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「傷、消えた。急激な治癒で熱かった?」
ゼロの言葉に指先へと視線を向けると、言った通り傷痕など何処にもなかった。
「……嘘……だろ?」
「これで信じた?」
上手く口が動かず再びゼロを見つめ、その答えができなくて息を飲んだ。詰まって苦しい息を一度深く吸い込み、鼓動を落ち着かせる。
「ここへ何をしに来た」
俯いていた顔を上げて落ち着いた声音で問うと、真剣な眼差しで瞳を覗き込まれた。
「言ったろ? 結婚してくれって」
「だから俺は男だと」
「そんなの関係ねぇよ。鈴に惹かれたんだから」
否定を遮って主張し、真っ直ぐ向けてくるゼロの視線から、顔を背ける事で逃げる。このまま見つめていたら流されてしまう。
「気安く名前で……っ」
早く突き放さなければ。
そう思って言いかけた所で言葉が詰まった。
ゼロが掴んだ鈴の手を自分へと引き寄せ、手の甲に頬を擦り寄せるから。
「結婚相手の血を吸ったら、血の繋がりをもって永遠の愛を誓うんだ。俺の世界ではね」
「っ……、だったらこんな回りくどい事しないで、吸ったらどうだ。そうしたら俺は逆らえなくなるんだろ」
真剣にじっと瞳を見つめられて再び息が詰まる。
彼が本当に吸血鬼ならば、たかが人間の自分は抵抗すら無意味だ。血を吸われて、ただで済むとは思えない。
悔しそうに眉を寄せて睨み上げると、鈴の強い眼差しに驚くゼロ。雰囲気で感じ取ったのか、ふっと苦笑して両手を上げ、意思表示をした。
「ここまでやっといて何だけど、そこまで無理強いはしたくない。鈴が好きになってくれるまで待つよ」
「だからっ」
一体、どこから沸いてくるのだろう、その自信は。
否定しようと勢い良く開いた口は、響く校内放送に止められた。
『水無森会長、至急生徒会室までお願いします』
聞き慣れた生徒会からの呼び出し。放送終了のメロディーと共に詰めた息を吐く。次の瞬間、先程のやりとりが嘘みたいにポーカーフェイスに戻る鈴を見て、ゼロが気まずそうに頭を掻く。
「教室まで帰れるな?」
「ん、ああ」
再度視線を合わせてそう確認すると、何も言わずに去って行くと思っていたゼロは嬉しそうに笑って頷いた。心配されたのが意外みたいな感じで。
──……何でこんなに笑えるのだろう
普段でも取っ付きにくいと言われるが、先程は意識して特に冷たくした。しかし、ゼロは人懐っこく笑ってる。
そういう人間を基本的に放って置けず、それでも関わりを持ちたくなくて、返事を聞いたらさっさとその場を後にして行く。
なのに
「……それから」
校舎内へ戻るドアの前で、不意に立ち止まった。
これだけは言わないと引っ掛かってすっきりしない。
一旦言葉を止めて静かに振り返る鈴を、ゼロは首を傾げて待っていると、綺麗な唇が意外な言葉を伝えた。
「試す態度は感心しない」
それだけ言うと、きょとっとするゼロを置いて中へ戻って行った。
「……マジかよ」
鈴の反応を探る視線に気付いていたのか。無関心ならば気付かないはずの眼差しを。
「怒ってるくせに……けっこー優しい奴」
怒っているのに関心を向けられたのが嬉しくて、口許を緩めながらゼロは空を見上げて呟いた。
「……で?」
疲れる一日をこれで終えるはずだったのに。今ここは安全な自宅のはずなのに。
また家の中は変わったご様子で。
「お前、何で家にまでいるんだっ!?」
リビングのドアを開けて視界に入ったのは明らかにゼロだ。下二人と呑気に「おかえり」なんて言ってる顔は間違いない。
「あれ? 鈴兄聞いてなかったっけ? 今日から卒業するまで一緒に住むんだって」
「……いつ話した」
「皆バラバラ」
ゼロの代わりに説明する千鶴の隣で奏が頷いている辺り、聞いてなかったのは鈴だけのようだ。
──母さんの話忘れか……
もう今更の事を何も言わないが、額に手を当てて溜め息を吐く。大事な内容も事後承諾なのはいつものこと。
「しかし、何で家に……」
「零君の両親、うちのお母さんと知り合いだったんだって」
「!?」
痛む頭を押さえて呟くが、答える千鶴の言葉に驚いてチラっとゼロを見る。鈴の視線に気付いた彼は、椅子の隣に置いた鞄を持って立ち上がった。
「ご馳走様、千鶴ちゃん」
「あ、ううん。良いよ」
ゼロが笑ってお礼を言うと、千鶴もつられて笑う。その後ろでドアノブが捻られた音がして振り返ると、鈴がリビングを出て行くところで。
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