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第4章ー06 全ての人間が嫌いな男
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安齋の企画書は手直しが少ない。
安齋や大堀からしたら、「田口は直しが少なくて贔屓されている」と言うかもしれないが、なにせ彼の書類は数年かけてある程度まで持ち上げたのだ。
それに比べて、出会って数ヶ月の二人の書類は、田口の最初の頃に比べたら雲泥の差。
前職で吉岡や水野谷にきちんと指導されたのか。
はたまた元来の才能、センスなのかは分からないが、比較的出来上がっているのは確かだった。
大堀は前職が財務だったので数字に強い。
欠点は文章がくどいことだ。
安齋の場合は、スマートな書類を作る。
無駄がないというところだろうか。
ただ、そのおかげで冷たさや、閑散とした雰囲気が漂う。
公文書なのだからそれでもいいのかもしれない。
だけど、田口の文章とは違う。
保住は田口の作る文章が好きだ。
感情のこもった、熱意が読み取れる文章。
下手な表現も多いけど、なんとなく引き込まれてしまう。
事務的な安齋。
くどい大堀。
熱意のある田口。
三者三様だ。
そんなことを考えながら二階の副市長室に向かう途中、懐かしい人に出会った。
「係長、いや、保住室長」
声をかけられて顔を上げると、数ヶ月前まで同僚だった谷口と十文字がいのだ。
「谷口さん、十文字」
「お疲れ様です」
「なんだか、何年も会っていないみたいな気がしますね」
二人は嬉しそう。
保住もなんだか内心ホッとしてしまう。
「元気そうですね」
「係長、いや、室長がいなくなってから、大変なんですよ!」
「そうそう、怖い人が来たり」
「怖い?」
「そうそう、こんな感じ……」
谷口は側の安齋を見て笑うが、彼が笑っていないことを確認して黙り込んだ。
「ごめんなさい」
「安齋……」
保住は苦笑する。
「冗談が通じない人っているんだ……」
そこに輪をかけて十文字が余計なことを言う。
馬鹿にされているみたいで面白くないのか、安齋は黙っているばかりだ。
「すみません、これから会議で」
「また澤井副市長ですか?本当、保住室長がお気に入りなんだから。田口がヤキモキしちゃいますね」
「そうですね」
十文字も頷くが保住は、笑うしかない。
「そんなことは……仕事ですから」
すっかり話し込んでいる三人を冷ややかに見つめていた安齋が声を上げる。
「室長、時間が」
「そうだった。では、また」
「お疲れ様です!」
「飲みに行きましょうね!」
二人はブンブンと手を振って見送ってくれる。
それに手を振り返しながら保住は、歩き出した。
後ろをついてくる安齋は「学生のノリですね」と悪態を吐く。
保住は苦笑いをしながら歩いた。
安齋には何から何まで気に食わないのかも知れない。
「大堀が嫌い」ではなく、誰彼構わず嫌いなのか。
保住はそう思う。
そうか。
彼は特定の人間が嫌いと言うよりも、自分以外は嫌いなのかも知れない。
そんなことを思う。
副市長室の前に立つと、ノックをする前に扉が開いた。
顔を出したのは、天沼だった。
「お待ちかねです」
「遅くなりました」
保住は軽く会釈をしてから副市長室に入る。
「遅い、足が短いとか言うな。明らかに遅刻だ」
澤井の重低音が響く。
機嫌を損ねたところで、安齋の初プレゼン。
いささかの不安を覚えながら保住は、副市長室に足を踏み入れた。
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