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~京side~
(どうしよ、気持ち悪っ……)
文化祭が終わり、片付けも終えての後夜祭。
吹奏楽部の演奏が終わったあたりで人酔いしてしまった。
今は人気の軽音部のパフォーマンス中で、抜けようにも抜け出せない。
(少し休めばすぐ良くなるのに……)
元々人混みはあまり得意ではない。特に多くの人の中でじっとしているのは苦手だ。
少し離れて休んでいればすぐに回復するし、歩き回っている分には問題なく、テーマパークなども平気なので、ここまで気持ち悪くなったのは初めてだった。
(どうしよう……)
離れたくとも人に押されて離れられず、深呼吸するのが精一杯だ。
俯いて深呼吸を繰り返していると、トントンと肩を叩かれた。
後ろを振り向いても特に見知った顔がいるわけでも、先生がいる様子もない。
不思議に思っていると、腕が伸びてきて手招きされた。
誰かわからないのと、やはりあまり動けないのとで戸惑っていると手首を掴まれて引っ張られた。
(えっ?!)
「ごめん、急に。京具合悪そうだったから。」
よろけた体をとん、と受け止められたのは昴流の腕の中。
生徒会のメンバーと一緒に運営を見守っていたはずなのに、気がついてくれたらしい。
「ちょっと、人酔いしたみたいで……外出たい……」
「そっか、わかった。とりあえずここ抜けよ。」
昴流に手を引かれ、人混みを避けてアリーナの端に出る。
「新、ちょっと外出てくる。なんかあったらスマホならして。」
「わかった。夏目先生呼ぶ?具合悪そう。」
「いや、人酔いらしいから、とりあえず様子見る。やばそうだったらこっちから電話するから、スマホだけ気にしといてくんね?」
「OK。バイブ通知にしとく。霧谷、だよな?こっち平気だから、なんかあったら昴流に頼め。無理すんなよ。」
少し顔を寄せてそう言ってくれた新に頷いて、ぺこりと頭を下げる。
それから昴流にまた手を引かれ、アリーナの外に出た。
賑やかな音が少し静かになり、中の熱気から比べてひんやりした空気が肌に触れた。
それだけでも少しスッキリした。
「顔色あんまよくないな。どっか横になる?」
「ううん、座れば平気だと思う……」
そう言うと廊下の方にある小さなベンチに座らせてくれて、少し待ってて、と昴流はいなくなった。
そこで深呼吸していると胸のつっかえが取れたような感じになって、吐き気も治まってきた。
昴流に申し訳ないことをしてしまったなと思っていると、昴流は走って戻ってきた。
「お待たせ。水買ってきた。」
「あ、ごめん……ありがとう。」
「少し落ち着いた?」
「うん。だいぶ気持ち悪いの治まってきた。」
「よかった。体調、あんまりよくなかった?打ち上げやめとく?」
「あ、違うんだ……元々人混み苦手で、でもいつもはすぐ避けて休んでて……歩いてたりすると大丈夫だから、こんな風になったことなくて、ちょっと困ってただけなんだ。」
「本当に?無理してない?」
「うん。どんどん落ち着いてきてるし、体調は本当にいいから。」
「まあ、それならいいんだけどさ……乗り物酔いみたいなもん?」
「それに近いかな。小さい頃は乗り物酔いが酷かったんだけど、それよりは楽だなぁ。」
「そうなんだ。」
「でも助かったよ。ありがとう。」
1人ではあの人混みを抜け出せなかっただろうし、抜け出せなければどんどん悪化しただろう。
「いいえ。京が具合悪そうなの見つけて、ちょっとびっくりしたけどよかった。今顔色戻ってきた。でも水飲んで、もう少し休んでな。」
「うん。ありがとう。昴流くんはもう戻ってもいいんだよ?」
「いいよ。もう軽音部終われば終わりだし。空夜がさっき片付け終わったらしいから、もうここで合流しようかと思って。」
「でも、ライブ盛り上がってるところじゃ……」
「いいの。具合悪いってここに連れてきた京を置いて戻ったら、俺が新に怒られる。」
「笹倉くん?」
「そ。あいつそういうとこちゃんとしてるから。口悪いけど、根は優しいやつだから。」
「へぇ……」
(昴流くんも、そうだけどな。)
一見怖そうに見えるが、話してみれば優しくて真面目で、努力家で、笑った顔は意外と幼くて、いいところがたくさんある。
趣味の話をしている時はすごく楽しそうで、京の話を聴く時は真剣に聞いてくれて、くだらないことで一緒に笑えて、そういうところが、京は。
(……好き、なんだ。これが。)
胸に広がる不思議な気持ち。
これが恋なのだと気がついた。
今までは周りに言われて、そうなのか、と漠然としていた感情が、腑に落ちた。
(好き、なんだ……昴流くんのこと。)
自覚した途端、キュン、と甘く鳴く胸が、ドクドクと音を立てる心臓が、さらにその気持ちを加速させていく。
「京?」
京は、昴流に恋をしていた。
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