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第2章ー09 綻び
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事務所に戻ると、疲労がどっと押し寄せてきた。
四人はげっそりしながら椅子に腰を下ろした。
「あの人、なんなんですか?あの緩くて纏まらない感じ」
文句を言っても仕方がないのかもしれないが、言わずにはいられないのだろう。
大堀は大きくため息を吐いた。
「あんな人に調整なんて業務が務まるのでしょうか?」
内心は同感だが、立場上同意は出来ない。
「そう言うな。これから世話になる。使いようだ」
「使い物にならなければ、使いようもなにもありません」
「安齋。口にしていいことと悪いことがある。気を付けろ」
保住に咎められて、彼は不満そうな顔色を浮かべた。
1ヶ月が経ち、お互いが少しずつ慣れてきているせいで、取り繕いに綻びが出てきているようだ。
大堀は仕事は細かく熱心だが、忍耐力がない。
直ぐに無駄口を叩くし、集中できない様子も見て取れる。
まあ、電話にだけはよく出てくれるから助かるが、それも飽き性が為せる技だ。
安齋はともかく自信過剰。
手直しした資料を素直には直さない。
素直ではない性格と、保住に対する反抗心からくるものだろう。
こうして座っていても、彼からの視線は敵意が含まれている。
まだまだ上司として認めるわけにはいかない。
そう言うところだろう。
田口も田口だ。
元々、新しい環境に慣れるのに時間がかかるタイプ。
保住がいることで、少しは緩和されているが、心が浮ついているのが見て取れる。
三者三様。
そして自分もか。
今までは恵まれてきたのだと実感する。
高梨に始まり、財務部財政課長の廣木(ひろき)とは、仕事がやり難い。
出会ったばかりと言うことではない。
高梨はただの無能力。
廣木は自分への感情からの否定が多い。
「取り立てられるとやっかまれる」と澤井に言われたことを思い出す。
みんなに好かれようとは思わないが、仕事が進まないのは苛立ちの元になるのだ。
観光部観光課長の佐々川(ささがわ)もまた、読めない男だし。
唯一、連携が図りやすいのが、古巣である教育委員会文化課というのは何とも悲しい話であるのは確かだ。
頭が痛むのは仕方のないことか。
そんなことを考えていると、不意に自分の手元の電話が鳴る。
「はい、保住」
相手は、つい先ほど思い描いていた男。
『観光課の佐々川です』
「お疲れ様です。佐々川課長、何か?」
『お宅から提出された書類ね。ちょっと気に食わないから、受け取りたくないんですよ』
提出書類?
そんなもの。
出した覚えがなかった。
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