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第4章ー03 大堀、離脱
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「使い込みとはなんだ。変な言いがかりはやめろ」
「じゃあ、どうする気?分かった。おれを出し抜いて、その予算で室長の決済をもらう気だな。そんなことさせないからね!おれの方が先に企画書決済もらうんだから」
「おいおい。同じ部署同士で競いあってどうする。足並みを揃えないと」
田口が仲裁に入っても、騒ぎは収まらない。
「うるさい。部外者は黙れ」
「部外者って……」
「そうだよ。これは田口にだって関係することでしょう?何言ってんの?安齋。頭おかしいんじゃない」
「お前にきちがい扱いされてたまるか。童貞野郎」
「ちょ、ちょっと!職務中にそれはないよね!?」
騒ぎはエスカレートしてくる。
そんなに広いスペースでもないし、もともと市民が出入りして賑やかなフロアでもない。
この部署の騒ぎは、他部署の職員たちも注目するほどの騒ぎだ。
「あのね、前から思っているけどさ。自分だけが出来る人間です的なスカした態度、気に食わない」
「仕事中に人の人格を否定するような言葉を吐くとは。人事に訴えるぞ」
「そっちが先でしょう?売り言葉に買い言葉だ。おれは悪くない」
「大堀も安齋も、止めないか」
「うるさい」
「田口だってそうだよ!室長のお気に入りだからってさ。もうやだ!おれ。この仕事降りる」
「大堀!」
大堀は顔色が悪い。
本気で怒っている様子だ。
田口は、二人の間に立ち塞がって物理的に遮断した。
「いい加減にしないか。二人とも」
田口の低い声色に、さすがに安齋は黙る。
大堀はまだまだ言い足りなそうにしていたものの、不本意な顔をして口を閉ざした。
「張り合うところではないだろう。違うか」
「しかし」
「だって……」
安齋と大堀は相性が悪い。
田口だって、誰かと仲良しというわけでもない。
この部署は、出来る人間が集められている分、プライドが高い人間同士ということだ。
協力して仲良くという雰囲気ではないことは確か。
「同じ部署内で予算の取り合いをしてどうする。きちんと話をしていかないと」
「おれは、そういう仕事の仕方は嫌いだ」
安齋はそっぽを向く。
「今までだって一人でこなしてきた。こんな奴の助力なんているか」
「頭下げたって絶対に協力なんかしてやらないんだから!」
「誰が頭なんか下げるか。お前が泣きついてくるだけだろう」
「うるさい!」
これ以上、事が大きくなるのは得策ではない。
田口は無理やり二人の腕を引く。
「ここでは話にならない。冷静に話し合いをしよう」
「誰が」
「こんな奴と」
三人で揉めていると、首を掻きながら保住が顔を出した。
「お~。お祭り騒ぎだな」
「室長!」
田口は泣きそう。
勘弁してよ。
「室長、こんな奴と仕事はできません。大堀を外してください」
「な、安齋が異動すればいいでしょう?何言ってんの!?」
保住の前でまで揉める二人。
我慢の限界か。
大きくため息が出る。
「そんなに怒らなくてもいいだろう」
保住の言葉に大堀は机を叩いた。
「我慢の限界です。休み、不足しています。今日は帰らせてください」
「大堀」
彼はがさがさと書類をまとめると、パソコンを閉じて出ていく。
「室長、いいんですか」
田口は大堀を引き留めようとするが、保住はそんな彼を止めることなく見送った。
「うるさい奴がいなくなってせいせいです」
安齋は、咳払いをするとパソコンに向かう。
「安齋も……」
田口は大きくため息。
保住も同様だ。
「田口、仕事しろ」
「は、はい……」
いいのだろうか。
これでいいのだろうか。
メンバーが席に着いて仕事を始めた様子を見て、周囲の雰囲気も落ち着きを取り戻す。
なんとも後味の悪い出来事だった。
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