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〜空夜side〜
(空気悪っ……)
芳子がやってきて、出発までの間の沈黙がとてつもなく気まずい。
もえかはスマホを弄っているし、優子は宏樹と京と話していて、空夜と俊哉、芳子は黙りっぱなしだ。
「よし、B組最後の班ー、出発だ。」
呼ばれて立ち上がり歩きだす。
「電車混んでる時間だから、無理してまとめて乗らないで、降りたところで合流する感じにしよう。」
宏樹にそう言われて、電車を待つ。
やってきた電車は案の定、人がたくさん乗っていてバラけてしまった。
(人すごいなぁ。)
どどどっとドア側に押され、少々きつくなった。
「……大丈夫?」
「えっ、あ、うん。」
目の前には俊哉がいて、空夜とかなり密着した状態になってしまった。
俊哉の後ろ側はかなり人に押されていて、空夜の方にまで力がかかっているのを心配してくれたようだ。
電車がガタン、と揺れ、人も揺れる。
俊哉がぎゅっとこちらに密着してきて、抱きしめられるような体勢になってしまった。
「……ごめん、ちょっとだけ、我慢して。」
「うん、平気だよ。俊哉くん平気?体もっと楽にして、こっち押してもいいんだよ?」
「いや……空夜潰れそうだし。大丈夫、鍛えてるから。」
そんなにか弱そうに見えるのだろうか、と思ったが、確かに俊哉に比べれば細いし背も低い。
さほど駅数もないし大丈夫かなと思い、俊哉に任せることにした。
「京くんたち大丈夫かな……」
「あー……あっちは、宏樹いるし大丈夫だろ。」
「星谷くんも鍛えてるの?」
「まあ、それもそうだし……とにかく大丈夫だと思う。」
*
〜宏樹side〜
「京、大丈夫?ごめんね、思いっきり体重かけちゃった。」
多くの人に押され、京を押しつぶすような形で体を寄せてしまった宏樹は、ドアについた手に少し力を入れて京との間に隙間を作ってから話しかけた。
いつの間にか近くにいた女子3人とも離れているし、俊哉と空夜に至っては恐らく宏樹の後ろ側にいるため、姿も見えなかった。
「大丈夫だよ。星谷くんも痛くなかった?」
「平気平気。」
(……京と近いこと以外は。)
宏樹は1年生のときから京に片思いしていた。
容姿に一目惚れしてから、ずっと目で追ううちにどんどん好きになってしまった。
ちょうど1年ほど前の放課後、合唱コンクールの実行委員だった京はその仕事のために教室に残っていた。
傾き始めた西日に照らされ、サラサラとペンを走らせる姿はとても綺麗でよく覚えている。
その後京に見つかり、初めて2人きりで話した。
京は優しく、真面目で、人のことを思いやっていて、とてもいい子だった。
アレルギーがあることや、片親であることも知ったが、京はそれを悲観していたりはしなくて、その強さにも惹かれた。
しなやかで、美しくて強い。
1年片思いしてきた相手との急な接近に、宏樹の心臓は爆発寸前である。
(これ、心臓バクバクいってんの聞こえてないよな……密着しすぎると鼓動でバレる……)
京が何か気にしている様子はない。
これは心臓の音がバレていないということではあるが、京に意識もされていないということでもある。
(喜んでいいのか、悲しむべきなのか。)
京は1年間、誰に対しても恋愛的な意識を持っていなかったと思う。
告白されていたのを見た時はびっくりしたが、断っていた。
今はまだ恋人に立候補するタイミングじゃないのだ、と宏樹は思った。
ひとまず友人として仲良くし、京との距離を少しでも詰める。あとのことは様子を見ながら考えようと、そう思っていた。
京は恋愛そのものに興味がないようにも見える。
伝えて意識させた方がいいのか、今まで通り友人として距離を詰めた方がいいのか。
(……いや、まだ告白する勇気ないし。)
情けないとは思うが、告白してしまえば後戻りはできないのが、少し怖かった。
「星谷くん?」
「ん?」
(やばっ、ぼーっとしてた。)
「大丈夫?具合悪くなっちゃった?」
「えっ?ううん、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ。」
「それならいいけど……無理しないでね。」
「うん、ありがとう。」
(優しい……はぁぁ、可愛いぃ……)
京が少しだけ宏樹を見上げているのがとても可愛くて、平静を保つのがやっとである。
そんな時、電車がガタンと揺れ、体が後ろにぐらついた。
咄嗟に掴まるようなところもなく、そのまま身を任せるしかないなと思った瞬間。
「大丈夫っ?」
パシッと腕を掴まれ、先程とは反対に京の方に体が揺れ、いわゆる壁ドンの体勢になった。
「うっ、ん、大丈夫。ありがと。」
慌てて体を離そうとするが後ろから人に押され、体勢を変えられない。
「ごめん、ちょっとこのままで我慢できる?もう少しで駅着くと思うから……」
「うん、大丈夫。」
(……俺は全然大丈夫じゃないー!)
京がものすごく近くて、シャンプーの香りなのか服の柔軟剤の香りなのか、とてもい匂いがする。
顔もさっきより近くなって、もう本当に心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
(早く着いてくれ……)
宏樹はそっと深呼吸しながら、駅に着くのを待つしかなかった。
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