は屋上で一人こっそりお弁当を食べているのだった。
「晴れていて気持ちいいですね」
青い空、白い雲、そしてともだち。神崎は、お昼がこんなに楽しいのは初めてだった。
「神崎さんのお弁当、美味しそうですね」
「そうか、毎朝俺が作ってるんだ」
神崎は、今まで趣味の料理を誉められたことがなかったので嬉しくて嬉しくてにやけを必死に抑えた。
「凄いですね、神崎さんは料理ができるんですね」
富士波の弁当は見た目通り豪華だった。おせち料理かってくらいの手の込みよう。
「富士波の方が凄いだろ」
「ああ、お、お母さんが張り切ってしまって。普通はそれくらいなんですか?」
「いや、いいだろ。お弁当のサイズなんて人それぞれだし」
そういうと、富士波はふっと微笑んだ。
「ありがとうございます。僕ちょっと沢山食べるので引かれちゃわないか不安で」
「全然だよ。沢山食べるはいいことだからな」
神崎がそういうと、富士波はにっこり微笑んだ。
生まれて初めてともだちとの昼飯、隣の席で授業のことを聞かれたりするのも初めてだった。この学校は部活という部活がない。というか野球部のバットは武器だし、サッカー部は帰宅部なので部活と呼べない。
「富士波、一緒に・・・」
神崎は、富士波と一緒に帰ろうと誘ったが、
「あ、ごめんなさい、神崎さん。今日僕塾があって」
富士波は、申し訳なさそうに眉を八の字にした。
「全然いいぜ、また、またな。気をつけて帰れよ」
神崎は、少ししょんぼりとしたが塾なら仕方ない。それに、富士波はやっぱりここの不良たちと違って真面目な普通の人なんだと神崎は再認識した。塾に通っているなんて。
今度勉強を教えてもらおう、神崎はにこにこしながら学校を後にした。
一方、富士波は学校から一人で途中まで帰宅していたが、人が少ない道を通って駐車場に入った。
黒い服にサングラスの男が待っていて、富士波にお辞儀をする。
「坊ちゃま、お待ちしておりました」
「あぁ」
富士波は、神崎といた時とは全く違う鋭い刃のような表情で、車に乗り込んだ。
「どうでしたか、学校は」
「あぁ、なかなか楽しめそうだ、一人友達になれそうなヤツを見つけた」
「友達、ですか」
「あぁ、学校で恐れられているらしいごつい男だ。神崎とかいったか、極道の息子で恐れられていたオレが憧れの”普通の”学校生活を送るためにはあいつを盾にして普通の高校生を演じるしかない。喧嘩売られたら守ってくれそうだしな、友達にはぴったりだ」
富士波は、ニヤリと笑った。
「その為にはオレの正体がバレないように嘘を突きとおさなくてはな」
実は富士波は、転校してくる前はここ、独騨見高校のある町とは違いかなり都会にいた。富士波家はかなり有名な極道の家系で、それは隠していたが生まれながらのオーラや雰囲気、毎日迎えに来る黒塗りの高級車などで周りから怖がられ、富士波もまた友達ができなかった。
極道の噂は薄々広がっていて接待的な扱いをしてくる者はいたが、富士波と対等に仲良くしようという人間は一人もいなかったのだ。中学の時、友達だと思っていた青年が組の者に買収されていたり、たまに命知らずが喧嘩を売りに来たり、本当の自分で接しようとしても、目立ってしまうしどこか人とずれているらしく上手くなじめなかった。
そういうことがトラウマで、富士波はなかなか他人に心を開くことができなくなっていた。
高校こそは、と息まいたが中学の時の同級生に『富士波にはかかわらない方がいい』という噂を流され、高校でも友達ができそうになく、富士波は両親とは離れ、2人程のお付きをつけて祖父のいるこの町に引っ越してきたのであった。
今度こそ、自分のことを知らない同級生と普通の学校生活を送りたいと思った富士波だったが、どうやらここは不良高らしい。
富士波のことを知られればまた命知らずに喧嘩を売られるかもしれない。実質朝絡まれた。富士波はそこで助けてくれた自分より目立つ容姿の強い存在に隠れて学校生活を送ろうと考えたのだった。
「神崎は使える、あいつと友達になって普通の学校生活を送るんだ」
黒服は、富士波が『友達』という存在に対し大きな勘違いを起こしていることに気付いていた。だが、富士波の今までの境遇から友達というものに対し麻痺を起こしてしまうのは仕方のないことだと思い、口をつぐんだ。
「坊ちゃま、神崎様とお弁当のおかず交換ができるよう、から揚げ、多めに入れておきますね」
黒服は、サングラスの下の潤んだ瞳でそういった。
「あぁ、それは”友達”っぽいな」
富士波が手を叩くのを見て、黒服は今度こそ坊ちゃまが楽しい普通の学校生活を送れるように祈った。そして、深夜黒服は神社へと車を飛ばし、神崎という男が富士波の本当の友達になってくれることを、大粒の涙を流し心から神に願ったのだった。
「おはよう、神崎さん」
「おはよう、富士波」
神崎は、今日も富士波が隣にいることに幸せを感じていた。
そして昨日神崎としたいことリストを作成し、うきうきしながら学校に来たのだった。
お昼ご飯を今日も神崎は屋上で富士波と食べていた。
「あの、富士波」
「なんでしょう」
「ら、LINEをこ、こうか、交換しようぜ」
「らいん?」
スマホを差し出した神崎に、富士波は首を傾げた。
富士波がカバンから取り出した携帯は、ガラケーだった。
前に買ってもらったが、使い方がさっぱりで断念したのだった。
「あ、ガラケーなんだな、じゃあメールアドレスを交換しようぜ」
神崎は、LINEを持っていなかったことは予想外だったがそのおかげで、かなり仲良くないと教えてもらえないであろうメールアドレスを自然に聞きだせたことに少し喜びを感じていた。
「ごめんなさい。僕機械音痴で」
「全然いいぜ」
神崎は、メールアドレスをあらかじめ書いた紙を富士波に渡した。
富士波は、またスマホを買ってもらおうかと考えた。神崎は、神崎が機械音痴なところに少しくすりとした。オレもダゼ☆心の中で親指をたてた。
「富士波、あのさ、次塾休みの日っていつなんだ」
神崎は、今日は積極的だった。
昨日何度も何度も富士波と話す為に練習したからだ。
「どうしてですか?」
「よ、よかったら、隣町にパフェでも食べに行こうかと思ってよ」
富士波は、目を見開いた。隣町でパフェ、実に友達っぽい。
目がきらきらする富士波に神崎は仏のようににっこりした。そうか、富士波もパフェが大好きなんだな。
だが、富士波は甘いものが大嫌いだった。好きな食べ物がイカの塩辛なのだ。でも、折角友達っぽいことができるのだ。富士波は、こくりと頷いた。
「行く!行きます。今日行きましょう」
「そうか・・・そうか!」
神崎は、嬉しくて両手を握りしめた。
「から揚げ、今日お母さんが作りすぎてしまったみたいで、よかったらいかがですか」
ただでさえ喜んでいる神崎に、富士波はお弁当交換という友達っぽいイベントをプレゼント。神崎は、実はうっかり(嘘)自慢の卵焼きを作りすぎていたので満面の笑みのまま卵焼きを差し出した。
「俺の、俺の卵焼きもやるよ」
「ありがとうございます」
「ふふふ」
神崎は思わず笑みをこぼした。その笑みに答えるように、富士波も微笑んだ。
平和な時間。神崎は、富士波といると心にぽぽぽっと花が咲いたような気持ちになった。
放課後、2人は学校を出て近くの駅へと向かい、隣町へと向かった。
制服で友達とどこかに行くというのは、神崎にとって初めてのことだった。あぁ、これが普通の学生生活か。神崎は感動を噛み締めながら、昨日一生懸命スマホで調べた女性に人気のスイーツ店へと向かった。
「ここはメロンパフェが有名らしい」
にこにこしてスイーツ店に入った神崎だったが、店内に入った途端に店内の空気が自分をみて変わるのを見て俯いた。
「い、いらっし・・・」
店員さんは完全に怯えていた。
神崎は、富士波のことで頭がいっぱいで忘れていた。自分は学校で野獣と呼ばれているくらいいかつくて怖い顔をしている怖がられる存在であることに。
「メロンパフェ2つ、はい2人分カードで払います」
落ち込む神崎の隣で、富士波は指を2本たてた。
「お、おい、富士波。俺自分のは自分で払うよ」
「いいんですよ、今日は僕におごらせてください。誘ってくれたので」
「だめだ、後でちゃんと払う、友達はそういうのなしだ」
神崎は、そういってお会計を終えたレシートをもらった富士波に緑のがま口財布を見せた。友達と言われて富士波はレシートをきゅっと握った。そして、周りをぎろりと睨んだ。
「あっちの席が空いてますよ」
富士波は笑顔で神崎の手をとると、店の隅の席へと向かった。
神崎は、優しくて小さい富士波の手に涙が出そうになるくらい安心した。
「すまねえ、富士波」
「どうしてですか?」
「俺が、怖い顔してるから皆にじろじろ見られて嫌だろ?」
神崎がそういうと、富士波はにっこりと微笑んだ。
「人を見た目で判断するのは僕嫌いなので」
富士波でも、周りからじろじろ見られるのは気づいていた。富士波は昔からじろじろ見られているのは慣れているのでなんとも思わなかったが、ひそひそ『あんな大きくて怖い人がスイーツ食べに来るんだ』という声が聞こえてきて気分を害した。
富士波はこの見た目のせいで誘拐されかけたり、富士波家の長男なのに心配だ、など散々言われてきた。喧嘩を売られたりしたのもこの容姿が原因だった。
だから、見た目で人を判断する人間は大嫌いだったのだ。
「慣れてたはずなんだけどな、富士波と放課後どこに行こうか考えてたらよ、すっかり自分のこの容姿のこと忘れちまってたぜ」
たはは、と笑う神崎に、富士波は微笑んだ。
「僕の為に色々考えてくれてありがとうございます」
富士波は、おしぼりや水をさりげなく自分の方へと渡してくれる神崎を見ながら、大嫌いなパフェをどう食するか考えていた。
「あ、はい。メロンパフェ代800円」
にこにこしながら800円を差し出してきた神崎。富士波は500円玉がメロンに見えて顔をしかめた。
「メロンパフェでございます」
やってきたメロンパフェに女子のようにはしゃぐ神崎とは対照的に富士波は苦笑いだった。だが、友達というのはこうして同じ食べ物を食べて共有するものだ。
富士波は、ひきつった笑顔でメロンパフェを口に押し込んだ。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
富士波は、スイーツは別腹であんまりお腹に入らないんだ。といって神崎に半分パフェを差し出したにも関わらず真っ青な顔でお腹を押さえていた。
流石富士波といったところだが、店から出て少し歩いた公園で一休みするまで気持ち悪いのを我慢し、笑顔で神崎と会話していた富士波は、公園で限界がきた。
「大丈夫かよ」
心配する神崎をよそに富士波はトイレに立った。
ベンチで座って待っていると、ぞろぞろと背後から足音がした。
「よお、神崎」
神崎が振り返ると、前に喧嘩を売ってきた他校の不良高の生徒たちだった。
ざっと見ただけでも、5,6人いる。
「お前その面で女とデートかよ」
「デートじゃねえよ、富士波は男だ」
「いいって庇わなくても、大事な初めての彼女だもんなあ」
「だから彼女じゃねえって」
神崎は、富士波との折角の時間をこいつらに奪われたくないと思い焦った。冷静に振舞っているが、背中には汗がつたっていた。
「可愛い顔してたよなあ、触ったら折れちまいそうなくらい」
リーダーの田代が舌なめずりをした。俺はその姿に身震いした。
「この際男でもいいや、紹介してくれよ」
「どっか行けよ、お前らに富士波を会わせたくねえ。あんまり鬱陶しいとまた蹴散らすぞ」
前回は3人だったが、今回は倍の6人だ。でも、神崎は富士波にこの不良たちを近づけたくなくて虚勢をはった。
「いいぜ、ここで富士波ちゃん待つから」
「いい加減にしろよ!!」
神崎が立ち上がると、田代が合図して後ろに控えていた3人が背中に隠していたバットを振り上げて神崎に襲い掛かった。不良校では日常茶飯事である。神崎は2人は止め、もう1人のバットは神崎の肩に強打された。
「っ・・・」
こんなの痛くもかゆくもない。富士波がこいつらに絡まれることに比べたら。
「この公園は人の目がある。場所を変えねえか」
田代の提案に神崎は頷いた。でも、それは罠だった。人気のない廃公園に連れてこられ、神崎は、動いたら富士波の元に仲間を送ると脅され、男4人に押さえつけられ、2人にバットで殴られた。
コイツら、最初から俺をボコりたかっただけかよ。神崎は、理解したと同時に安心した。富士波からこいつらを遠ざけることができたからだ。富士波は俺がいないからきっともう帰っただろう。頭を強く殴られ、神崎は朦朧とする意識のなか微笑んでいた。
「こいつ、殴られて笑ってやがるぜ、狂ってやがる」
田代と仲間がせせら笑った。そして、とどめとばかりまたバットが振り上げられた時その手を白い手が掴んだ。
「・・・は?」
「何してんだよてめえら」
富士波は、鬼のような形相で田代の腕を掴んでいた。
「いってえ!!いでええええええええええ!!」
富士波が田代の腕をねじり上げると、ぼきっという背筋の凍るような音がして田代は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でうずくまった。
「こいつ・・・まさか今」
真っ青な仲間たちをよそに、富士波は田代の持っていたバットを拾い上げると、青筋が出るくらい力強くバットを握りしめた。
「てめえら覚悟はできてんだろうな、さっさと神崎を離しやがれ」
ボロボロになった神崎を不良たちはぽろりと離したが、富士波は容赦なく不良たちにバットを振るった。
「許してくれ・・・」
「ごめんで済んだら指なんて詰めねえだろうが」
富士波は、頭から血を流してぐったりしている神崎を見て鬼が宿ったように暴れまわった。体格に恵まれなかった富士波は、柔道空手格闘技剣道ボクシング色々な習い事をしてきた。どれも努力して極めてきた為、細く見える制服の下は筋肉でムキムキなのだ。
逃げ出した不良たちを睨みつけた後、富士波ははっとして神崎に駆け寄った。
「神崎!大丈夫か!」
「あぁ・・・富士波」
「ったくお前・・・バカなことしやがって」
「富士波・・・お前」
富士波ははっとした。つい素が出てしまった。どうしよう、そう思ったが神崎は富士波の心配とは対照的ににこりと微笑んだ。
「ついにため口で話してくれるようになったんだな」
「え?」
「嬉しいぜ、ずっと俺ばっかりため口だったからよ。富士波が俺に心を開いてくれたってすごく実感するぜ。それより、無事だったんだな、よかった。誰かが助けてくれたんだな・・・お前があいつらに絡まれなくてよかった」
神崎は、ボロボロになりながらも自分を庇い、自分を憎むことなく笑っている。
富士波は、生まれて初めて自分を損得勘定なく大切にしてくれた神崎にガラにもなく涙がでそうになった。
「馬鹿だなあ」
富士波は、少し微笑んで神崎の手を握り頬ずりした。
「これからはこういうことがないようにずっとオレが守ってやるよ、神崎」
富士波の瞳には、友愛とは少し違う神崎に対しての感情が宿っていた。
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