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「つまみ買ってこい」
そう言われて、痛む体を引きずるようにして
家を出た。
あの人は、よっぽどのことがない限り俺の顔には傷をつけない。
こんな風に、あの人に言われて外に出ることが
たまにあるからだと思う。
外に出る度に、このまま逃げ出せたらどんなにいいだろうか、と考える。
けど、それも考えるだけ。
弱虫な俺は結局、行動に出せずにいる。
逃げるってどこに?もし失敗したら?
あの人にどんな目に合わせられるか、想像した
だけで体が震えてしまう。
そんな情けない自分に深いため息を吐き、痛む
体に鞭を打ってコンビニを目指した。
どこからか、子猫の鳴き声がして足を止める。
土で汚れ、小さくて痩せ細った体。
震えながら小さな声で鳴き続ける子猫が、目に
入った。
…お腹空いてるのかな。
渡された財布を無意識に握りしめていた。
このお金はあの人のお金で、勝手に使ったら
どんなことをされるかわかったもんじゃない。
けど、
「…美味しい?」
「ミャア」
結局俺は、キャットフードを買ってきて
しまった。
正直、家に帰った後のことを考えると恐ろしくて堪らない。
「…君は野良猫だよね?…飼い主さんが見つかるといいね。」
ペロッとキャットフードを平らげ、座ってこちらを見上げる子猫の頭を撫でる。
当然ながら、俺が拾って帰れるわけもない。
誰か優しい人に拾って貰えればいいのだけど。
「…どうしたの?」
ふと、子猫が後ろを向いたので、釣られるようにして顔を上げた。
「っ…」
眉間に皺をよせ、こちらを見下ろしている男。
ビシッとオールバックにした黒髪に、黒スーツ。
かなりの高身長で、すっと通った高い鼻筋に
切れ長の目元。誰もが男前だと認めるであろう、
端正な顔立ち。
無言でこちらを見下ろすその姿は、黒い威圧感と何故か色気を感じさせる。
…え、誰?
思わず息を飲み込んだとき、
「…お前、名前は?」
「えっ…?」
男の低い声が響いた。
俺の名前なんか知って一体どうするんだろう。
てか、いきなり何なんだこの人は。
「…その猫の飼い主探してんのか。」
「えっ?あ、探してるというか…飼ってくれる人がいたらいいなって…」
俺を見下ろしたまま男が尋ねてくる。
それが何だか怖くて、俯きながらぼそぼそと
答えた。
「じゃあその猫、俺が飼ってやる。」
「ほ、ホントですか…?!」
驚いて思わず顔を上げた。
黒スーツの男は、俺と目線を合わせるように
しゃがみこみ、観察するように子猫に目を
向けた。
…猫好きなのかな?
「ただし、お前が名前を教えてくれたらな。」
「へ?」
目をまたたかせながら、目の前の男の顔を
見つめる。
何でそこまで名前にこだわるのだろう。
別に名前ぐらい、そんな取引せずに教えてもいいのだけど。
男の漆黒の瞳が俺を見つめていた。
居心地が悪くて目線を反らすと、男の右手に顎を捕られた。
「名前は?」
真っ正面に男前なその顔があり、直視されるのに耐えきれず急かされるように口を開いた。
「ひ、平野楓…」
絞り出すように声を出すと、
「…楓、か。」
俺の名前を噛み締めるように、男が呟いた。
「…楓。」
名前を呼びながら、男が俺の頬をするりと
撫でた。
こんな風に優しく触られたことはないから、混乱して戸惑う。
お義父さんに触られるのは怖くて堪らないのに、何故だかこの男に触られるのは怖くない気が
した。
__と、ふいに目と鼻の先に、男の端正な顔が
近づいてきた。
俺と男の唇が重なっている。
「えっ…?!」
すぐに離れていった、柔らかく温かな感触。
激しく混乱した俺は男を押し退けるように
立ち上がり、その場から逃げ出した。
なに?!何なのあの人、いきなり…!!
いくら、唇を拭っても何故かその感触は消えて
くれなかった。
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