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~恋side~
8月10日
「空夜お疲れ様。」
「ありがとうお母さん。」
「結果はどうだったんだ?」
「満足いく演奏はできたよ!」
琉に自信満々でそう言う空夜を見て、後悔は無かったんだなと思う。
「そうか、ならよかった。次は陸玖の甲子園か。」
空夜の吹奏楽コンクールが今日終わり、明後日は陸玖たちの初戦。
甲子園球場に既に行っている陸玖は家にいない。
空夜も明日には出発し、甲子園球場で応援する。
「陸玖兄さん、また吐きそうになってるんじゃない?」
「ありそう。陸玖はほんとに試合前のメンタル弱いからなぁ。」
昂と春陽も心配そうだ。
「空夜兄さんたちは応援の準備ばっちり?」
「それがそうでもないんだよねぇ。やっぱりコンクールに追われてたから、ちょっと心配なとこもあってさ。」
「そうなんだ。甲子園だしやっぱり緊張する?」
「そりゃもちろん。コンクールも緊張したけど、やっぱり甲子園も緊張するよ……」
「そっかぁ。あー、俺も応援行きたかったなぁ!」
昂は昂で部活や宿題があるため、甲子園球場には行けない。
琉は仕事、春陽もよるを家で預かっているため行くことはないし、恋は瑠梨もいる。
現地に行けるのは空夜だけだ。
「来年も陸玖に頑張ってもらうしかないな。」
「春陽兄さん、来年俺受験。」
「あっ、そうだったわ。」
なんだかんだと話す息子たち3人を横目に、恋は夕食の片付けをする。
よるがそれを手伝いに来てくれた。
「恋、瑠梨が限界だから寝かせてくるな。」
「はい、お願いします。」
琉がそう言って2階に上がっていき、恋はよると2人で洗い物を始めた。
「座ってていいのに。」
「いえ。お世話になっているのでこれくらいさせてください。」
「ありがとう。じゃあ、すすいでもらおうかな。」
「はいっ。」
「よるちゃんは甘いもの好き?」
ふと恋がそう聞くとよるが不思議そうな顔をする。
「実は、今度友達が家に来ることになってね、その時にケーキ持ってきてくれるって言うから。来週の土曜日なんだけど、よるちゃんは部活ないからお家にいるでしょ?昂は部活でいないし、春陽はあんまり甘いもの食べないからいらないんだけど……よるちゃんはどう?」
「えっと、甘いものは好きです、けど……」
「じゃあ一緒に食べない?その友達の娘も来るから。その子よるちゃんと同い年なんだ。」
「いいんですか?」
「うん、もちろん。」
楓と楓の娘の茉衣(まい)、それから小雪と小雪の娘の雪愛が家に遊びに来る。
茉衣と雪愛曰く『女子会』なのだそう。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「どんなケーキがいいか考えておいてね。」
「は、はいっ。」
よるは素直で優しくて、とてもいい子だ。
けれど、恋は少し心配だった。
いくら他人の家だからとはいえ、希望を言わない。
恋に言いにくいのかと思ったが、春陽にも言っていなさそうだった。
そして、時々琉や恋に対して見せる警戒心。
男性が苦手、というのではなさそうだった。
春陽や陸玖、空夜、昂には特に何もない。
(なんで俺たちなんだろう……ご両親とうまくいってないのかな。)
あまり口出しすることではないと思い、よるにはもちろん、春陽にも何も聞いていない。
ここに連れてきた時にも事情はあまり言いたくなさそうだった。
「よし、終わった。よるちゃんありがとうね。」
「いえっ!」
「よるちゃん。」
「はい?」
(なにか、話したいことはないかな。)
「……ううん、なんでもない。俺は洗濯機セットしてくるから、座ってて。」
不思議そうにしながらも、よるは頷いてソファの方に行った。
(俺に話せることはないか……いくら今一緒に生活してるとはいえ、他人だし信用もないよなぁ。)
洗濯物を洗濯機に放り込みながら、恋は考え込む。
春陽から聞いているのは、よるは鈴に会ったことがあるということ、それからある事情で親とは離れて生活しているということ。
(……1番ありえるのは虐待、だよなぁ。)
鈴も虐待を受けていた。
その鈴と会っているとなると、よるも似たような環境であった可能性がある。
鈴は学校にも行かせてもらえなかったが、よるは学校にはずっと通っているようで、知能の遅れや発達の遅れは見られない。
(なんだろう……なんか嫌な感じ。)
なんとも言えない不安感と、よるへの心配。
よるの親は、よるが今通っている学校を知っているのだろうか。
事務所に逃げたことは。
ここにいることは。
どこまで知られているのだろう。
(……考えすぎかな。)
鈴の両親は虐待から逃げた鈴を連れ戻すために躍起になっていた。
よるの両親も、というのは恋の考えすぎかもしれない。
しかしよるが心配なことに変わりはない。
誰にでもいいから、頼って欲しいと恋は思った。
*鈴の話は「愛してると言って」を読むと詳しく分かります。
読まなくても今後に問題はありません。
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