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珈琲の香り
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扉の開く音で目が覚めた。
ポケットのスマホに光を灯せば、それは朝の10時を指している。
昨日あのまま……一体何時間寝たんだよ俺は。
床に枕を敷いただけのこの体勢は流石に怪我をしている身体には堪えたようで、
節々が痛くてしんどい。
ただ、こんなになるまで爆睡をしていたのは紛れもなく夏咲のお陰で
こんなに眠れたのは久しぶりだった。
「っ、ごめんなさい…起こしちゃいましたか?」
「謝んなくていいよ夏咲。…寝すぎたくらいだ。」
夏咲の手には湯気の上がるカップが2つ。
珈琲の芳ばしい香りが部屋に広がった。
「淹れたてなので…まだ、熱いと思います。
もし、飲まれるならお気をつけて…。」
夏咲の不自然な程に低姿勢なその台詞。
Ωとして生きて来た、劣等種として生きて来た彼の、
知らぬ間に身についてしまった言い回しなんだろうか。
「…ん、美味い。濃さも味も俺好みだ。」
「!!……よかったです。」
ならば俺は、そんな夏咲に優しくしたい。
恩人として。
俺と同じ、一人の人間として。
でも、夏咲の表情は昨夜に比べてどこか苦しそうに見えた。
どこか悲しみや不安を帯びているような。
「どうかした?夏咲。」
「あ、……えと…。」
テーブルの前で正座をしていた夏咲は、
かちゃんとコーヒーカップを置くと何度か深呼吸して
ようやく俺の目……の、少し下の辺りに視線を向けた。
「昨日の今日で……僕も驚いたんですが…。」
「……ん?」
「……目、覚ましたそうなんです……志貴さんが。」
「…っ。それ、本当…?」
猫背気味の背中を更に丸めた夏咲がすごく小さく見えて、
今にも零れ落ちそうな雫が夏咲の目元を光らせる。
息の仕方を忘れるとは、こういう事なんだと思った。
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