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学校一の陰キャが学校一の不良に「諸事情あって」ベタ惚れされた話
第18話 きっとお前は
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昔から、気づけば周りに人が集まっていた。そして、それが当たり前だった。
中学生になる頃には理解した。自分はクラスでも上の存在であり、俺の言うことは絶対なのだと。
人っていうのは周りに合わせなきゃ不安を感じる生き物で、生きるためには「こう」と指針になる人物の言いなりになるしかない。そしてその指針こそが俺だった。
けれど指針も楽ではない。いつだって周りが理想とする“それ”を演じなければならない。
少しでも違ったことを言って信用を失えば、一瞬で地に落ちる。
そんな時だけ人間は団結力を発揮するのだ。
結局上に立つ奴ですら、周りに合わせるしかない。
だから俺は……上に立つにふさわしい人間でいるために、なんだってやるのだ。
「とりあえず今日一日上着は干しておきましょう。髪も乾いたし、教室に戻りなさい。もう5月だし暖かいから、多分大丈夫よ」
そう適当を言う保健医にこちらも適当に頷いて、教室へ向かう。
イライラが収まらない。
あいつ……佐山 春のせいで。
どうやったらあんな盛大に噴出するコーラを生み出せるのか問いただしたいくらいだ。
あいつ、人がちょっと優しくしてやろうと思ったらこれだ。
だから、後戻りがどんどんできなくなる。
カーストトップは、いつだって下に見る対象が必要だ。でなけりゃトップには立てない。
俺はいつだってそんな対象を、周りが望むまま作り上げた。
中学校までは多少からかえる相手がいればそれで良かった。かと言ってわかだまりもなく、それなりに相手とも仲良くやれていたように思う。
けど高校に入ってからは違った。そういう“下”の連中は、とことん“下”に蹴落とされる。
下克上などされないように、それはもう念入りに。
その対象になったのが佐山だった。
入学初日から喋らず、大人しく、目立った友達もいない。自己紹介では声が小さくどもり気味で、見るからにコミュ障。ハッキリ言って陰キャ。
的にされるのは当たり前だった。
最初は多少からかって、下に追いやれればそれで良かったのだ。実際今までそうしてきたし、責められたこともなかった。
けれど周りが求めるものはもっともっとと、貪欲になっていく。
あいつを、徹底的に、潰せと────。
けど、俺はあの日それを後悔した。いや、正確に言うとあいつを対象にしたことを後悔したのだ。
「佐山、掃除ヨロシクー」
入学から一週間ほど経ち、各々のクラスでの立ち位置も固まり始めた頃。そう言って佐山に掃除を任せて教室を後にした俺は、忘れ物に気づき戻った。
佐山はいないと思っていた。任されたところでやろうがやるまいが誰も何も言わないし、無理にやる必要は無い。
それなのに、あいつは……夕陽のさしこむ教室で一人、ただひたすら掃除をしていた。
そこに強制されたからとかそういう意図はなく、ただやりたいからやっている……そんな雰囲気すら感じられた。
「……何やってんの?」
思わず、声をかける。佐山は驚いたようで、ビクリと肩を震わせてこちらを見た。
おどおどしているくせに、パシられそうになると自分の意見は口にする。その勇気があるなら、もっと言えばいいのに。
あと一歩が踏み出せないから、何も変わらないんだよ。
「何って……掃除だけど」
「なんで?嫌なら別にやんなきゃいいじゃん。別に誰もやってないんだしさ」
「なんでって……」
苛立ちを隠さない俺に、佐山は臆することなく答えた。
「別に、俺がやりたいからだよ」
「……」
ああ、良いなあ。
臆病で、頼まれ事は断れなくて、でも、それでも────
自由に、生きているんだ。
きっとお前は、覚えてなどいないのだろう。あるのは俺への恨みだけ。
それでいい。お前の心に残ってくれればそれでいい。
やるならとことん、一生忘れない痛みになってしまえばいい────
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