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第2章ー02 安齋と言う男
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18時を過ぎた。
庁内の会議に出かけた大堀と保住は、まだまだ帰ってくる気配はない。
配属された時は、まっさらな状態だったので何から手を付けたらと言う感じだったが、1か月が経って、想像以上に忙しい毎日だ。
残業をしたい訳ではないが会議の連続の保住は、ほとんど椅子に座っていることがない。
時間外に食い込む打ち合わせも多く、朝出勤して会議に出かけてから自分の席に戻って来るのが19時以降、なんて日もざらにある。
会議が続けばそれに伴う資料も必要だ。
それらの作成を他三人で期日きっちりに仕上げなくてはいけない。
しかも、前例のない事業だ。
それぞれが担当を持つが、ひとりで企画運営できる内容でもない。
サブに当てがわれている職員と一緒に相談しながらの企画は時間がかかる。
複数の事業を重複して担当しているものだから、何がなんだか分からくなって一瞬見失う時もあるくらいだ。
「田口、取り込んでいるところ悪いが、おれの企画の相談に乗ってくれ」
安齋に声をかけられて、ふと顔を上げる。
安齋が担当になっているオープニングセレモニーのサブは田口だ。
「わかった」
自分の書類作成の手を休め、大堀の席に移動する。
「出演者の選定をしているところなのだが。少し悩んでいてな」
「……悩むとは?」
「誰を入れるか入れないかだ。このリストのメンツを」
安齋に渡された書類を眺めていると、ふと彼の視線を感じる。
「何か」
「いや」
安齋は「やめようか」という雰囲気だったが、首を横に振って田口を見つめ返した。
「室長。今日みたいな感じの時は聞いていないのだな」
「え?」
田口は昼間の出来事を思い出す。
「ああ。そうだ。前からそうだ。上の空の空返事は聞いていない。多分、ちゃんと目の前に出さないと、意識にも上っていないから、そのまま忘れ去られるだけだ」
「なるほど。いつもあちらこちらに気を使っているタイプなのかと思ったが」
「夢中になるとそのままだ。放っておくと、明日の朝になっても同じ仕事をし続ける」
「それは面白いな」
「周囲がハラハラするものだ」
微笑を浮かべると、安齋は目を瞬かせる。
「お前」
「え?」
「あんまり表情変わらないけど、よく見ると分かるな」
「何?」
安齋は愉快そうに頷く。
「なるほど、なるほど。明日からよく観察してみることにしよう」
「やめろ」
「面白いではないか」
「おれは面白くないぞ」
「お!そんな怒った口調も出すのか」
「安齋、からかうなよ」
彼は笑う。
「いや。前回は数日一緒に課題をこなしただけだったからな。同じ部署にいると、よく見えるものだ」
「それはそうだろう。ここで一緒に過ごす時間のほうが断然長い」
「だな。プライベートの付き合いをしている奴よりも、か」
「付き合いって。お前恋人いるのか?」
田口は意外だ。
安齋という男は、人にプライベートを見せるようなタイプには見えないからだ。
一人で気ままにやっていそうなのに。
「そう見えるか」
「見えない」
正直に答えると安齋は、笑いだす。
「お前は本当に馬鹿正直」
「それだけが取り柄だ」
「だろうな」
田口は書類を安齋に渡した。
「全て入れたほうがいいと思う。おれだったら入れる」
「そうか。ではそのようにしよう」
「いいのか。おれの意見で」
「室長の好みを重々承知しているのはお前だ。そのお前がそう判断するのだから間違いない」
安齋はそう頷くが、田口は苦笑するしかない。
「おれの書類なんて添削ばっかりだ。当てにするなよ」
「そうか。おれたちよりは断然少ない。室長に育てられてきたのだろう?お前が一番理解している」
そういう風に見られているのか。
確かに。
保住に育てられてきた。
彼が言いそうなことは、理解しているつもりだ。
「それにしても、わざわざ一緒に連れてくるくらいだ。随分な可愛がりようだな」
「落ちこぼれだ。心配してくれているのだろう」
「落ちこぼれなんか連れてこられるほど余裕のある部署ではないがな」
安齋の言うことは、最もだ。
田口は黙り込んでから自席に戻った。
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