アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
イケメン×平凡
-
高校生
「ぁのぉ…」
さすがは、飲食の先進点に立つファーストフード店なだけあって、店内は学校終わりであろう学生達で大変な賑わいを見せていた。
あちらこちらから友達同士で楽しそうに談笑する声や、リア充が互いにポテトをあーんして所構わずにいちゃつく光景を、湧き上がる憎しみを抑え込みながら傍目にしていたら。突然、上から可愛らしい女の子特有の甘い声が降りかかった。
椅子に腰掛けていた俺はにやけそうな口元を慌てて引き締める。
見上げた先には、かわいい声の期待を裏切ることなく顔もスーパーキュートなブレザーの女の子二人組が頬をピンクに染め、こちらを見ていた。
よくよく見ても、まじで可愛い。俺はでれっとスカートからのびた瑞々しい足に釘付けになる。
だが、当然
「…や、八神高校の、佐々木時雨君ですよね…?」
照れたようにはにかみながら媚びた眼差しが向かう先は、俺の正面に座わっているイケメンにだけ。どうやらふたりの視界に俺の存在などもはやなく、あるのは時雨のことのみのようだ。
予想はしていたものの、深く重たいため息が口から溢れた。
「そうだけど…」
ミニスカートの、スーパーキュートな女の子からの熱っぽい視線にも、時雨は困ったように目を伏せるだけだった。こいつはこういう光景に遭遇するのにすっかり慣れて切っているらしく、いくらかわいい女の子や美人のお姉さんにお声を頂いても、またか…みたいな冷めた態度しか返さないんだ。
くそっ…時雨のやつ、何がそんなに不満なんだよ!こんなにかわいい子たちに声をかけてもらえるなんて、普通の男子高校生なら泣いて喜ぶに決まっている。それなのにおまえときたら。ちょっとばかし長身でイケメンだからって、街を歩くだけであちらこちらから熱っぽい視線を向けられちゃってさ。こいつにとって逆ナンなんて、日常の一コマでしかないのだろう。
…あーあ。いいな、いいな。羨ましいな。俺もモテたいな。どうやったらモテるんだろ、やっぱこいつみたいにイケメンでスマートな男じゃなきゃだめなのかな。でもでも、俺って紳士だよ?少なくともこいつみたいに、せっかく声をかけてもらったのにつっけんどんな態度しか返さない、なんてことは絶対にしない。
…顔は、イケメンじゃないかもだし、背もそんなに高くはないけどさ。
うぐぐ…とこればっかりはどうにもならない現実に神を恨んだ。
だがそんな時雨の冷めた態度も、端から見ればクールで奥ゆかしく見えるらしい。女の子たちはきゃあ、と弾んだ声を上げた。
「わ、わたし達、佐々木くんのことをずっといいなって思ってて…」
時雨の人気さと有名さは異常だ。なんせ校内を飛び越え、左右三駅分の他校の子たちにまでその名前と顔は知れ渡っているのだから。
だからこうやって、偶然立ち寄った店先で全く知らない女の子たちに声をかけられるのも日常茶飯事なわけで。
「もし良かったらでいいんですけど、…その、ラインとか……」
細くて綺麗な指がポケットからスマホを取り出すのをぼうっと見る。清楚な見た目に反し、性格はかなり大胆なようだ。ちらちらと、期待7割不安3割ってかんじの視線を投げかけるも、視線を向けられている当の本人はまるでどこ吹く風だ。ちら、と一瞬だけ女の子の持つスマホに視線を向けるものの、すぐに指先でいじっていたストローに視線を戻す。
そうして女の子がスマホを取り出したのを合図に、きゃあ、と店内のあっちこっちから女の子の色めき立った声があがった。
まって。あれ、八神高の時雨くんじゃない?やばい、かっこいい!私たちもライン聞いちゃう?
いいないいなー羨ましいなー俺もかわいー女の子のラインをゲットしたいなー、という想いを目で時雨に訴えかければ、ふう…と呆れたような息を吐かれた。
…なんだよ。
だが数分経っても、何の行動も起こさない時雨に焦れたのか、女の子たちは計画を変更し、狙いを時雨と一緒にいる俺に定めた。
「あの、よければお友達さんとも交換したいんですけど…」
棚ぼたチャンス到来。つまりは、あれだ。時雨のラインが手に入らないならば、一緒にいる友人とまずは仲良くなろうっていうコンセプトだ。俺と仲良くなっとけば、後から本命の時雨を紹介してもらえるかもしれないから。
そうじゃなけりゃ、こんなどこにでもいるような平凡な俺と好き好んで連絡先を交換し合うわけがない。
…まあ、でもだ。たとえこれが、時雨のお零れだろうが何だろうが、こーんなにふわふわキャピキャピとした女の子2人のラインを合法的に手に入れられるのならば、この際理由は何だっていい!
ニヤニヤと頬を緩ませながら、俺もスマホを取り出す。その胸の内は下心でいっぱいだ。
女の子が画面に表示してくれたQRコードを読み取ろうお、スマホをかざそうとした瞬間――
スマホを持つ腕を、強く掴まれた。
「帰るよ」
自分のと俺の鞄を乱暴に掴み、ぐいぐいと俺を椅子から立ち上がらせそのまま女の子たちの間をすり抜ける。
突然の出来事に、え。今何が起きた…?とぱちぱちと瞬きをする。
店内を出る直前、去り際に目に入った女の子たちもぽかん、と口を開け、これまた面白いほど呆気に取られていた。
店内を出ても、怒っているのだろうか、痛いぐらい力の篭もった引っ張られ方をして、ギリギリと掴まれている方の腕が悲鳴を上げる。
「い"っ…、っぉい、時雨!いい加減に離せってば!」
ぎゃあぎゃあと抗議をすれば、思いのほか素直に腕が離れた。
掴まれていた腕にはくっきりと指の痕が残っていて、ぎょっとする。…どんだけ力入れてたんだよ、おまえは握力ゴリラか、ばか…。
「…はあ。なんだっていうんだよ…」
疲れた、と弱り切った声しか出てこない。
…ていうか。女の子たちのライン聞きそびれた…せっかくのチャンスだったのに…
うう…落胆で肩を落とす。
「…智明が」
ずっと黙っていた時雨が不意に口を開いた。
「智明が一生彼女なんかつくらなければいいのに」
何だよ、そのジョーク。笑えねぇよ。
まっすぐに向けられる熱の籠もった視線に、ぞくり、と肌が粟立つ。いつのまにか緊張で喉がからからだ。ごくん、と唾を飲み込む音がやけに響いた。
サァ、と俺たちの間を風が通り過ぎると、時雨のサラサラの黒髪が靡いた。
「そしたら、変わらずに俺等は親友でいられるしね」
「…いや、別に。俺に彼女が出来たとしても、おまえが大事な親友ってことに一生変わりはないと思うけど…」
ふてくされたように、そう呟けば。時雨は一瞬驚いた表情をするも、…うん、そっか。たしかにそうだったね。とよくわかんない笑顔を浮かべて再び俺の腕を掴んだ。
今度は、優しく。まるで宝物を扱うかのように優しく、慈しむようにだ。
「……ごめん。痕ついちゃったね」
「本当だよ。どんだけ力入れて掴んでたんだよ、普通に腕折れるかと思ったわ」
「うん、ごめん。じゃあさ、ファミレス行こ。お詫びに智明の好きなもん何でも奢るよ」
「何でも?!え、ハンバーグでもオムライスでもドリアでも何でもいいの?」
「もちろん。…半熟卵にドリンクバーもつけてあげる」
「まっじで!おまえやっぱいいやつだな!俺、おまえのこと好きだよ」
「……半熟卵とドリンクバーくらいで愛を振りまくなんて安い男だなぁ」
「うっせ、ほっとけ。いいから早く行こうぜ。俺、お腹ぺこぺこ」
「はいはい。……俺も好きだよ」
「?今、何か言ったか?」
「ううん。何も。ほら、急ごう。お腹すいたんでしょ?」
「おう!」
イケメンでクールな時雨と、どこにでもいるような平凡な俺。そのあまりのアンバランスさに、周りからは何で仲がいいのかと聞かれることも少なくはないが。
俺と時雨が一緒にいる理由ってのは、もしかしたらこういうところにあるのかもしれないと改めて実感した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3