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学校一の陰キャが学校一の不良に「諸事情あって」ベタ惚れされた話
第39話 少しでも
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何も考えずに走り出していた。自分に何もできないことは分かっていたけど、あの倉庫での時のように、気づけば体が動いていた。
見て見ぬふりをするのは……ただ黙って見ているのは、嫌だったから。
たどり着いた時には、遠くで血まみれの天宮が倒れていて。間に合わなかったと知って、心の奥で複雑な感情が何重にも交差した。
天宮は不良で、言ってしまえばこんな状況になったことも多々あるのだろう。実際生傷は見えるところだけでもたくさんあったし、傷痕もそこかしこにあった。
でも、それでも俺は……
そうして気づけば、俺はもう一度天宮を殴らんとする不良に体当たりしていた。
「てめェ、何しやがんだ!……ん?おめェさっき屋上にいやがった……」
フラフラと立ち上がった不良は恐ろしい形相でこちらを一瞥した。
足がすくむ。体当たりは成功したものの、俺に喧嘩をできるような力量は全くない。自分でも知らない才能が眠っている……なんでこともないだろう。小説じゃあるまいし。
「あ……えっと、こんにちは。一年生の佐山 春です……」
「名前は聞いてねぇ!ここに来たってことは覚悟できてんだろうな陰キャがよぉ!」
「ひいいいい!!」
とりあえず挨拶してみたけど、逆効果だったようで余計怒らせてしまったようだ。目の前に容赦のない拳が迫ってきた。
死を覚悟して目を瞑ったけど、顔中に想像したような痛みが走ることはなかった。
「ぷぎょっ!!」
代わりに情けない声が聞こえてきて、目を開けてみれば目の前の不良は目を回して倒れていた。
「……なんでここに来た」
「……天宮」
どうやら、天宮が何とかしてくれたらしい。額から血が流れているけど、なんでもないように片手で拭っている。
「ザコのくせして、何でここに来たんだ?」
冷たい目で見つめられた。けど、今までのような恐怖はこの状況ではもう感じられない。俺の心にあるのは、あの天宮だ。惚れ薬だからとか、関係ない。
「……俺も、あんま分かんないや。でも、天宮……優ちゃんが怪我してるの、見たくないから」
「……ばーか、もう怪我してんだよ」
「……大丈夫?」
「ははっ」
おずおずと聞くと、天宮は笑った。こんな状況なのに、肝が据わっているなあ。まあ、俺も傍から見ればそうなんだろうけど。実はもう恐怖で足が動きそうにないのは秘密だ。
「────春くんが来てくれたから、もう大丈夫だよ」
「……そっか」
そう言って、天宮は笑った。それから振り返って、呆然とする不良たちに立ち向かっていった。
さすがにもうこれ以上、俺に何かをする余裕はなかった。ただ、少しでも天宮の助けになれたなら良いな。
「優……」
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