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第2章ー03 一緒に行こう?
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「それより。室長って結婚しているのか」
「え?」
「お前なら知っているのだろう?薬指ではないが指輪をしている。男はそういうものは好まない。していても着けていない奴も多い。おれたちより付き合いが長いのだ。室長のプライベートを知っているのだろう?」
安齋が無駄話をすることは、滅多にない。
だから、怯んでしまった。
「えっと」
「何だよ。煮え切れない返答だ。知らないのか」
「いや。未婚だ」
「そうか。モテそうなのにな。彼女程度か」
「……人気はあるのではないか。おれは知らない」
「プライベートの話はしないタイプか。なるほど」
「そういうのではないだろうが……。おれがこんなタイプだ。つまらない男だからな」
「確かに」
肯定か。
田口は苦笑いだ。
そういう安齋だって、つまらない部類に入ると思うけど。
内心そう思っていも、黙って様子を見る。
こういう話題に妙に乗っかってしまうと墓穴を掘りかねない。
それでなくても、安齋も大堀も能力が高く察しがよい。
二人の関係を知られでもしたら大変なことになる。
この部署に来てから、その件に関して細心の注意を払っていたのだ。
言葉で出ない分、雰囲気でばれた経験があるからだ。
前職で後輩の十文字にその件を指摘された時は、本当に驚いたものだ。
気を付けないと。
そう思う。
パソコンに向かった時。
賑やかな声が響いてきた。
大堀たちが帰ってきたのだろう。
「いやあ、疲れました。室長。今日は帰ってもいいですか~?」
陽気な声の大堀。
疲れているようには到底聞こえないけど。
田口と安齋は、顔を見合わせた。
「お疲れ様です」
腰をトントンしながら帰って来る保住とその後ろをにこにこしてついてくる大堀。
対照的だった。
「疲れた……」
「随分長引きましたね」
田口の言葉に保住は、椅子に座って大きくため息だ。
「まあ、愚痴はなしにしておこう」
「え~、文句たくさん言いたいですけど」
「大堀、疲れた。おれは帰る」
「え~」
彼はみんなを見渡す。
「なんだ、みんな残って」
「仕方ありません」
「終わりのない仕事ですからね」
田口と安齋の返答に保住は、苦笑した。
「それはそうだな。終わりがないのならいいだろう?今日は店じまいだ」
彼の言葉に大堀は、嬉しそうに手を上げる。
「パソコン立ち上げるの面倒だし。今日は終わります!」
「大堀は、いつでも店じまいできるだろう」
「んなことないし。腹減ったし」
ぶうぶう唇を尖らせて彼は、安齋に抗議する。
いつものパターンだ。
保住はマイペース。
安齋は大堀をからかって遊ぶ。
からかわれて大堀は、本気で怒り出す。
そして、田口は黙って様子を眺めるのだ。
「よーし!今日は飯でも食って帰るか」
急に、保住が背伸びをして大きな声を上げた。
「お疲れ様です」
「何食べるんですか?」
安齋と大堀の言葉に彼は、きょとんとして一同を眺める。
「え?」
「?」
「え?」
「一緒にいくんだよ。みんなで。ね?」
保住は首を傾げた。
それを見て安齋や大堀は、赤面。
「何?」
「い、いや」
「室長って、そんな可愛い仕草するんですね……」
大堀はあんぐりと口を開けて呟く。
「え?」
田口は気が気ではない。
可愛い仕草なんてしないでもらいたい。
本当に自分のことを気がつかなさすぎだと内心苛々としてしまう。
それに気がついて欲しくて、田口は咳払いをした。
「どういう意味?」と田口に助けを求めてくる保住だが、救いようもなく。
彼の無防備さは健在。
田口はパソコンを閉じた。
「いいですよ。お伴いたします」
彼の潔い返答に、残りの二人も片付けを始めた。
「ここに来て、みんなで食事はないですもんね」
「そうそう。みんなが初めて。歓迎会もなにもあったもんじゃないし」
「親睦会ですね」
田口もそれに沿えるが、保住はそんなつもりはなかったようだ。
きょとんとした顔をしていたが、遅れて笑顔を見せる。
「そういうことにしておこう」
ただ単に帰って食事作るのが面倒。
そういうところだろう。
田口はあきれて、大きくため息を吐いた。
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