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〜陸玖side〜
「小学生の時、俺が喧嘩したの覚えてる?」
「うーんと、殴り合いになったやつ?」
「そう。そん時、母さんが学校に呼ばれてさ。」
すっかり日が沈み、暗くなってきた公園。
昴流は前方のブランコを見ながら話を始めた。
「俺が友達を殴ったせいで、母さんが頭下げた。俺は悪くないって思ったけど、でも俺が悪くなくても、喧嘩したら母さんには迷惑がかかる。」
「でも、明希さんは迷惑なんて……」
「思ってないかもな。でも、頭下げたのは事実。俺が殴んなきゃしなくていいことだった。」
「それは、そうだけど……」
「その日の帰りに、ここに寄ったんだ。」
「この公園に?」
「そう。それで、ここで約束した。命が危険な時以外、人に暴力を振るわないって。」
確かに、中学以降反抗的になった昴流だったが、喧嘩沙汰は起こしていない。
フィギアスケートに打ち込んだことでメディアからも注目を浴び、そう言ったことは起こせないというのもあっただろうが、明希との約束が理由だったようだ。
「その時言われたんだ。母さんはいつでも味方だって。」
「味方?」
「そう。悪いことは悪いって叱ってくれる。やってないことを擦り付けられたら庇ってくれる。いいことをしたら褒めてくれる。そういう、味方。」
それは、いつでも昴流のためを思って、行動してくれるということだ。
「だからさ、両親には迷惑かけないようにって、ずっと思ってきた。」
昴流は、なんでも努力してきた。
『あの木之本翔也の息子』
『UHグループ会長の孫』
常にそんな肩書きがついてまわったからだ。
昴流は翔也の経歴に傷をつけないように、明希に迷惑をかけないように必死で努力してきた。
もちろん、翔也も明希もできたことはたくさん褒めてくれただろう。けれどなんでも器用にこなすことは簡単なことではない。
いくら両親に褒められようと、辛い道なのは確かだった。
「特に、母さんには……もう二度と頭下げさせないようにって、思ってたんだけどなぁ。」
「今日、明希さんが来たのは……」
「……まあ、そういうことだな。」
昴流が殴ってしまったから、謝罪のために。
「しかも、謝らせただけじゃなくて、余計に傷つけちまった。」
「どういうこと?」
「実は……」
*
放課後、昴流と亜美香、京は学校の会議室にいた。
事情を説明するため全員の親が呼ばれたが、京の家は来られないということで、亜美香の母と明希が来ることになり、亜美香の母が先に来て、明希は少し遅れて学校に到着した。
「遅くなって申し訳ありません。」
緋村に連れられてやってきた明希を、亜美香の母は睨みつけた。
「貴方は?」
「木之本です。昴流の母です。」
「へぇ……貴方が、お母様。」
嫌味な言い方だった。
「この度は昴流が申し訳ありませんでした。」
「木之本さん、木之本が鳥谷を叩いたことは確かにまずかったんですが、今回のことは木之本だけの責任じゃないので……」
「先生。娘は顔を叩かれたんですよ?どんな事情があったら、女の子の顔を叩くなんてことが許されるんです?」
「鳥谷さん、叩いたことを良いとは言っていませんよ。でも、娘さんも霧谷の命を危険に晒したんです。それについては娘さんにも指導しましたが、アレルギーというのを軽く見てもらっては困ります。」
「けれどその子には実際何も無かったんでしょう?親も来ないくらいですものね。娘は顔を叩かれたんです。」
「お母さんっ、今回のことは私が悪かったんだって……」
「あなたはお黙りなさい。」
母親の剣幕に押され、亜美香は俯き黙ってしまった。
「一体どのような教育をなさったらこんなことになるのかしら?これだから男性しかいない家庭は……」
「鳥谷さん!」
「先生も先生ですわ。叩いた方を庇うなんてどういうつもりですの?」
「木之本を庇うつもりはありません。ですが木之本が止めなければ、霧谷が危険だったんですよ。鳥谷の行動は軽率でした。もちろん、木之本の行動も軽率です。私は、2人ともに、謝ってほしいんです。鳥谷は霧谷に、木之本は鳥谷に対して、誠意を持って謝罪して欲しい。それについては木之本と鳥谷も納得の上で、お互い話し合っています。ですが、起きたことが起きたことなだけに、親御さんをお呼びしたまでです。本来であれば、鳥谷さんにも、霧谷の親御さんに謝罪していただくつもりでした。」
「うちの子は被害者ですよ?」
「いいえ、木之本が被害者にしてくれたんです。本来なら、鳥谷は加害者になるところだったんですよ。本人もそれを理解したからこそ、霧谷に謝ってくれたんです。木之本を責めていいのは、咄嗟のこととはいえ話し合いではなく暴力に走ってしまったということのみです。霧谷を守ろうとしたという点でいえば褒めてもいいくらいです。」
「なんてことを……!では木之本さんは逆の立場でも文句は言わないんですね?!」
腹いせのように明希に怒鳴りつける亜美香の母に、緋村が口を開こうとしたが、その前に明希が声を出した。
「はい。息子が同じようなことをして、もしも仮に娘さんに殴られたとしても、俺は文句は言いませんし、俺が息子を叩きます。人の命を危険に晒しておいて、自分は悪くないだなんて言わせません。」
「まぁっ……貴方は本当にご出産なさったの?お腹を痛めて産んだ子に、そんなことは言えないはずだわ……!」
「お母さん!いい加減にして!!昴流くん、昴流くんのお母さん、ごめんなさい。私が本当に悪かったんです、だから、昴流くんは悪くないから。叩いたことは謝ってもらったし、もういいんです。ほら!お母さん!帰るよ!!」
「亜美香っ!待ちなさい!」
「先生もごめんなさいっ!」
「お、おおっ、もう解決した話だからな!霧谷とも話し合ったし、もう気にするなよ!」
出ていく間際の亜美香に、緋村が早口で声をかける。
「霧谷も悪かったな。」
「あ、いえ、俺は……父には俺から話しておきますから。」
「ああ、悪いな。もし何かあったら、俺に連絡するよう言ってくれ。」
「はい。」
「ええと、木之本さん、あの……」
「先生、すみません、ご迷惑おかけして。」
「あ、いや、その……」
「昴流にもよく言っておきますので……失礼しますね。」
「あの、もう木之本には十分指導しましたので、責めないでやってください。」
「はい、ありがとうございます。」
京も、昴流と明希もこれで会議室を後にした。
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