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〜明希side〜
夕食を終えて、いつもならすぐに部屋に行く昴流が珍しくリビングのソファに座っていた。
翔也はダイニングテーブルでコーヒーを飲みながら台本を読んでいる。
「昴流、びわ買ってきたけど食べる?」
「……ん、貰う。」
顔はこちらに向かなかったが、食べるということはまだしばらくここにいるということだ。
久しぶりに食後に家族揃ってリビングにいることが嬉しくて、明希は思わず微笑んだ。
びわを洗って皿に乗せ、昴流のところに持っていこうとしたが、昴流の方がテーブルにやってきた。
「翔也さんも少し休憩したら?」
「うんー。」
返事は返ってきたが、これは聞いていない。
仕方なく昴流と2人で先に食べ始める。
昴流は食事が終わってから、ずっとスマホを触っている。
こういうことは滅多にない。
誰か仲のいい友達もできたのかと、明希は嬉しかった。
(お?)
ふと、昴流の表情が柔らかいものになり、なにか打ち込んでいる。いいことでもあったのか、それとも好きな子だったりするのか。
何も言ってくれなくても、明希はそれを考えるだけでも楽しかった。
小さかった手も足も背も、今では明希を越していて頼もしくなった。
心を開いてくれてから見せてくれた愛らしい笑顔は、今はあまり見られないけれど、成長は感じる。
10年以上、昴流のことをずっと見てきた。
お腹を痛めて産んだ子じゃない。それでも昴流を誰よりも愛して大切にしていると思っている。
今日のように優しくしてくれることだって多い。
素直になれないだけで、本当はとても優しくて純粋でいい子なのも知っている。
懐かしく思って昔のことを思い出そうとしたとき、昼間に千秋からきていた連絡の方を先に思い出した。
「あ、そうだ。昴流、7月30日は部活とバイトある?」
「……なんで。」
「千秋から連絡が来てね、まつみや院に来ないかって。」
まつみや院は千秋が院長をつとめ、紘が出資・運営する孤児院だ。
事故や事件で身寄りの無くなった子ども、病気で親を失った子ども、色々な事情で親と離れて暮らす必要がある子どもが生活している。
そしてそこは、昴流の出身孤児院でもあった。
「なんで俺が。」
「理由は特にないみたいだけど……たまには顔出さないかって。その日はちょうど皆で夏祭りするみたいで、もし予定がないなら少しでもどう?」
「……行かない。」
「用事あった?」
「ないけど、行かない。」
「……行きたくなかった?」
昴流は院にいたとき、あまり周りと馴染めていなかった。
決していい思い出がある場所ではない。
失敗したかなぁと明希は思った。
「……別に。」
ふい、と顔を背けた昴流に、今までは黙って台本を読んでいた翔也が顔を上げた。
「昴流。母さんにも立場があるし、いくら友人とはいえ、千秋くんも院長だ。断るときはきちんと話をしなきゃいけないんだよ。別に行きたくないなら無理に行かなくても構わないけど、理由があるなら言うか、言いたくないなら言いたくないでそれをきちんと伝えなさい。」
「……るっせぇな。」
「昴流。お前いい加減にしろよ。俺にはまだしも、母さんにも失礼な態度ばっかりとって……」
「翔也さん。」
これ以上はよくない。
空気がピリついていて、2人とも冷静じゃない。
「ずっと言おうと思ってたんだ。俺と喧嘩して、俺にそういう態度をとるのはわかる。なんで母さんにまでそうやって刺々しい態度をとるの?」
「お前に関係ねぇだろ。」
「関係ない?家族なんだから関係あるでしょ。」
「……はっ、家族?お前が言うなよ。」
「昴流、もういいから。やめなさい。母さんは気にしないから。」
なんとか話を終わらせようとするが、ピリピリした空気は変わらない。
「そもそも、なんで俺とお前が喧嘩した?俺に大事なことを黙ってたからだ。子どもだと思ってバカにしてたからだ。俺を家族だと思ってねぇからだ!!」
ダンッとテーブルを叩いて立ち上がった昴流に、翔也が完全にキレた。
「家族だと思ってない?お前はまだ分からないの?!俺たちが今までどんな思いでお前と過ごしてきたと思ってるんだ!どれだけお前を愛してきたと思ってる?!家族だから、許してきたんだろう。家族だから、母さんはお前に何も言わないんだ!他人だったら俺だってお前のことを追い出してるさ!!母さんのことをお前は何回傷付けた?他人なら許さない!でもお前は俺たちの子どもだから、家族だから、遠回りしても、間違っても、家族だからここまできたんだろう!」
「だからてめぇはそれを言う資格がねえって言ってんだよ!俺に向き合ってくれたのはいつだって母さんだけだ!!お前は俺に何してくれた?!住む場所と食うもん、金だけだ!お前から愛なんて感じたことない!!お前は母さんを愛してるから、仕方なく俺を認めてるだけだ!母さんが俺を認めるから、お前も認めてるだけだ!お前の感情は何一つ入ってない!」
「どうしてそうなるの?!愛がないのに養子になんかするわけないだろう?!」
「だったらなんで黙ってた?!母さんが不妊なこと、俺を引き取った理由だ!!」
「知ったら何が変わった?知ってたらお前は母さんを傷つけなかったか?違うだろ。知っててもお前は、子どもができる体だったら俺を引き取らなかったって駄々を捏ねたでしょ。」
「そんなのわかんねぇだろうが!!ーーーッ、お前はいつもそうだ!俺のことを下に見てる!養子だから、血が繋がってないから、本当の家族じゃないから!!!」
「お前……いい加減にしろ!」
「翔也さんっ!」
昴流を殴った翔也を引き離すが、昴流もすぐに立ち上がる。
「俺が養子だって、なんで言わない?俺を傷つけたくない?違うだろ。お前が傷つきたくないからだ。お前が本当は偽善者だからだ。俺のことを子どもだなんて思えないからだ!!」
「血の繋がりがなかったら信頼も築けないの?お前は母さんに何を教わってきた?!お前こそ逃げてるだけだろ!怖がって逃げて、何の解決にもなってない!家族なんだから……」
「家族、家族、家族、家族、いい加減にしろ!!」
翔也の言葉を遮った昴流の声は震えていた。
「俺たちは!!!誰一人!!血が繋がってない、なんの繋がりもない!!家族なんかじゃない!寄せ集めの集団だ!!!」
「もうやめなさいっ!!」
明希が声を荒らげると、昴流も、話そうとしていた翔也も口を噤んだ。
そして昴流は荒っぽくスマホを取り上げて、部屋に閉じこもった。
「……ごめんね、俺も、頭冷やすよ。」
翔也も台本を取り、書斎に入る。
リビングに1人残った明希は、深くため息をついて椅子に座った。
「やっぱり俺に、"お母さん"は無理だったのかなぁ……」
零れ落ちそうになる涙を必死にこらえて、明希は俯いた。
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