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第3章ー05 自分のやるべきこと
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「田口は、世間一般的に見ると、模範職員」
「模範ですか」
「真面目で堅物。ちょっと頑固で扱いにくいところもあるけど。だけど、実直でまっすぐ。そこがいいところ」
無表情で褒められても。
なんだか褒められている気がしない。
「はあ……」
お弁当を平らげるとふと笑む。
幸せそう。
「美味しかった。ご馳走さま。保住にそう言っておいて」
「保住さんが作ったって、何で分かったんですか」
「お前が大事そうに抱えていたから」
「鋭いですね」
彼はパイの詰まった大袋を田口に押し付ける。
「やる」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ」
それだけいうと、お菓子を抱えた野原は廊下に姿を消した。
本当にマイペース。
手元に残ったパイのお菓子。
袋を開けて一つ食べる。
お腹。
空いていたらしい。
パイは、そんなに好きじゃないと思っていたのに。
美味しい。
野原の話。
自分の悩みを知ってか知らなくてか。
でも、何だかもやもやしていたものが少しだけスッキリした気がする。
同期だからなんだ。
たまたま同じ年に入庁しただけの関係だ。
仲良くならなくてもいい。
自分は、何のために今の場所にいる。
それは、自分のため。
そして、保住のため。
市民のため。
市役所職員としてだ。
自分に課せられた仕事を全うするだけでいい。
それだけの話だ。
何を気に病むのだ。
自分らしくもない。
もう一つパイを食べる。
何だか俄然やる気が出てきた気がする。
自分が思い悩んでどうする。
保住を守ると決めたのだ。
安齋も大堀も、自分よりも頭の回転の速い男たちだ。
もたもたしていたら出し抜かれて、足元を見られる。
仲良くしよう、だけではうまく務まらないのも理解している。
だったら。
自分のペースで自分の仕事をするだけだ。
彼らにどんな言葉を言われようと知ったことではない。
事実は、事実だ。
保住が自分を大事にしてくれているのだって知っている。
過保護がなんだ。
もう一つパイを食べる。
もう一つ。
もう一つ。
結局。
大袋のお菓子を全部平らげてから席を立つ。
やれることをやる。
それだけ。
廊下を通り抜け、自分の部署に帰ると、保住がちょうど帰ってきたところだった。
「お帰りなさい」
誰よりも先に声をかける。
「すまない。遅くなった」
「室長、待っていたんですよ〜」
大堀は嬉しそうに保住のもとに駆け寄る。
書類を見てくださいと言わんばかり。
それを見て田口は大堀を制する。
「昼休憩だろう。後にした方がいいぞ。大堀」
「え〜」
大堀の強引さに書類を受け取ろうとしていた保住は、はったとして頷いた。
「そうだった。お腹空いた。急いで食べるから少し待て」
「は〜い……」
渋々と大堀は席に戻る。
昼食時間。
安齋は基本的に自席にはいない。
大堀は一人でつまらなかったのか。
田口も保住も戻ってきたので、嬉しそうになにやら話をしていたが、あまり相手をすることは出来なそうだった。
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