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〜昴流side〜
「いらっしゃい。家で練習できた?」
「はい。」
ピアノの先生、吉田(よしだ)は楽譜の束を持っていて、今日やる曲を選んでいたようだった。
「お、今回は赤か。」
「さすがにまずいですか。」
「んー、発表会に出るならな。フィギアと違って、ピアノはお堅いからな。」
フィギアスケートの先生は、その髪色も表現の一部にしろと言っていて、特にこの色についてお咎めされたことはない。
「まあでも、昴流は発表会出ないし、俺は気にしないよ。俺も昔は派手な髪色だったし。よし、レッスン始めよう。」
「はい。」
「今日は和久(わく)と子どもたちが18時には帰ってくるから、それまでな。」
「はい。」
「飯食ってく?っつーか見つかったら龍徳(たつのり)が離さねえから食ってけ。」
和久は吉田のパートナー、龍徳は末息子で、小学3年生だ。昴流にやけに懐いていて、お泊まりする?と聞かれるのが毎度のことである。
2番目の息子、和樹(かずき)が昴流と同い年で、学校は違うものの、それなりに仲良くしている。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「んじゃさっそく課題出したやつ、弾いてみて。」
「はい。」
吉田の家にあるのはグランドピアノで、昴流の家にある電子ピアノとは引き心地が違う。
慣れるまではこれが大変だったが、今となってはもう慣れっこだった。
「……ん、悪くねえな。24小節目と、36小節目が気になる。自分的に気になるところある?」
「36小節目は俺も気になってました。あと148小節目の連符が、今は弾けたんですけど、ブレがあって……」
「OK、じゃあそこ確認しよう。そこできたら次の曲いこう。」
「はい、お願いします。」
「1回俺が弾くな?」
「はい。」
吉田はピアニストとして活動しているのだが、その傍らで作曲家としても仕事をこなしている。
ピアニストとしての仕事は吉田にとって都合のいいものしか受けないのだと聞いたことがある。そのため、基本的には作曲家の仕事と、ピアノ教室の月謝で生計を立てているらしい。
とはいえ、吉田の1度のギャラは相当高い。
実力と、界隈での知名度は群を抜いて高く、他のプロ演奏者がこぞって一緒に演奏したがっていた。
「……っとこんな感じだけど、わかった?昴流の指の動きと、俺の指の動きの違い。」
「はい。ちょっとやってみていいですか?」
「うん。」
吉田の演奏法を真似てみるが、やはりすぐにはできない。
「惜しい、でもさすが、センスあるな。この指を先にこっち持ってきて、それから……」
細かく指導を受けて、弾き方の強さなども調整し、もう一度頭から演奏する。
「……うん、いいんじゃん?」
「ありがとうございます。」
「じゃあ今日のやつ行くか。曲行く前に連符の基礎練な、今日のやつ連符の宝庫だから。」
渡された教本を開き、3連符から順番に練習していく。
その間に吉田は今日の曲の楽譜を準備し、課題用の楽譜も用意していた。
「よし、最後までいったな。じゃやるぞ。まず初見で弾いてみて。」
「はい。」
楽譜にサッと目を通し、大体の流れを掴んだ後で頭から最後まで、失敗しても弾き続ける。
やはり臨時記号のついた和音や、連符の難しいところなどは音を外してしまった。
「どこわかりにくかった?」
「ここと、あとここ……それとここですかね。あとここも。」
楽譜を指さしながら伝えると、吉田がスッとそこを弾いてくれる。
「1回通しで弾いてみようか?」
「はい、お願いします。」
吉田の教え方は的確だし、引いているところを見るだけでもとても勉強になった。
その後もああでもない、こうでもない、とレッスンを続けていると、ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。
「おー、もう帰ってきたか。これ来週続きやるから、練習してきて。あともう一曲。こっちは触ってくる程度でいい。」
「わかりました。」
「すばくん!!」
リビングに入ってくるなり抱きついてくる龍徳を受け止め、和久に挨拶する。
「お邪魔してます。」
「こんばんは。龍徳が、すばくんとご飯食べるって聞かなくて、昴流くんの分も買ってきちゃったんだけど、大丈夫?」
「はい、さっき先生に言われて、もう食べていく気満々でした。」
「よかった、それじゃちょっとまってて。」
「すばくん遊んで!!」
「わぁったから、手洗ってこい。」
「はーい!」
龍徳がパタパタとかけていくのを目で追う。
吉田家と過ごす時間は、昴流にとって居心地のいいものだった。
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