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第1章ー02 初日から遅刻ギリギリ
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「初日早々から遅刻とか、ありえませんよ。保住さん」
駐車場から、ばたばたと走る田口銀太。
身長190センチの大柄な男だ。
髪は漆黒で短髪、灰色のスーツに白いワイシャツ、鉄紺色のネクタイは更に彼を真面目に見せる。
そんな後ろから、ほぼ歩いて着いていくのは保住尚貴(なおたか)。
半分、顔色が悪く死にそうだ。
「お前のせいだ。お前が、夜更しさせるから……っ」
保住は、ぐだぐだだ。
濃紺のネクタイは緩められ、ワイシャツのボタンすら外れている。
「今日も一日ご苦労様でした」ぐらいの勢いの乱れ様。
黒い髪は跳ねまくりだ。
途中からはもう間に合わないと判断した田口が腕を掴み、強引に引っ張って走った。
「田口!痛い、痛い!」
「仕方ないではないですか。初日から遅刻ということだけは絶対に避けなければなりません!!」
左手に段ボール。
右手に保住。
田口は全速力で庁舎に滑り込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ぜえ、ぜえ……っ」
「おはようございます」
あんなに走ったのに。
しらっと挨拶をする田口が憎たらしい。
保住は、両膝に手を着いて肩で息を吐く。
「あの……」
「大丈夫、ですか」
安齋と大堀は目が点だ。
二人は結局どうしようもないので、こうして段ボールを抱えて待ちぼうけしていたのだが。
遅刻ぎりぎりで入ってきた同僚と上司は、ぐだぐだだったからだ。
「田口……」
二人は田口を知っている。
昨年度の同期研修会で一緒だったからだ。
同期3名での異動。
そう聞いているから。
仲間の一人は、彼であると理解する。
と、いうことは。
田口の後ろでぐだぐだになっている男が上司ということか。
「おはようございます」
安齋は、きりっとして挨拶をする。
それに倣って、大堀も「おはようございます」と言った。
「お、おは……、ちょ、ちょっと待て。息が上がってしまって……」
駐車場から少し走っただけでこの様って。
田口は、保住を見下ろして苦笑するしかない。
「眼鏡はそこ、小さいのはそこ。田口はそこ」
保住は指で指示をする。
「眼鏡って」
「小さいって、おれですか」
大堀は苦笑する。
安齋は、むっとした顔をして指示されたデスクに段ボールを置いた。
保住の荷物は少ない。
紙袋に入っている荷物を抱えて、真ん中の席に座った。
「すまない。初日から見苦しいところを見せた」
少し落ち着いたようだ。
椅子に座って「は~」と深く息を吐く。
それから、荷物を整理し終わった一同を眺める。
「年度初め式前に副市長との打ち合わせがある。自己紹介はそのあとだ」
そんな早朝に?
始まったばかりじゃない。
大堀と安齋は、顔を見合わせるが保住は全く持って無視。
「田口、これ。すぐまとめておけ」
「はい」
渡された書類は、彼の構想メモだった。
今日の打ち合わせで使うということか。
「開始は何時ですか」
「35分だ」
「了解です」
あと5分。
田口は、急いでパソコンを立ち上げて、書類を作成し始めた。
5分後の会議の資料を作るなんて。
安齋は、じっと田口を見つめる。
研修会の時の田口と、今の田口の印象が違うのは気のせいなのだろうか。
真面目で穏やかなタイプ。
すこし騙せば、いいように扱える男。
そう思っていたのだが……。
田口が資料を作成している間、大堀はボールペンやノートを取り出して打ち合わせの準備のようだ。
保住は傍にある資料を眺めていたが、田口がプリントアウトをしようとしているのを見て立ち上がった。
「どれ、行こうか。45分から初め式があるから。その前に捕まえる」
大堀と安齋にとったら、保住とは初対面に近い。
まだ彼の人と成りがつかめないせいで、キツネにつままれたようなことばかりだ。
たった十数分しか時間が経過していないのに、1時間以上いるみたいな感覚だ。
「いけます」
田口は資料を手に保住に続く。
それに遅れながら大堀と安齋も着いていった。
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