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反転した世界で
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「あ、じゅんさん起きましたか?
安心してください…ここには僕しか居ないので。」
目を開けるとそこは、鉄に囲まれたひんやりと冷たい空間だった。
硬いベッドの上に寝かせられていて、
裸の電球は今にも消えそうな弱々しい光を放っている。
「何……俺監禁でもされんの…。」
「ちっ、ちが!違います!ここ僕の部屋です!」
「…?お前の…?」
こんな檻みたいな所…何が部屋だ笑わせんな。
──そう思ったところで思い出した。
以前、こいつが…いや、
Ωという性がどのような扱いを受けていたのか。
「…はい。正式には家の地下で…唯一僕が生活することを許されている場所です。」
小さなテーブルと、それから冷蔵庫。
あとは俺が寝ているこのベッドだけ。
随分と殺風景なここはとてもじゃないけど居心地が良いとは言えなくて、
こんな部屋で、それも1人で、一体どれだけ孤独で辛かったんだろう……なんて。
以前の俺では全く気にも留めなかったであろう事を思った。
ふと、腕を見れば先程容赦なく縛り付けられた時に出来た怪我はきちんと治療されていて、
痛みこそあるものの、そこかしこにガーゼや包帯を宛てがわれている。
そもそもお前、死んだんじゃないのか。
志貴を車に突っ込ませるくらいαを憎んでたんじゃないのか。
……俺を、憎んでたんじゃないのか。
「……どうして俺を助けた。」
名前も忘れたΩは苦しそうに笑った。
「じゅんさんが、近くにいるって匂いで直ぐにわかりました。
…僕はじゅんさんに番われた身なので…。」
Ωの表情はあの頃と同じように、
少し熱を帯びていて色っぽい。
別に今更隠すものでもないが、
下半身に疼きを覚える俺の身体もこのΩと同じ。
互いに反応しているんだろう。
番……。
あんな擬似的なものでも、
完全とは言えないまでも影響は受けるということか。
「許して欲しいなんて言わねえ。許されるもんじゃ無いってこともよくわかってる。でも……。」
身体を起こし、真っ直ぐにΩに向き直した。
よかった、多少痛いけど骨は折れてなさそうだ。
「悪かった。本当に……あの時、酷いことして…ごめん。
何も知らなかった。知ろうともしなかった。」
この冷たい部屋から、毎日のように迫り来る恐怖から、
君は一刻も早く逃げ出そうと必死だったんだろうか。
君のたった一つの希望だったんだ。
αと番うのが、唯一この暗闇から抜け出せる方法だったんだ。
当時の俺達とは違う、選ぶ権利もない立場の中で差し込んだ
一筋の光だった。
それをこんな状況になって、ようやく理解が出来た。
……頭が悪いのは俺だ。
「僕があなたに噛まれて死にかけたのは本当です。
…でも、医師の父親のおかげで何とか一命を取りとめました。
初めて父が、僕の為に必死になっている顔を見ました。
こんな僕でも……愛されていたんだって…。」
Ωの瞳から零れた雫を、思わず唇で受け止めた。
胸の奥が…締め付けられるようなこの感覚。
こんなにも、このΩを求める俺がいる。
こんな気持ち、俺は知らない。
番紛いの関係だからとか、今では恐ろしくも感じてしまうΩに助けられたからだとか、そういうのじゃない気がして。
──孤独にはもう、耐えられなかった。
そして孤独に耐え続けた君は……俺よりずっと、強い。
「……抑制剤、いつもより多く飲んだんですけど
それでも身体はじゅんさんを求めてしまうんです…。」
“身体は”とお前が言うのなら、それでいい。
「じゅんさんの事…1度でも、
忘れることなんて出来ませんでした…っ。」
それが憎しみだろうが、本能的な欲求だろうがどうだっていい。
「今から…抱くから。……首は守って。」
脱いだシャツを強く噛み締める。
これを離さなければ、今度こそこのΩを苦しめることは無いはず。
俺に抗うこと無くベッドに乗り上げたΩを、
可能な限り優しく抱き締めた。
こんなに細い身体で、
命を危険に晒した俺のような人間を想い、
助けて、そして身を委ねるなんて。
どんなに苦しい世界で生きてきたんだ。
どんなに悲しい強さを、身に付けてしまったんだ。
俺は、俺の恋人を殺めようとしたΩに、惹かれていた。
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