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〜空夜side〜
4月9日 8時
「おい、準備できたか?!」
朝、父親、琉の声が響く。
空夜(くうや)はゆったりとネクタイを締め、1階のリビングに降りた。
「できた!!そっちは?!」
答えたのは空夜の双子の兄、陸玖(りく)だ。
弟の昂(たくみ)の準備を手伝っていたらしい。
「大丈夫だ!ほら、行くぞ!!」
琉は末っ子の妹、瑠梨(るり)の髪を結っていた。
瑠梨の希望の二つ結びは断念したようで、髪型はポニーテールになっていた。
瑠梨は今日から幼稚園に通う。
「うわ待って待って、春陽にーさん!」
昂が書斎に声をかける。
そういえば今日は、春陽(はるひ)も朝が早いと言っていた。
「今行くー!」
春陽の声が聞こえ、リビングにやってくる。
「急げ!遅刻するぞ!!」
急かす父親に、呆れた目を向ける昂。
「お父さんが寝坊したんじゃないか!!」
「仕方ないだろ!」
確かに、昨日の琉は帰りが遅かったけれど。
(お母さんはいつも1番遅くに寝て、1番早く起きてた…)
空夜はそんなことを思った。
「もう、本当にお母さんがいないとなんもできないんだから……よくお母さんと結婚できたよね!!」
それには瑠梨以外の全員が同意する。
瑠梨にはまだ、よくわかっていないだろう。
「う、うるさいな!!ほら行くぞー!」
誤魔化すようにそう言った琉に、陸玖が慌てて声をかける。
「あっ父さん!挨拶忘れてる!!」
「そうだそうだ。」
全員でリビングの端にある仏壇の前に並ぶ。
チーン、と毎朝鳴る鈴(りん)の音。
「みんな、挨拶。せーの……」
「「行ってきます!」」
この仏壇に手を合わせるのも、毎朝恒例となっている。
必ず行ってきますの挨拶をする。
帰ってきたら手を洗って、また挨拶。
これが赤津家のルールだ。
「よし急ぐぞ!ほら遅刻する!」
「だからお父さんが寝坊したんでしょ!」
急かす琉に昂は突っ込む。
わちゃわちゃと玄関から出て行く人気俳優1人と、子供が5人。
長男、春陽。次男、陸玖。三男、空夜。四男、昂。長女、瑠梨。
そして父、琉。
この6人の朝は、毎日こうだった。
賑やかで、慌ただしくて、けれど楽しい。
だけど、やっぱり。
「空夜?」
立ち止まってしまった空夜を振り返る琉。
瑠梨も同じように振り返り、こてん、と首をかしげる。
「どうかしたか?具合でも悪いか?学校休むか?今日入学式だけだろ?無理すんなよ?」
質問攻めしすぎだ。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事してて……」
「まぁまのこと?」
ふわっ、と笑って、瑠梨がそう言う。
空夜を含めた、他の5人全員が、困ってしまった。
「まぁま、いつかえる?るり、まぁまにあいたいの。」
「んー、それはちょっと、ぱぁぱにも分からないからなぁ……」
「るり、まぁまといっしょじゃなきゃ、ようちえん、いかない!」
瑠梨がそう言ってイヤイヤし始めてしまった。
「瑠梨ー、今日は春陽にーちゃんと、ぱぁぱと一緒に行こう?幼稚園きっと楽しいよ。」
「まぁまいる?」
「まぁまはいないけど、お友達はいるかもよ?」
「おともだち?」
「そう、お友達。ほら、幼稚園まで競走だー!」
「はるひにーちゃん!まってまって!」
キャッキャッと走っていく瑠梨。
なんとか春陽がうまくやってくれた。
「……さて、お前達も学校に行きなさい。」
「うん!じゃーね、お父さん!」
「行ってきます。空夜、先行ってるぞ。」
「うん。」
陸玖と昂も学校に向かう。
「空夜……」
「……大丈夫。わかってるから。高校生らしくもないよね。甘えたくなっちゃったなんて。」
「そんなことないよ。……今夜はみんなで外食でもするか?」
「また洸大(こうだい)さんのところの店?」
くすくす笑ってそう言うと、琉は頭をかいた。
「……てかお父さん、置いてかれるんじゃない?」
「え、えっ?!もうあんなとこまで!悪いっ、じゃあ、気をつけていけよ空夜!!」
琉はそう言うと、春陽と瑠梨を追って走っていった。
空夜はリュックを背負い直して、陸玖の後を追う。
どんなに琉がよくしてくれても、やはり、母親とは違う。
空夜はふと、そんなことを思った。
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