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〜昴流side〜
翔也と明希とは何度も会った。
その度に他愛ない話もしたし、昴流の好きな物の話もした。
翔也はいつも、約束を守ってくれた。
毎回明希と一緒に来てくれた。他の子とは話さなかった。
昴流が欲しいと言った花の種をくれたり、本を持ってきてくれたこともあった。
明希が先に来ていた時にはケーキをくれたりもした。
昴流に喜んで欲しいという気持ちはすごく伝わってきた。
そんなある日のことだった。
翔也が千秋と話しているところを昴流は見つけた。
2人だけで、明希の姿はない。
話を終えた千秋は昴流のところにやってきた。
「明希さんいないんだけど、翔也さんが少しだけお話したいんだって。どうする?」
こんなことは今まで1度もなかった。
やっぱり気に入られなくて何か言われるのかとか、怒られたりするのかと不安になった。
「もし話したくなかったら、僕に用件だけ言って帰るって言ってるよ。星くんの好きにしていいんだよ。」
「……おはなし、する。でも、ちあきせんせきもいて。」
「うん、わかった。」
千秋に連れられて翔也のところに行くと、翔也はいつものようににこりと笑ってくれた。
それにひとまずホッとする。
けれど千秋がいるからかもしれない、と千秋に隠れるように後ろに下がった。
「ごめんね、明希ちゃんと来るって約束してたのに破っちゃって。」
昴流の予想に反して、一言目はそれだった。
「今日も来るよって言ってたのに来ないと、星くんが心配したり嫌な気持ちになるかと思って来たんだけど……明希ちゃんは今日、体の調子が悪くなっちゃったんだ。」
「あき、かぜ……?」
「うーんとね、風邪ではないんだけど……お腹が痛くなっちゃったんだ。」
「あき、だいじょうぶ?」
「うん。今は病院にいるし、落ち着いてるから大丈夫だよ。でもしばらくここに来れないかもしれないから、それも言わないといけないと思って……俺だけで来たんだ。」
電話で済ませたって、千秋に伝言を頼んだってよかったのに、翔也はわざわざ言いに来てくれたらしかった。
昴流の目線に合わせてしゃがんで、しっかり目を見て話してくれる翔也に、昴流は少し心を許した。
「どのくらい、こない?」
「お医者さんからいいよって言われるまでかなぁ……まだわからないんだ。わかったらすぐにここに電話して、明日から行くよって言うね。」
「……やだ。」
驚いたのか、翔也は目をぱちぱちさせた。
「しょうやが、いいにきて。」
「……俺が?来ていいの?」
「しょうやが、これるとき、きてよ。」
「俺だけしか来られないよ?大丈夫?」
「……うん。しょうやだけでも、いいから。きてよ。」
「うん、わかった。」
翔也は嬉しそうにニコニコ笑っている。
千秋の方を見上げると、千秋も優しく微笑んでいた。
「もしお仕事で来られない日にわかったら、その時はお電話でもいい?」
「……うん。」
「明日……は撮影あるから、明後日の午後かな。明後日のお昼ご飯食べたあと、また会おうね。」
「……うん。」
「じゃあ、今日はごめんね。病院に戻るから、遊んであげられないけど……星くんも風邪とか気をつけてね。温かくしておくんだよ。」
「うん。」
その日はそれで翔也と別れた。
約束通り、2日後の午後に翔也はやってきた。
明希が書いてくれたという手紙を持ってきた。
返事を書く昴流を、翔也は黙って隣で待っていてくれた。
それから絵を描いて、花の世話をしに行って、何をしていても翔也はずっとニコニコして見守ってくれていた。
そんな日が何日か続いた。
翔也と2人きりでも、いろいろな話をするようになった。
翔也はどんな話をしても真剣に聞いてくれたし、優しかった。
この人はどこか違う。
昴流はそう思った。
「しょうやは、おとうさんになったら、なにしてくれる?」
「うん?星くんのお父さんになったら?」
「……うん。」
翔也の隣に座って絵を描いていたときにそう尋ねた。
翔也の方を見るのはなんとなく怖くて、絵は描き続けた。
「うーん、そうだなぁ。星くんは何して欲しい?」
「……わかんない。おとうさん、いなかったから。」
父親というものを昴流は知らなかった。
だから父親が何をしてくれるのかわからない。
母はいつも一緒にいてくれた。
では、父は?
父は何をしてくれるのだろう。
「そっかぁ。でも、お母さんとあまり変わらないと思うよ。まあ、うちは明希ちゃんはお家でお仕事してるから、俺よりずーっと一緒にいてくれると思うけど……俺もお休みの日は一緒に遊んだり、お出かけしたりしたいな。星くんの欲しいものを買いに行ったり、皆で遊園地に行ったり……仲のいい友達に、星くんくらいの子がいるから、その子たちも一緒に遊んでもいいね。もちろん、星くんが俺と2人とか、明希ちゃんと3人とかが良ければそれでも楽しそうだし……お家でのんびりしてもいいね。」
そう話す翔也は楽しそうで、本当にそういうことがしたいのだとわかった。
「しょうやがいるのに、おれが、あきとふたりででかけたらどうする?」
「いいんじゃない?そしたら俺はお家でご飯作ったり、お掃除して待ってるよ。でもたまには俺も連れてって欲しいなぁ。寂しいから!」
「……おれのこと、じゃまだとおもう?」
「どうして?思うわけないでしょ。俺は星くんと家族になりたいんだよ?邪魔だなんて思わないよ。」
翔也が嘘を言っているようには思えなかった。
あまりに優しい表情と声。
本当に昴流と家族になりたいと思ってくれているような気がした。
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